『光る君へ』シングルマザーで年長者のまひろ(吉高由里子)を疎む女房たちと『源氏物語』を巡る一条天皇との“対決”
#光る君へ
『源氏物語』を読んだ一条天皇の感想は?
またドラマではどうやら明確な理由があって、まひろが『源氏物語』冒頭の「桐壺」の段から順番に物語を書いていったとされているようですね。順番説を唱える研究者などもいますが、筆者が分析するかぎり、正確ではないと思います。おそらくは、短編小説的な起承転結がはっきりしている「夕顔」の段(物語の中では第4帖)などから書き始められ、それが評判を呼んで、「光る君(光源氏)」の物語がもっと読みたいという読者の要望を受けてリライトされ、大長編『源氏物語』に組み込まれていったのではないか……と考える筆者なのですが、ドラマで最初から物語が順番に書かれていっていたのは、おそらく一条天皇とまひろの「対決」を描くための伏線なのだと思われます。
「桐壺」の段に登場する桐壺帝と桐壺更衣の悲恋を、一条天皇は自分が今は亡き定子(高畑充希さん)に注いだ愛情を批判している内容だと受け取っているようで、モデルとして、作者にクレームを入れたいと考えているのでしょう。それこそが、まひろの物語を楽しんでいるようにまったく見えない天皇が、作者に会いたいと言い出した“興味”の内訳なのではないでしょうか。
史実の一条天皇も『源氏物語』の愛読者ではあったらしいのですが、どのように興味を抱いていったのかは知られていません。しかし、天皇が物語の内容への反発から、逆に関心も持ったという、ドラマ脚本を担当された大石静先生の解釈は斬新でありながらも、惹かれるものがありました。天皇とまひろの間にどんなやり取りが描かれるのか……というあたりには興味津々なのですが、おそらくドラマではそれが同僚との人間関係以上に彼女を傷つけ、出仕拒否にもつながっていくのではないか、と見ています。
さて、前回の内容についても触れておきましょう。中宮・彰子を火事から救いだす一条天皇が意外なまでにヒーローっぽく、走るのも早くてびっくりした筆者ですが、現在でも天皇の即位儀式に必須の「三種の神器」のうち、「八咫鏡(やたのかがみ)」が焼失したという事実に驚いた方もおられるのではないでしょうか。
大規模な火事に御所が見舞われることはあまり珍しいことではなく、村上天皇時代の天徳4年(960年)、さらにドラマにも登場した円融天皇(ドラマでは坂東巳之助さん)時代には、貞元元年(976年)、天元3年(980年)、天元5年(982年)と、「鏡」などが安置されてあった宮中の「内侍所」まで火の手が迫った記録があります。
しかし天照大神の御神体とされる「鏡」は焼亡をまぬがれつづけ、さすがに天皇や貴族たちも神秘の力を感じずにいられなかったのですが、一条天皇時代の寛弘2年(1005年)11月15日の夜、宮中・温明殿からあがった火の手は内侍所の建物をも焼き尽くしました。そして「神鏡、大刀(略)尽く焼亡す。僅(わずか)に帯あり。(略)焼損して円規なく鏡形を失ふ」(藤原実資『小右記』)という悲惨な結果となったのです。鏡は溶けて円形ではなくなってしまい、紐だけが見つかったと訳しうる内容です(その後も鏡は火事にあうたび、作り直したらしいのですが、詳細は不明)。
ちなみにドラマの時間軸よりも100年くらい後にあたる平安時代末には、現役の天皇ですら「鏡」をはじめ「神器」の類いを、いかなる理由があっても目にすることは許されないという規則ができたようですが、「鏡の形がもともと円形だった」と、平安時代中期の藤原実資(ドラマでは秋山竜次さん)が知っている素振りなのは面白いですよね。「鏡といえば円形だから」という、ただの類推かもしれませんが、平安時代中に何度も大火に襲われ続け、被害に遭った結果、オリジナルの「神器」の状態が極めて悪くなってしまい、それは天皇の権威にも直結していると考えられたため、平安時代末には「神器」を直接見ることは禁忌中の禁忌になってしまったのかもしれませんね……。
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