【夏ドラマ】『南くんが恋人!?』第7話 「受け入れること」を司る加賀まりこ カフカ『変身』との対比
#南くんが恋人!?
交通事故で亡くなった大学バスケのスター選手・南くん(八木勇征)が、その未練から小さい実体を伴ったまま現世を生き延びている様子を描いたドラマ『南くんが恋人!?』(テレビ朝日系)も最終回前の第7話。
南くんの彼女だった女子高生・ちよみ(飯沼愛)は身長15センチになった南くんと楽しい時間を過ごしていましたが、南くんの「俺はもう死んでいる」という告白を受け入れることができません。
「南くんはちっちゃくなっちゃったけど、そのうち戻るだろうから、今を楽しもう」と始まったひと夏の物語でしたが、「どうやら戻らない」ということが明確になった今回。振り返りましょう。
■ならば私も小さくなる
南くんからの「もう死んでいて、もうすぐ消えてしまう」という告白を受け入れられないちよみは、手芸部で南くんの服を作りまくります。南くんにはもう来ない冬に着るダッフルコート、ダウンジャケット、スノボウェア、そして結婚式で着る真っ白のタキシード。ちよみの頭の中は、まだ「大きい体に戻った南くんと将来やりたいこと」でいっぱいでした。
しかし、そうした空想を浮かべるにつれ、涙が止まらなくなってしまったちよみは、ある決断をするのでした。
ちよみは南くんを連れて、南くんが事故に遭った現場を訪れます。そして、猛スピードで走ってくるトラックを見ると、車道に飛び出して強く目をつぶります。このとき初めて、ちよみの頭の中には「ちっちゃくなった自分」が思い浮かぶのでした。南くんと同じようにちっちゃくなれば、楽しい毎日が続くかもしれない。そんな幼稚な発想で、ちよみは後追い自殺を図ります。
なんとかトラックが避けてくれたことで事なきを得たちよみは、ようやく南くんの死を受け入れることができました。
その後、南くんの“終活”に協力することにしたちよみ。南くんが、わだかまりのある父親(沢村一樹)に向けたビデオメッセージをスマホに収めますが、父親がガラケーであることに気づき、直接父親の家を訪ねてリビングのテレビにそのメッセージを映し出すことにしました。
ビデオの中から語り掛ける南くんに「会いたいなぁ」と感極まる父親を前に、15センチの南くんは姿を現すことにしました。ちよみのバッグから這い出て、テーブルの上で堂々と立ち上がる南くん。ちよみは南くんを残して帰宅し、その夜、南くんと父は最初で最後の酒を酌み交わすのでした。
■「受け入れること」加賀まりこの存在感
翌朝、南くんを迎えに行ったちよみは、自分の家族たちにも南くんの秘密を告白することにしました。大切な南くんとの終わりを、大切な家族と共有することを選んだのです。
ちっちゃくなった南くんの姿を見て驚くちよみ家一同でしたが、おばあちゃん(加賀まりこ)は、何事でもないかのように「お昼にしようか」と切り出します。「南くんも一緒に食べよう」と。
ここでも、最初に物事を動かすのはおばあちゃんでした。おばあちゃんこそが、このドラマの価値観を司ってきました。
ちよみの秘密を知ったママが、ちよみに語り掛けるシーンがありました。
「私はどんなことでも、あなたを支持する。あなたの味方になろうと思う。自分の娘だからじゃない。あなたが好きだから。尊敬してるから」
それはそのまま、ママがかつておばあちゃんからもらった言葉に違いありません。
おばあちゃんは、実の息子である放蕩者のたけし(富澤たけし)を追い出し、たけしに嫁いできたちよみのママ(木村佳乃)を娘として受け入れた。そのちよみママと再婚した現在のパパ(武田真治)を受け入れ、その連れ子である拓真(番家天嵩)も家族として受け入れた。ちよみが南くんと隠れて暮らしているというその秘密も受け入れたし、ちよみがその秘密を明かすことも受け入れて待っていたし、姿を現したちっちゃい南くんのことも、真っ先に受け入れて見せた。
その「受け入れること」の対比として今回、文学者である南くんパパからフランツ・カフカの『変身』という小説が紹介されました。ある朝、目覚めると醜い虫に変身していた主人公のグレゴール・ザムザが家族に疎まれ、虐待され、見捨てられ、殺されてしまう話です。グレゴールの家族は、グレゴールがようやく死んでくれたことで、晴れやかな気分で日常生活を取り戻すことができました。
酔っぱらった南くんパパが『変身』のタイトルを出したとき、なんて迂闊なんだと思ったんだよな。南くん、ちっちゃくなったけどイケメンのままでよかったね……。
(文=どらまっ子AKIちゃん)
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