トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed
日刊サイゾー トップ > エンタメ > ドラマ  > 『極悪女王』ゆりやん鈴木おさむの化学反応

『極悪女王』ゆりやんレトリィバァと鈴木おさむ「ストイック」と「節操ナシ」の化学反応

ゆりやんレトリィバァ(GettyImagesより)

 ゆりやんレトリィバァを見くびっていた。

 数年前、ゆりやんがNetflixのドラマでダンプ松本の役を演じるために、40kgも体重を増やしているというニュースがあった。仕掛け人は、大物放送作家の鈴木おさむだという。

 そのとき、ゆりやんは被害者だと思った。せっかく健康的にダイエットを成功させていたのに、鈴木おさむと吉本興業によって再びブクブクと太らされて、かわいそうだ。このニュースに対する世間の論調はそのようなものだったし、私自身もそう感じていたことは否定できない。

 その後、ゆりやんが100回以上もマットに頭を打ち付ける撮影で頭痛を訴え、緊急入院したと報じられ、被害者のイメージに拍車がかかった。その報道から2年たった今月19日、ドラマ『極悪女王』の配信が始まった。

『極悪女王』は、ネグレクトの被害者だったひとりの少女がプロレスラーを志し、最恐のヒールへとのし上がっていく物語だ。リングの上で凶器を振りかざし、度重なる反則技でアイドルレスラーを血祭りにあげるダンプ松本の姿は、間違いなく加害者である。誰もがプロレスに夢中だった時代だ。ダンプの加害に対し、テレビ局にもプロレス団体にも、ダンプの実家にも、抗議と嫌がらせが殺到したという。元来、人のいいダンプこと松本香というひとりの若い女性は、それでもヒールという職務を全うし、狂気を演じ続けた。

 つまり今回、ゆりやんが演じたダンプ松本役は「狂気を演じた者を演じる」という難役である。そのあどけなさと残虐性のコントラストにおいて、ゆりやんは画面上でダンプ松本を再現することに成功していたと思う。被害者などではなかった。オーディションで自ら役をつかみ取り、その仕事を完遂した俳優・ゆりやんレトリィバァの姿がそこにあった。

「もうやめろ、そこまですることないだろう……!」

 クライマックスの試合シーンで唐田えりか演じる長与千種の頭部に幾度となくフォークを突き刺すゆりやんに、ダンプに、小学生のころにリアルタイムで感じた恐怖と怒りが蘇ってくる。プロレスを見ている。体験している。この臨場感をドラマで実感することは久しくなかった。

■鈴木おさむと松永3兄弟の類似性

 ところで、冒頭に記した「ゆりやんは被害者」という感情に少なからず寄与していたのが、鈴木おさむというクリエイターのパブリックイメージである。そのイメージとは、言葉にするとひどいことになるが、「軽薄で節操ナシの拝金主義者」というものだ。実際はそんなことはないのだろうけれど、なぜだか(特にお笑い好きの間では)鈴木おさむにはそうしたイメージが付きまとう。

 ドラマの中でそのイメージを体現していたのが、団体を牛耳る松永3兄弟である。エースだったビューティ・ペアの人気に陰りが見えれば引退をかけて2人に試合をさせるし、勝ち残ったジャッキー佐藤にも躊躇なく引導を渡す。

 あらゆるギミックを駆使して少女たちの情熱を操り、金に換えていく松永3兄弟が劇中で、いつになく真剣なまなざしを見せるシーンがいくつかある。

 それは、まだ名もない少女たちの中に、スター性を見出す瞬間である。長与千種、ライオネス飛鳥、ダンプ松本、後のスーパースターたちは決して大人たちにゼロから作られた偶像ではなく、自ら強く発光し、勝手に輝き出していたのだということだけは、このドラマは丹念に描いている。

 ウソだらけなのにウソがない。ウソがいつしか本物になる。プロレスもドラマも同じだ。

 お笑いの世界で「ストイックな求道者」として生きてきた芸人・ゆりやんレトリィバァと、鈴木おさむという節操ナシのクリエーター。その2人がプロレスという特殊な世界観を媒介にして出会い、化学反応を起こした。『極悪女王』は、そういうドラマだった。

 そして、信じられない精度で再現された志生野温夫の実況が聞こえる。

(文=新越谷ノリヲ)

新越谷ノリヲ(ライター)

東武伊勢崎線新越谷駅周辺をこよなく愛する中年ライター。お笑い、ドラマ、ボクシングなど。現在は23区内在住。

n.shinkoshigaya@gmail.com

最終更新:2024/09/21 14:00
ページ上部へ戻る

配給映画