【夏ドラマ】『ビリオン×スクール』最終話 『幼年期の終わり』が『いまを生きる』を内包するSF×学園の快作
#ビリオン×スクール
ああ、すげえおもしろかったね『ビリオン×スクール』(フジテレビ系)の最終回。興奮しました。アーサー・C・クラークの『幼年期の終わり』にロビン・ウイリアムスの『いまを生きる』と押井守の『ビューティフルドリーマー』を内包したような、それでいてばっちり山田涼介のアイドルドラマでもあったし、それでいて『金八』かつ『GTO』だった。
今回の序盤に「腹くくれ」って宮子先生(MEGUMI)が言ってたけど、マジのガチで腹くくって作られた作品だと思う。全編毎秒おもしろかったなんて言うつもりはないけれど、こんなのね、視聴率なんて犬に食わせろって話ですよ。振り返りましょう。
■「半AI」=「オーバーロード」
天才AI開発者・加賀美(山田涼介)がAIによる「完璧な教師」の開発を目指して高校に赴任した。その加賀美が、実は脳の一部をAIによって動かしている「半AI人間」だった。その事実を知った加賀美本人は、大いにショックを受けることになりました。
「その苦悩はホンモノ? それとも、AIからの信号?」
加賀美にそう問いかけたのは、加賀美に作られたプロトタイプAI教師の「TEACH(安達祐実)」でした。
自我を持ったAIに権利を与えるべきか。人権は発生するのか。その意思は人間同様に尊重されるべきか。
大学生はみんなAIチャットで卒論を書いてる。AIが運転するクルマがいよいよ一般道を走り出そうとしている。コーディングの世界は、もはやAIなしでは仕事が成り立たない。ここ数年、AIは凄まじい勢いで社会を変えようとしています。
そういう時代に、「AI」と「人間」の二極化ではなく、そのキメラである加賀美という存在を定義することで、このドラマは現代性を獲得しています。
SFとして今語るべきこと語りながら、学園ドラマとして悩める加賀美がこれまで語ってきたことが、生徒たちにより再び言語化・明文化されていくことになります。「先生」という言葉の重み、「先を生きる者」から与えられたもの。常人離れした「半AI」の加賀美だからこそ成しえてきた「教師」としての実績の数々。それは、多くの地球人を苦しみから解放した『幼年期の終わり』におけるカレルレンたち「オーバーロード」そのものです。
加賀美はしかし、同時に「完璧なAI教師」の実現は不可能であることを悟り、その開発という仕事を中止して学校を去ることにします。開発室で「TEACH」と、秘書の一花(木南晴夏)と向き合い、重大な決断をすることになります。AIと、半AIと、人間。その3者の対峙は、今後私たちの社会が向き合っていくことになる「AI」とのかかわり方について、ひとつの回答を例示しました。
AI技術の活用と、人間同士の連帯と共生について。『ビリオン×スクール』はそういうことを丹念に、ひとつずつしっかりと、しかもフルスイングで、自分の言葉だけで語り尽くそうとするドラマでした。それは、腹をくくんなきゃできないことなんです。腹をくくってたんだよ、このドラマは。カッコよかったんだよ。
■売れてしまうんじゃないかリスト
山田涼介と木南晴夏はもうクソ売れているのでいいとして(もちろん安達祐実も)、このドラマを充実したものにしたのは生徒役の若手たちでした。まるで、すごくいい意味での役者たちのワークショップみたいに、みんなが次々に「あいつを超えよう」という芝居を見せていたように思います。
映画オタクの鈴木を演じた柏木悠は、確かに神木隆之介から『桐島』のバトンを受け取ったと思う。
クラスの女帝だった雪美役の大原梓は『リンダ リンダ リンダ』の香椎由宇のように、クールさと強さと脆さと情けなさを表現していました。
カースト1軍の最下位だった紺野の松田元太は、感情を顔面いっぱいに押し出して叩きつける熱量あふれる芝居でしばしば周囲を圧倒していたし、リナ役の倉沢杏菜の繊細さと無神経さを同居させるキャラクター造形はドンピシャの立ち位置を射抜いていたと思います。次の出口夏希は、この倉沢さんかもしれない。
そんで、脚本の我人祥太さん。このドラマで、完全に爆誕したと思う。こんなに熱量とロジックを両立させてメタとコアを行き来しながら書ける人だとは、全然思ってなかった。間違いなく仕事増えるでしょう。見てる人は見てるよ絶対。
いやー、楽しみました。いいドラマだったと思う。幸せです。視聴率なんか、犬に食わせろ。
(文=どらまっ子AKIちゃん)
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