『SHOGUN 将軍』『地面師たち』の成功で…「日本のドラマがつまらない理由」浮き彫り
#Netflix #Shogun
俳優の真田広之がプロデュースし、主演を務めたDisney+のオリジナルドラマ『SHOGUN 将軍』がアメリカテレビ界のアカデミー賞といわれるエミー賞で史上最多の18冠を獲得した。オーセンティック(本物志向)な日本表現にこだわり、時代劇の経験がある日本人スタッフを招くなど、日本の上質な時代劇をハリウッドスケールで制作したことが世界的な評価につながったと指摘されている。
同ドラマは、徳川家康にインスパイアされた戦国武将・吉井虎永(真田)を中心に、くせ者ぞろいのキャラクターたちが天下獲りに向け陰謀と策略を張り巡らせる物語。これまでも日本をテーマにした海外のドラマや映画はあったが、欧米における日本のイメージは「スシ、ニンジャ、ゲイシャ、アニメ」といったレベルで長らく停滞し、セットや小道具なども日本と中国を混同しているケースが多々あり、日本人役を中国や韓国などの他のアジア系俳優が演じることも珍しくなかった。
真田はオーセンティックな日本表現にこだわった。日本人役をしっかり日本人キャストで固め、当時の日本語の言い回し、カツラ、衣装、セット、所作などもオーセンティックにするため、日本から多くのスタッフを招き入れた。セリフも7割が日本語で、いわば日本の時代劇をハリウッドの予算とスケールで撮影した作品ともいえるが、それが米ドラマ界の頂点に立ったのだ。
これを受けて、業界内やネット上では「日本のドラマがつまらないのは役者やスタッフのせいではなかった」との見方が強まっている。
近年、配信サービスの浸透もあって欧米や韓国などのドラマが日本で流行し、世間的には「日本のドラマよりはるかにクオリティが高い」という認識が広まっていた。日本のドラマが見劣りする理由として「役者が下手だからではないか」「スタッフのレベルが低いのでは」といった意見もあったが、日本からキャストやクルーを多数招いた『SHOGUN 将軍』が世界的評価を獲得したことで、それらは否定されたともいえる。
結果、日本のドラマがパッとしない大きな原因は「予算が少なく、こだわって作品を作る余裕がないから」である可能性が高まったといえるだろう。
これを裏付けるように、海外資本の「日本ドラマ」が隆盛の気配となっている。7月にNetflixで配信された『地面師たち』は、出演者からスタッフまで日本人で占められた「純国産ドラマ」といえるが、豊川悦司らキャストたちの圧倒的な熱演と、画面から漂うヒリヒリするような危ない雰囲気で多くの視聴者を魅了。Netflixの「今日のTV番組TOP10(日本)」で長らく首位をキープし、グローバルでも週間3位に入るなど、配信系の国産ドラマとしては過去最大レベルのメガヒットとなった。
劇中では、豊川演じる地面師グループの狂気的なリーダー・ハリソン山中が集めているヴィンテージウイスキーが出てくるが、総額4000万円ほどといわれるウイスキーはすべて本物がそろえられた。こうした細かいこだわりの積み重ねが画面にリアリティを与えるのだろうが、予算が乏しくスケジュールもせわしない日本の地上波ドラマではできないことだろう。
9月19日からは、同じくNetflixで80年代の女子プロレスブームをけん引した稀代のヒールレスラー・ダンプ松本の知られざる物語を描く『極悪女王』の配信が始まったが、これも視聴者から称賛の声が続出。国内最大級の映画レビューサイト「Filmarks」では、20日時点で5点満点中のスコア4.1を記録している。
先述した『SHOGUN 将軍』の制作費は1話あたり約10億円、『地面師たち』は1話あたり約1億円とされている。日本のドラマは海外展開をあまり意識していないこともあり、ゴールデン・プライム帯で1話あたり3000万円~4000万円とされる。これでは、いくらキャストの演技力やスタッフの技術が高かったとしても『SHOGUN 将軍』や『地面師たち』のような作品を生み出すことはできないだろう。
日本の各テレビ局は『SHOGUN 将軍』のエミー賞での偉業を大々的に報じていた。しかし、この偉業は見方を変えれば、日本のテレビ局が海外戦略を怠ったことで予算がどんどん厳しくなり、しわ寄せがいった現場の「本来なら海外でも評価されるレベル」のスタッフやキャストが実力を十分に発揮できない状況をつくってしまったことを証明したともいえる。
『SHOGUN 将軍』や『地面師たち』などの海外資本による日本ドラマの成功は、日本のテレビ局にとって不都合な真実といえるのかもしれない。
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