KIBA x 良夢 ボーカリスト対談「この人がいればこのバンド」っていうのをボーカルは示さないといけない
#バンド #ヘビーメタル
バンドの顔といえばどのパートか? そんな質問をされると恐らく多くの方が「ボーカル」と答えるのはないだろうか。
ボーカルはステージでも基本的にはステージに立ち、曲の合間にはMCを取り、常にバンドと会場のイニシアティブを取る存在だ。よって、自然と注目も浴びるし、バンドの「顔」として認識もされていく。
今回はそんな「顔」であるGargoyleからはKIBA氏と、「メンヘラサーカス」などで話題となった滋賀出身のロックバンド・sylph emewの元ボーカリストで、現在はソレノイドやMonochrome Cinderellaで活躍中の良夢氏を迎え、ボーカリスト対談をしてもらった。
ーー5月にソレノイドと対バンしてみての印象はいかがでしたか?
KIBA:ソレノイドは基本二人のユニットで両方がボーカルを取りますよね。なぜその形態を選んだのか、気になりましたね。
良夢:2人ともソロでボーカルをしていたんですが、作りたい曲の歌を表現するボーカルが二人いてもいいかなって思ったのが始まりですね。
こんな曲を作ったらこんな歌があるといいなっていうイメージで作曲しているんですが、だから男女のツインボーカルは表現の幅が広がると思ったんです。
KIBA:良夢さんはボーカリストよりもクリエイター視点を持っているってこと?
良夢:そうですね。もともとインストバンドをやっていたんですよ。いまは表現方法がたまたまボーカルってだけですね。
KIBA:じゃあ自分の中で楽曲を作るのが一番大きいって感じだ。
良夢:はい。作るのが自分の成分としては大きいですね。オーケストラの編曲の勉強を子供のころからしていたんですよ。
KIBA:そんな子供なかなかおらんでしょ(笑)Gargoyleの楽曲は200以上あるけど、ぼくは一回も作ったことがなくて……。バンドをやるまでの経緯はどんな感じ?
良夢:音楽の高校に通って作曲のコンクールとか出ていたんです。でももっと特異な存在でいたいなと思うようになって……。それで学校は辞めてしまったんですが、周りの紹介とかもあってバンドを組むようになっていったんですよね。
KIBA:そのときからもうボーカル?
良夢:インストバンドだったからキーボードでした。でも途中から歌あったほうが良いなって思うようになって、とりあえず私が歌ってみるわって感じで始めたんです。でも楽しいとすぐに感じましたね。歌詞を書くことも楽しいし、ダイレクトに観に来てくれている人とコミュニケーションをとりやすいところもすごく楽しいと感じました。
KIBA:たしかにボーカルはコミュニケーションという意味ではとりやすいですよね。歌詞は聞く人の感情に近づく最大のヒントだと思うし。
良夢:KIBAさんはボーカルから他の楽器をやろうと思ったことはあるんですか?
KIBA:コロナのとき、時間もあったし3カ月くらいアコースティックギターを頑張ったけど、無理でしたね。弾ける人はだいたい10代でやってるじゃないですか。50代でやるのは厳しいなと思いました(苦笑)
良夢:KIBAさんは最初からボーカルをやろうと思っていたんですか?
KIBA:違います。たまたまバンドに誘われて楽器が何もできなからボーカルをやってみたんですが、でもライブとかやって、すぐにこれだ! と感じましたけどね。
だけど極端な話をすると、自己表現をするという意味では自分がボーカルであったり、音楽にこだわっていたわけでもないんですよ。
良夢:自己表現という言葉が出てきましたが、デザインとかもされますよね。それも表現のなかに含まれているんですか?
KIBA:そうですね。さっき音楽である必要はないといいましたけど、バンドは良いなと思ったんですよ。バンドって活動の中心に音楽があるけれど、衣装を作ったりアルバムのジャケットをデザインしたりするじゃないですが。そういった意味で表現できるジャンルの幅が広いんですよね。だから楽しいし、自分に合ってるなって思ったんですよね。
良夢:なんか芸術家って感じです!
KIBA:自分が音楽家とは思っていなくて、そうありたいなとは思いますね。
良夢:私もボーカルもやっていますが、ボーカリストっていう気でもないんですよね。もしも声が出なくなったらキーボードを弾けばいいとは思っていて、あくまでも自己表現の手段なんですよね。まだ、ボーカルだからこう、みたいな答えがなくて、だからやってる感じがしています。やり続けていれば、雷にズバーン! と打たれたような感覚とかがいつかくるのかなって。
KIBA:ボーカル以外ではその感覚ってありました?
良夢:コンクールとかだと賞を獲るとか、たくさんの前で演奏するとか、わかりやすい結果を得られたりするじゃないですか。でも歌ではまだ自分が知らないものや、感じたことのないものを得られた感覚がないんですよ。
KIBA:自分で作曲したときの完成したという到達点はどこにあるの?
良夢:基本的には曲はライブを想像して作っているんです。これをライブで演奏したらこうなるな……ってイメージができたら、完成っていう感じですかね。
ーーお二人は歌詞を書かれますよね。歌詞はライブ中に変わっちゃうこととか、意図的に変えて歌うようなことってあるんですか?
