『降り積もれ孤独な死よ』第9話 キャスティングの妙と「原作改変」に対する批判を恐れない意識
#降り積もれ孤独な死よ
未完のコミック原作を離れ、骨太なサスペンスをオリジナルで語り始めたドラマ『降り積もれ孤独な死よ』(日本テレビ系)も第9話。今回を含めてあと2話だそうですが、どういう結末が待っているのか、まったくわかりません。
そんな私たちの「わからない」っぷりを見越してか、重要人物だった「顔に疵のある男」が取り調べで刑事に向かって言ってましたね。
「おまえたちは何にもわかってない」
ひー。わかってないのよ。振り返りましょう。
■今回は「顔に疵のある男」の正体をご開帳
今回は、これまでたびたび顔を出しては物語をひっかき回していった「顔に疵のある男」略して「疵男」の正体が明かされる回でした。
これまで、主に主人公の冴木(成田凌)と「灰川邸事件」の生き残りである蓮水花音(吉川愛)が一緒にいるところに襲い掛かってくることで存在感を発揮してきた疵男でしたが、前回のラストで冴木に襲い掛かりながら「花音、逃げろ!」と叫んだことで、どうやら蓮水花音と知り合いであることが発覚。しかし、7年前に灰川邸で襲撃された際に蓮水花音は疵男をスプレー火炎放射で焼き殺そうとしていますので、疵男の顔に疵ができる前の知り合いだったことが示唆されます。
冴木と記者の森(山下美月)は蓮水花音が子どものころに通っていた児童養護施設を割り出し、そこで蓮水花音と仲良くしていた男の子の存在を知ることになります。その男の子こそが、後に顔に疵をつくる男でした。
疵男の過去をさかのぼることは、そのまま蓮水花音の人生をたどることでもありました。
養護施設から母親のもとに戻った花音がネグレクトを受けていることを知った疵男こと涼くん(笠松将)は、生涯をかけて花音を守ることを誓っていました。そして、ずっと花音に陰から寄り添い、ピンチになると颯爽と現れて暴力を繰り出していたのでした。
大人になった花音に依存しきった母親を焼き殺したのも涼くんでしたし(そのときに顔にやけどを負ったんだね)、灰川邸で冴木たちを襲ったのは、灰川邸13人殺しの犯人・鈴木(佐藤大樹)が花音に変な注射を打とうとしていたのを阻止するためでした。
ずっとひとりぼっちだった蓮水花音でしたが、実は本人も知らないところで、身体を張って守ってくれてた男がいたんですね。その男は、花音への愛ゆえに罪を重ね、自分自身を痛めつけていた。このドラマに通底するテーマです。人は愛ゆえに罪を重ね、自らを痛めつけ続ける。灰川十三(小日向文世)もそうだったし、13人殺しの犯人・鈴木もそうだった。そして、虐待親父をボコり続けていた過去のある冴木も。
一方で、灰川邸事件の生き残りだと思われていた神代健流(杢代和人)がすでに死んでいたことが明らかになり、母の陽子(長谷川京子)に黄色いカーネーションを贈り続けていた人物の謎が新たに浮上しました。陽子は、毎年誕生日に玄関に黄色いカーネーションが置かれていたことから、健流の生存を確信していたと冴木たちに話していました。
しかし、実際にはその黄色いカーネーションは自身が購入していたものだった。次回、陽子は蓮水花音に呼び出されて、灰川邸に向かったようです。
13人殺しの発覚から始まった灰川邸事件、やはり、この場所で事件のすべてが終わることになるようです。おもしろかったね。最終回を見届けましょう。
■キャスティングの妙に騙される
冴木を演じる成田凌と先輩刑事の五味を演じる黒木メイサ、そして蓮水花音役の吉川愛というトライアングルがこのドラマの雰囲気に寄与していたことは間違いないんですが、そのほかにも凝ったキャスティングがあって目くらましになってるんですよね。
やっぱり名前のある人はモブっぽい感じで出てきても何か重大な役割があるだろうと思ってしまうのは視聴者の習性みたいなものですが、このドラマではあんまり重要な感じじゃない出方をしていた鈴木役のEXILEがやっぱり犯人だったりして、名前のある人をそういう使い方をするドラマだといったん刷り込まれているわけです。
かと思えば元祖トレンディ女優のひとりである仙道敦子が本当に単なるチョイ役で出てきたり、第1話から重要っぽく引っ張られてきた健流役のアイドル・杢代和人がすでに死んでいて出番がほとんどなかったりで、実はそうでもないのかもしれないと思わされている。
だから長谷川京子がただの不幸なママとして出てきたとき、ちょっとは「お、ハセキョー」とは思ったけど、「間違いなく重要な役だ」とまでは思えなかった。逆に「ハセキョーでもこの番手で出ることあるんだ」なんて、ナメたことを考えていた。
だから今回のラストで、ハセキョーがカーネーションを買ってたところ、顔が映るまでマジで予想できなかったんです。いやー、やるじゃん! と思ったんだよな。
コミック原作の改変による批判を恐れず、謎そのものを堂々とドラマの中心に据え置き、毎回爆弾を仕掛けて驚かすこともおろそかにしない。まだ最終回前ではありますが、なかなか出力の高いミステリーをドラマでやってくれたことに感謝と敬意を表したいところです。いや、改変による批判を恐れないということはないですね。正しく恐れ、正しく取り組んだということだと思う。原作モノのドラマは、みんなこうあってほしいですね。
(文=どらまっ子AKIちゃん)
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