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ガールズアクションの快作が連続ドラマ化! テレ東と相性もいい『ベビわる エブリデイ』

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『ベイビーわるきゅーれ 』Blu-ray

 映画好きな人間にとっては、毎週水曜の深夜が待ち遠しい3カ月間が始まりました。ガールズアクション&バディ映画のヒット作『ベイビーわるきゅーれ』(2021年)が連続ドラマ化され、テレビ東京系でのオンエアが9月4日深夜からスタートしたのです。タイトルは『ベイビーわるきゅーれ エブリデイ!』(深夜1時~)。シェアハウスで暮らす女の子の殺し屋コンビ、杉本ちさと(髙石あかり)と深川まひろ(伊澤彩織)のクールなお仕事ぶりとゆる~い日常生活がギャップたっぷりに描かれる全12話となる予定です。

 インディーズ映画シーンを席巻した映画『ベイビーわるきゅーれ』を、さらっと振り返っておきたいと思います。ことの始まりは、世間的にはまったく無名だった1996年生まれの阪元裕吾監督が撮った映画『ある用務員』(21年)でした。さまざまなタイプの殺し屋たちが集結したクライムアクションものだったのですが、この作品のクライマックスを盛り上げたのが女子高生の殺し屋コンビ(髙石あかり、伊澤彩織)。かわいい見た目とは裏腹に、エグいアクションの数々を披露してくれたのです。

 この女子高生の殺し屋コンビに手応えを感じた阪元監督が、続けて放ったのが『ベイビーわるきゅーれ』でした。髙石あかり&伊澤彩織が主演に昇格し、日本のインディーズ映画とは思えない、超ハイレベルなアクションの連続に、観客は大喝采。コロナ禍ながら、半年以上にも及ぶロングランヒットとなったのです。

無名監督&若手キャストたちが生み出したインディーズドリーム

 さらにアクションパートを進化させた続編『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』(23年)は、主題歌を担当した「新しい学校のリーダーズ」も出演し、大ヒットを記録。高石あかり、伊澤彩織はもちろん、『ベビわる』の世界観を生み出した阪元監督、新趣向の殺陣を次々と取り入れる園村健介アクション監督も、いっきに売れっ子となりました。

 9月27日(金)には、ちさと&まひろにとって最強の敵となる殺し屋を池松壮亮が演じる劇場版第3弾『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』の公開も決定。そして、テレビ東京系での連続ドラマ化。まさにインディーズドリームが、リアルタイムで現在進行中なわけです。

 人気漫画やベストセラー小説を原作に、テレビ局、出版社、大手芸能事務所、広告代理店らがスクラムを組んでTVドラマ化し、さらに劇場映画化するというパターンが日本映画界は長く定着していたのに対し、『ベビわる』は無名監督と若手キャストによる低予算映画が地上波テレビへ進出したという逆パターン。その構図だけでも、痛快じゃないですか。

全盛期のジャッキーを思わせる俊敏なアクション

 それでは、連続ドラマ『ベビわる エブリデイ!』の第1話「10年後も一緒に死体を凍らせよ」のレビューです。脚本・演出はもちろん阪元監督が、劇場版から続投しています。地上波テレビらしからぬサブタイトルがいい感じです。はっきり言って、放送が始まるまでは舐めてました。試写をチェックしたところ劇場版第3弾『ベビわる ナイスデイズ』が壮絶なバトルシーン満載の大傑作なので、TVドラマ版はアクションは控えめで、ちさと&まひろの脱力気味の日常生活がメインになると思っていたのです。

 ところが、序盤からド派手なアクションを見舞ってくれるじゃないですか。殺し屋協会に所属するマネージャー・須佐野(飛永翼)からの指令で、反社会勢力が経営するファミレスに客として来店したちさと&まひろ。冒頭こそ、ファミレスのメニューがけっこうな値段なことをぐだぐだと愚痴るガールズトークから始まるものの、そこから急速ギアアップして、ファミレス厨房での大乱闘シーンに。

