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日刊サイゾー トップ > エンタメ > ドラマ  > 『新宿野戦病院』2人の「普通の女の子」

『新宿野戦病院』第8話 実際の事件をモチーフに描かれた医療活劇と、2人の「普通の女の子」

小池栄子

 2001年に起こった歌舞伎町のビル火災では44人が亡くなりました。この火事の原因は放火とされていますが犯人は捕まっておらず、ビルの火災報知器や避難器具の管理がずさんすぎたことで大きな被害を出すことになり、消防法の大幅改正につながっています。

 99年に埼玉・桶川市で起きた女子大生の殺害事件では、ストーカー被害を訴えていた被害者に対する警察の対応が問題視され、3人の警察署員が懲戒免職されるという異例の事態となりました。これを機に、翌00年にはストーカー規制法が制定され、16年の改正によってストーカー行為は親告罪ではなくなり、21年の改正ではさらにこまかく「つきまとい等の行為」が定義されています。

 19年、京都市の京都アニメーション第1スタジオに侵入した男がガソリンをまいて放火し、犯人を含む70人の死傷者を出しました。犯人は全身の93%にIII度熱傷を負い、その命も危ぶまれましたが、前例がないほどの高度な治療を受けて回復に向かい、翌20年に逮捕・起訴されています。

 そのあたりの事件をモチーフにして描かれたドラマ『新宿野戦病院』(フジテレビ系)第8話。振り返りましょう。

■前半と後半のコントラスト

 回を追うごとに、無免許医・ヨウコさん(小池栄子)が勤める「聖まごころ病院」のスタッフ1人ひとりを深掘りしているこの作品。今回は、経理の白木さん(高畑淳子)の私生活が紐解かれます。

 白木さんの夫は、総合病院に勤める医師。白木さんの尻に敷かれるタイプで、月2万円のお小遣いで生活しているそうです。

 そんな夫が、歌舞伎町のコンカフェに入り浸っていることが発覚。白木さんは激怒しますが、アメリカ育ちのヨウコさんが「あなたたち夫婦はセックスをしているのか」と問い詰めたり、看護師の村木ちゃん(石川萌香)が白木さんに女性用風俗(通称・女風)をおススメしてみたり、女子連中みんなで女風サイトのマッチョな名鑑写真を眺めてはしゃいだりと、「まごころ」の平和な日常がコミカルに描かれました。

 一方、白木夫の通い詰めるコンカフェで働いているカエデは、ガチ恋しちゃってる痛客の付きまといに悩まされていました。カエデは歌舞伎町をうろついている“同類”の女の子2人を見つけると、背後から「久しぶりー! 元気だったー!」と駆け寄ります。2人のことは知りませんが、2人に「友達のフリして、つけられてる」とお願いすると、2人も“同類”なのですぐさま理解、互いに「自分を名前で呼ぶ」という方法で簡単な自己紹介を済ますと、カエデとサラとリナはすぐに仲良しに。そのまま歌舞伎町で活動している舞ちゃん(橋本愛)率いるNPOのボランティア窓口に駆け込みます。

 成り行きでサラとリナもカエデと同じコンカフェで働くことになり、そこに「まごころ」の男性陣が遊びに行ったり、一緒に行った警官の岡本(濱田岳)が店内にいた付きまとい男に警告をしたり、あれれ、第8話にしてはずいぶん軽いというか、歌舞伎町の無料案内情報ドラマみたいな、もっと前のほうで出てきそうなエピソードだなと思ってたんです。

 そしたら、何者かがそのコンカフェを爆破。大量の被害者が出て、すぐ近所の「まごころ」がトリアージを行うことになり、ヨウコ先生大活躍。後半は熱烈医療ドラマとして緊迫感のある展開となりました。

 ヨウコ先生の「犯人だろうがなんだろうが、命は助ける。なぜなら I’m a doctor」という哲学はこれまでにも語られてきましたが、こうして実際にその奮闘ぶりを見せられると、小池栄子のお芝居もあって引き込まれるものがありましたね。おもしろかった。

■なんか泣きそうになったのは

 すごいいろいろ詰め込んだ熱量の高い回だったんですが、なんか泣きそうになっちゃったのは、爆発に巻き込まれた「まごころ」でサラとリナが再会した場面だったんですよね。リナは先に「まごころ」に運び込まれていて、サラは2階の店舗の窓から飛び降りて逃げていたので、はぐれてしまっていた。

 互いに軽傷だし、ほかに濃いドラマがあったんだけど、なんかこの2人が再会して「生きてた……」って抱き合ったシーンで、すごくぐっときちゃった。

 サラとリナには、この日、このコンカフェにいる理由なんて全然なかったんです。いつものように歌舞伎町を歩いていたら、カエデという女の子にいきなり話しかけられた。別に拒否する理由もないからカエデに話を合わせたし、ほかにやることもないからカエデと同じコンカフェで働くことにした。

 コンカフェでキャストができる程度にはいつも身ぎれいにしてるし、コミュニケーション能力もある。カウンターに立てば、元気にお客さんを盛り上げて、シャンパンもおねだりして、がんばって働く女の子たちである。だいたい、ちゃんと出勤もする。

 そこそこにマジメで、そこそこに自己管理もできていて、何か積極的にやりたいことや具体的な夢があるわけではないけれど、目の前にやることがあればちゃんとやる。

 自分で選んだ居場所じゃないけど、その場所で楽しくやることはできる。将来のことはわからないけど、とりあえずそうやって生きてる。満足してるわけじゃないけど、耐え難い不満や不安があるわけでもない。だから他人にも、そこそこ優しくできる。

 これって、めちゃくちゃ普通の女の子たちだなと思ったんです。だから、この子たちが殺されなくてよかったと思ったんだ。そういう生き方をしている若者が無遠慮に断罪されてはいけない、この生き方は許容範囲だろ、こういうモラトリアムがあってもいいだろ、なんだか強く、そう思ったんだよな。

 ヨウコ先生は立派だったし、経理の白木さんの夫婦愛は美しかった。サラとリナには今、何もない。だけど友だちと再会して抱き合ったら、すぐ「ねえ、カエデは……?」って、こないだ会ったばかりのカエデのことを心配している。いい子たちだなと思うし、次にサラとリナが働くコンカフェにもし行くことがあったら、2人に一番安いシャンパンを入れたいなと思いました。リステルで1万くらいかな。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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最終更新:2024/08/22 17:00
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