KIBA:ありますね。
良夢:私もあります。
ーーCDや配信などで発表された作品だと、ライブだと歌詞が異なってしまうわけで、それはなぜそうなるのですか?
KIBA:その瞬間に、こう歌いたい! って思うときってあるんですよ。だからそのときは変えて歌っちゃったりしますね。
良夢:私も大きく歌詞を変えるというか、ライブで歌詞を叫んで、歌い方を変えるというか、そういうのはやっぱり込み上げてくる瞬間とかで、そうなっちゃたりしますよ。
ーーGargoyleの場合、9.9割がKIBAさんの作詞ですが、ごく僅かにTOSHIさんの作詞があったりしますよね。その理由はなんですか?
KIBA:ぼく自身は歌詞なんて書こうと思えば誰でも書けるんだから、みんなに書けばって言っていたんです。ぼくらは30年位固定メンバーでやってましたし、見ている人がメンバーのこの人は何を考えているんだろうっていうのを、分かりやすく伝える機会があっても良いなと思ったんですよ。さっきも言いましたが、歌詞は直接イメージしやすいと思うので。
ーーそれでも200曲以上の歌詞を作るのは誰でも文字が書けるとはいえ、相当しんどい作業かと思われます。日々のネタ探しとか、ふと思いついた言葉とか、メモとかしてるんですか?
KIBA:したことないですね(苦笑) 実は歌詞を家で書いたことがないんですよ。知り合いのホテルを1室借りて、1~2週間そこにこもって書いたりしていました。テレビとか、そういったものが無い環境下に身を置いて自分を追い込んで。そういった環境下で集中したいんです。
テレビとか何も物がなくても自分が記憶していること、思い浮かぶことが大事なことじゃないかなと思っていて。もしも忘れていることがあるのなら、それは自分にとってそんなに大事なことじゃないって気がするから書かなくてもいいし、歌詞にもならないだろうって思っています。
ただ、メンバーがぼくだけになってからはホテルの経費もなかなか出せないんで、今後は家で書いてみようかなって思ったりしています(笑)
良夢:私の場合、歌詞を凝りすぎて何度も書き換えちゃうんですよ。だから今日は書くぞって日を作って、同じく全てを遮断して書くことが多いですかね。
それこそ椅子にすわって書いて、煮詰まると床でのたうちまわりながら書いています。普段だったらそこにぜったい横にならないだろみたいな場所とかで(笑)
ーーそれでも書けないときはありますか?
良夢:あります。でもとりあえずは書きますね。また別日に書いて、自問自答してライブを想定しての繰り返しです。
KIBA:ぼくもあります。全然書けない。
良夢:KIBAさんの場合、歌詞を書く時はどこに向かってかいてます? 聞く人に向けてですか? それとも自分から出てくるものをそのまま歌詞にしているんですか?
KIBA:『天論』(※4枚目にしてメジャーからリリースされたアルバム)までは意味が他人に分からなくてもいいやって感じだったけど、『月の棘』(※5枚目のアルバム)以降は分かってほしいと思うようになったんですよ。それからは聞く人を考えて書くようになりましたね。
良夢:歌詞をかいて、これでよし! って思う瞬間あります?
KIBA:ぼくは部屋にこもって書くんで、自分で書いてて熱狂する瞬間があるんですよね。出来たものを読んで叫んだりして。これ以上のものはこの世にない! と思ったり。
ぼくは自分の詞が世界一だと思っています。まぁそう思っている人が世界に五万人くらいいても良いですし、ぼくしかそう思ってなくてもいいんです(笑) 1位タイみたいなかんじで、同じくらい良いものはたくさんあっていい。いずれにせよこれは他の歌詞に負けてるってことはなくて、これ以上のものはない! と感じたときに完成としますね。
ーー歌詞が楽曲のイメ―ジと違うって言われたことは?
KIBA:ないですね。歌詞はぼくの仕事とされていましたから。たまに歌詞の意味の質問をされることはありましたけど。
良夢:私もないですね。スキルとしてこうしたほうが良い、とかのアドバイスはもらったりもしますが、自分の身から出たものなのでそれに対して何か言われるようなことはないですね。よしっていう湧き上がる瞬間を増やしたいけど、のたうちまわるほうが多いです(苦笑)
KIBA:ぼくも部屋を無意味に歩き回る時間の方が多いですよ(笑)
良夢:逆に一瞬でできたりすることもあるんですか?
KIBA:ありますね。「完全な毒を要求する」とかは15分くらいで書けたんです
良夢:Gargoyleには特徴的な曲名も多いですよね。
KIBA:曲名とサビは、歌詞をわかってもらうための大きな鍵とかヒントだと思って作ってるんです。特徴的だとしたら、ぼくがあんまり音楽が分かっていない分、他がどんな風なのかを知らなくて自由にやれてるってのもあるでしょうね。
ーー 歌詞が書けない時に本を読んで何かの参考にするとかはあるのですか?