 金髪ショートのまひろを演じる伊澤彩織は、日大芸術学部映画学科を卒業し、スタントパフォーマーとして『ジョン・ウイック:コンセクエンス』(23年)など数々のアクション大作に参加してきた若きプロフェッショナル。殺人コック集団を相手に、ウォーターピッチャーをトンファー代わりにして追い詰めていきます。しかも、全盛期のジャッキー・チェンを思わせる俊敏な動きです。

 黒髪ロングのちさとに扮する髙石あかりは、2002年生まれの21歳。すでに『Single8』(23年)のヒロイン、『セフレの品格 決意』(23年)や8月に公開された『新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる!』では物語のキーパーソンを演じるなど、多彩な役を経験。アクションも劇場版三部作を経て、かなりのレベルアップ。フライパンを使ったコミカルな味付けの殺陣で、まひろをサポートします。

 反社勢力の一網打尽なんて朝飯前という、ちさと&まひろの無敵ぶりをスピーディーに描いたプロローグから、アニメーション化された2人がダンスするオープニング映像へ。「池袋のシネマ・ロサから始まった、あのインディーズ映画がこんな立派なTVドラマになって!」という感慨で、胸がいっぱいになった『ベビわる』ファンは少なくなかったと思われます。

『ベビわる』が支持された社会背景

 テレ東の深夜ドラマらしく、「飯テロ」シーンがガッツリと盛り込まれています。ちさとがキッチンで鍋料理を作っていると、そこへ血まみれのまひろが帰ってきます。不審な男に尾行されていたので、返り討ちにしたとのこと。死体(草川拓弥)をそのままにしておくわけにもいかず、夕食を後回にして2人で死体処理に向かいます。

 劇場版1~2作では、ちさととまひろがケンカするシーンもありましたが、TV版ではすっかり仲良しで、バディ感が完成されています。死体をとある冷蔵室まで運び込みながら「10年後も一緒に死体を凍らせよ♪」と笑顔で約束する、ちさと&まひろでした。

 なんで『ベビわる』が配信ドラマ全盛の現代社会で人気を集めたのかというと、スクリーン映えするアクションの迫力に加え、学校を卒業してもまともな就職先なんてどこにもありませんという今の若者たちが感じている働きづらさ、生きづらさといった社会背景があると思うんですよ。コロナ不況以降、派遣切り、雇い止め、闇バイトといったネガティブワードがすっかり普及しています。ましてフリーランスとして働く労働者には、仕事を選ぶ余裕はありません。

 そんな世知辛い世の中で、信頼できて、頼りになるパートナーが横にいてくれる。こんなにもうれしいことって、他にはないと思うんですよ。第1話の最後、予想外の仕事を終えたちさと&まひろは、ようやく朝ご飯にありつきます。昨晩、ちさとが用意してくれたのは「トマト入り塩豚汁」でした。温め直した豚汁とおにぎりをおいしそうに口にするまひろでした。

「自炊は自分自身へのサービス業だから」

 相棒・ちさとの台詞と豚汁の美味しさが、テレビを観ていた視聴者の胸にも染み渡ったのではないでしょうか。

 さて、9月11日(水)深夜放送の第2話は、現在公開中の河合優実主演の話題作『ナミビアの砂漠』や二宮隆太郎監督の『逃げ切れた夢』(23年)などで助監督を務めてきた平波亘監督の担当回です。数々の傑作映画の現場を回し、「スーパー助監督」と呼ばれる一方、エッジの効いた『餓鬼が笑う』(22年)や清掃スタッフ・茉奈役の中井友希が初主演した『サーチライト 遊星散歩』(23年)などの監督作も撮っている業界注目度の高いクリエイターです。現在の日本のインディーズ映画のレベルの高さを証明する回になるような予感がします。

最終更新:2024/09/11 12:00
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