『南くんが恋人!?』第5話 脚本家・岡田惠和「30年越しのリベンジ」を見届ける
#南くんが恋人!?
脚本家・岡田惠和さんが1994年に担当した『南くんの恋人』(テレビ朝日系)から30年ぶりのセルフリメイク作品『南くんが恋人!?』(同)も第5話。前作では彼女であるちよみ(高橋由美子)がちっちゃくなっちゃって、彼氏の南くん(武田真治)が困っちゃったお話でしたが、今回は男女逆転、彼女のちよみ(飯沼愛)が大きいまんま、彼氏の南くん(八木勇征)がちっちゃくなってます。
そしてちよみのパパには武田真治がキャスティングされているわけですが、今回はそのパパ武田がちっちゃくなった南くんの姿を見つけてしまうシーンがありました。秘密を抱えてしまったパパ武田、目を見開いてひとりごちるしかありません。
「うわ、背負ったぞこれ。いやいや荷が重いです……。でもなんだろ、そんなに驚いてないかも、俺。なんでだ?」
前世ならぬ、前作の記憶がおぼろげながら残っている様子の武田パパ。こういうの楽しいですな。基本的に楽しいんですよね、このドラマ。楽しいからこそ、ちょっと揺さぶられるだけでドーンと来ちゃう。
振り返りましょう。
■ちっちゃくなったあるある
前回、かばんごとひったくられてそこらへんに投げ捨てられた南くん。その目の前に現れたのは、南くんと同じようにちっちゃい人間・早苗さん(国仲涼子)でした。
早苗さんに、お茶に誘われた南くん。その先にはちっちゃい家とかちっちゃい社会があるのかと思いきや、早苗さんを迎えに来たのはひときわでっかい人間(脇知弘)でした。『池袋ウエストゲートパーク』(TBS系)のワッキーも、もう43歳だって。愛嬌そのままに年をとりました。
早苗さんの家(普通の大きさ)に招かれ、「ちっちゃくなった人間あるある」トークに花を咲かせる南くんでしたが、ひとしきり盛り上がると、早苗さんは南くんに語り掛けます。
「南くん、私たちは、なんで小さくなったんだと思う?」
南くんは、ちよみとお城(ラブホ)に行くと約束していたその日に、トラックにひかれそうになってちっちゃくなったのでした。その風景が、南くんの脳裏をかすめます。
一方、ひったくられたかばんを見つけた公園で必死に南くんを探すちよみ。早苗さんのご主人に公園に戻してもらった南くんを見つけると、「いなくなるの嫌だ」と南くんを抱きしめます。いろいろ不便だし、意味わかんないし、いつまでこんな生活が続けられるのかも知れないけれど、とにかく南くんが南くんであればいい。そういうちよみの強い思いが描かれます。
季節は夏祭り。町のポスターには、南くんとちよみが並んで写っています。地元の大学バスケのスター選手だった南くんとちよみは、町公認のカップルのようです。ちよみの家族たちも南くんのことが大好きだし、南くんの地元愛も相当なもの。特に夏祭りに対する南くんの情熱は並々ならぬものがあり、太鼓は叩くし盆踊りも率先して踊るし、屋台の食べ物は全部制覇しているそうです。将来はNBA入りも嘱望されるアスリートなのだから、口に入る物には気を使ってほしいところですが、まあね、うまいからね。
とりあえずいつものように楽しむことはできないけれど、ちよみと南くんは浴衣を着て夏祭りを訪れます。そこにはちよみの家族たちもいるし、バスケ部の仲間や、南くんを「男として好き」だと言っていた顧問の先生(武田玲奈)も来ています。
ここで南くんは、いよいよ自らの運命を認めなければならなくなりました。そこには、早苗さんの夫が悲しそうに立っているのでした。いつもポケットに入っていたはずの、早苗さんの姿はありません。
南くんの目に映る世界は、一気に色を失っていきます。
■「私たちは、なんで小さくなったんだと思う?」
早苗さんは、夫と結婚して間もなく交通事故に遭ったんだそうです。それまで、お互いに仕事が忙しく、なかなか2人の時間が作れなかった早苗さんは、「ちっちゃくなって、夫のポケットに入ってずっと一緒にいたい」と思ったことがあったそうです。そしたら、事故に遭った瞬間、ちっちゃくなって生き延びることができた。
ちよみと南くんにも、まったく同じことが起こっている。
「私はこう思う。私たちはもう死んでるの」
「私は思ってる。もう元の大きさに戻ることはないって。だって、私は死んでるんだから、すでに」
ちっちゃくなって夫と共に過ごす日々を、早苗さんは「執行猶予みたいなもの」と言いました。だから「もうすぐ消えると思う」と。
その早苗さんが、消えてしまった。それは南くんの行く末をはっきりと暗示する事実でした。
夏祭りを前に、「いつか笑い話にしよう、あの夏はちっちゃかったって」と話し合ったちよみと南くん。しかし、南くんは南くんで、ちよみに明かせない秘密を抱えることになりました。
「俺はもう、死んでいる」
それは武田パパが抱えたものよりずっと重い、ずっと切ない秘密なのでした。というお話。
■30年越しのリベンジに
前作でも最終回で、ちっちゃくなったちよみが死んでしまいました。ちよみはすでに死んでいて、タイムリミットが来た、というお話だったように記憶しています。
その後、ちよみがかわいそうすぎるだなんだという世論もあって、よくわからない続編が作られて無理やりハッピーエンドに落とし込んだんですよね。
岡田先生にとっては、けっこう屈辱というか、難しい仕事だったはずです。
今回、中盤でその設定を持ってきたことで、リベンジを果たそうとしているのかもしれません。若いころはうまくできなかったけど、今ならうまくやれる。そういう意思でもって書かれているドラマが、おもしろくないわけないんだよな。視聴率低いみたいだけど、ほんとにもったいないと思う。今放送されてるのは、この国のドラマ史の1ページですよ。
(文=どらまっ子AKIちゃん)
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