KIBA:うーん。しないですね。モノを作るときって、ものすごいアンテナが敏感になってるんですよ。普段なんでもないことが、ものすごいことに感じてしまったりもするから、変に影響をうけそうで。
良夢:めっちゃ分かります。なんの音も聞きたくないってなりますよね。
ーー良夢さんは作曲もされるということで、どういった感じで曲作りをされるのですか?
良夢:こういう自分でいたいなっていう願望を曲作りのヒントにしていると思います。悲しいのは嫌なので、もっと強い自分でいたいからこんな曲を~って感じでイメージして作曲していますね。
KIBA:歌詞と曲とどっちが先にできるとかあるんですか?
良夢:どっちもありますよ。曲の場合は、メロディーから言葉の気配をひっぱりだして、言語化してる感じですかね。
KIBA:それが1人でできれば、イメージとのズレが少ないから良いですよね。けどバンドって作る人がそれぞれ違うことも多いじゃないですか。そうなるとズレがどうしても出てきたりもして、でもそういったズレが面白いなって思えるんですよ。ちょっとずつズレてるのがバンドの個性で良いとこだって思います。1人で全部作って的確に表現されてるのと、どちらも違う良さな気がしてて。
良夢:みんなとのラリーの中で分かっていくこともありますよね。それってなかなか狙ってできるものじゃなくて、本当に自然発生的なものだったり。それがバンドの醍醐味ですよね。
ーーボーカルの大切なポイントを挙げるとしたら何になりますか?
KIBA:バンドにおけるボーカルの役割は、『ドラえもん』みたいなものだと思っているんです。のび太君とかジャイアンとか、周りのキャラクターが物語自体は展開させるじゃないですか。
ただぼくは『ドラえもん』をあまり見たことが無いから、もし物語の途中まで主人公がいない状態でジャイアンが他の……『キテレツ大百科』のキャラクターと変わっていても気付かないかもしれない。でも、主人公・ドラえもんが出てくれば一気に誰にとっても『ドラえもん』の話になるでしょ。そんな風に「この人がいればこのバンド」っていうのを、ボーカルという存在は分かりやすく示さないといけないと思っています。
良夢:いまの話が刺さりすぎてもう言葉がなくなりました……。
ーーボーカルの特徴を現すものとして声もあると思います。体調に左右されやすいものですが、KIBAさんは喉のケアしないんですよね?
KIBA:しません。
良夢:私もしないんです。
ーーお酒も飲まれない?
KIBA:飲みません。お酒を飲むより、お茶を飲んで喋っている方が好きなんです。お酒に酔うとちょっと自分が変わるじゃないですか。その感覚が嫌なんです。このままの自分が良いんです。だからライブ本番前とかも、出番の5秒前まで普段通りこの感じで喋ってたりしますよ。
良夢:私は……死ぬほど飲んじゃいますね(苦笑) 本番前でも少し飲んだりします。
ーー本番前の飲酒だとコンディション変わったりしませんか?
良夢:コンディションに関わっているかは分からないんですが、素の自分がちょっと苦手なんです。だから少しお酒で自分でリラックスさせているんですよね。緊張しいなので。
KIBA:ぼくは緊張しないんですよ。ライブなんて完全に上手くできるなんて最初から思っていません。間違っても良いや、自分がやれることをやりきれば良い、と思ってるから。
ーーライブでステージに立つとき、強く意識していることはありますか?
KIBA:自分が楽しまなきゃと思っていますね。Gargoyleは他のハード系のバンドと比較しても、初期のころからお客さんに女性の割合が高かったんです。女性は演者そのものをしっかりと観てくれる人が多いイメージなので、楽しんでる振りじゃダメなんですよね。観てくれている人たちにしっかり伝わるよう、自分が心から楽しまないと。
良夢:私の場合、自分は小さくて弱いって思いがあるんです。だから、ステージだけでは強くなるという思いで立っていますね。曲を書く時に反骨精神があるんで、それを凝縮した時間と思いで、みんなを引っ張ろうとライブに挑んでいます。
KIBA:ぼくも強くないけど、確かにステージでは強くあろうとは思いますね。
ーーボーカルやってて良かったなと感じたことはありますか?
KIBA:ぼくはボーカリストとしての歌唱力が高いとは思っていないんですが、それでもやっていけるのがこのパートの良いところだと思います。人それぞれに任せられるパートなんですよ。だから個性を出していくこともありだし、ボーカリストとしての技術を極めるのもありなんです。それが自分に向いてたなと思いますね。
良夢:感情をダイレクトを思い切り伝えられるでの、お客さんと直につながる感覚が持てるのは良いなって思いますね。
ーー良夢さんはしばらく表舞台に立つことをやめていた時期もありましたね。
良夢:2~3年やってなかったと思います。アイドルに楽曲提供がメインになったりして、ボーカルとしてはもうやらないかなと思う時期もありました。でも、未練もあったんですよ。楽曲を作りながらもこういうの歌いたいなって思ったり。
だけど、いまこうしてバンド復帰してみて、最高に楽しいですね。ライブに向けての制作とか、音楽のたわいもない話をする仲間がいって本当にいいなって思います!
KIBA:バンドはそういうところも良いですよね。
(文・構成=編集部/撮影=石川真魚)
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