『海のはじまり』第7話 蔑ろにされた「津野くん」の優しさと、見透かされた覚悟のなさ
#海のはじまり
さて、私個人としては結婚もしてないし子どももいないし、女の人を妊娠させたこともないし、させる予定もないし、親とも疎遠だし、おかげでこの地獄絵図を気楽な場所から楽しめているドラマ『海のはじまり』(フジテレビ系)も第7話。煮詰まってきましたねえ。
登場人物の中で、唯一共感できそうな立場なのが、津野くん(池松壮亮)なんですね。職場にやってきたかわいいシンママにちょっと気をひかれてお節介しちゃう感じ。これは、わからんでもない。
というわけで、今回は津野くん回。振り返りましょう。
■「僕のほうが悲しい自信があります」
前回、夏くん(目黒蓮)に対して「僕のほうが悲しい自信があります」とマウントを取ってきた津野くん。なんにも知らないくせに水季(古川琴音)が死んだら急に現れて、あんなに仲が良かった海ちゃん(泉谷星奈)もすぐ懐いちゃって、とにかくいろいろ気に食わない様子です。
なぜ気に食わないかといえば、津野くんの中に、生前の水季に誰よりも尽くしてきたという自負があるからです。それなのに報われなかった。まるで報われなかった。
水季の49日を前に、津野くんにおばあちゃん(大竹しのぶ)から電話がかかってきます。
「いっぱいいっぱいで(津野くんを)蔑ろにして、申し訳なかったと思ってるの」
改めて言葉にされると、きついものがあります。「蔑ろ」って、すごい言葉だよね。今回は、津野くんが水季と水季の遺族に、いかに蔑ろにされてきたかが克明に描かれました。
先にすがってきたのは水季のほうでした。「無理しないで」と津野くんに言われた水季は、「無理です」と言い返し、津野くんに自宅と保育所の場所を教えて援助を要求します。
言われるがまま、海ちゃんのお迎えに奔走する津野くん。水季の家にも行ったし、海ちゃんと水季が津野くんの家に来たこともある。たまたま中絶同意書を見つけちゃったら、思わず男を非難したくもなるものです。だって、すごく今、自分が水季の面倒を見ているから。
水季は津野くんの「気持ちを利用してる」ことも自覚しながら、ずっと一線を引き続けています。絶対に敬語を崩さないし、色目を使うようなこともない。津野くんにすがりつきながら、津野くんの気持ちを蔑ろにし続けている。
おばあちゃんからの電話が鳴って、津野くんが水季の死を察してしまうシーンは圧巻でした。おばあちゃんからの電話なんて、水季が死んだことを告げる以外ありえないことがわかっている。おばあちゃんも、水季と津野くんの曖昧な関係を利用していたということです。家族ぐるみで、その関係は曖昧なまま成熟していたのです。
■それは美徳なのか自己満足なのか
津野くんに敬語を使い続けながら、負担をかけ続けた水季。水季はただただ海ちゃんを必死に育てることだけを最優先として、津野くんの「好き」を利用して手伝わせることを「最低だ」と自覚しています。それでも、津野くんが走り回ってくれなきゃ生活が立ち行かないし、津野くんも楽しそうだし、まあしょうがないと思っていた。
津野くんは津野くんで、海ちゃんはかわいいし、水季の力になりたいと思っていた。
「僕のほうが悲しい自信があります」と言った津野くんの気持ちは痛いほどわかるし、今回、弥生ちゃん(有村架純)に「あの人(夏くんのこと)、水季水季うるさいんですよね」と言った気持ちもわかる。自分はずっと「南雲さん」って呼んでたし。
だけど踏み込まなかったのは津野くん、あなたなのよね。
シングルマザーにはお金と時間がない。このドラマで何度も語られてきたことです。
津野くんは海ちゃんのお迎えに行ったりお世話をしたりすることで、水季の時間の負担を軽減していました。
でも、金をくれてやったわけじゃない。金をくれてやるって言い方は直接的すぎてアレだけど、ちゃんと水季と海ちゃんの将来のことを考えて、シリアスなアクションを起こしていたわけじゃない。津野くんは、一度も水季にフラれていない。
曖昧にしていたのは、津野くんだって一緒なんです。職場のかわいいシンママの役に立ってる自分に酔っていたことは間違いないし、責任を取らないまま、女の人の弱みにつけ込んで、困窮を利用して「家族ごっこ」を楽しんでいたのは津野くんのほうなんです。まるで覚悟がないんです。
「僕のほうが悲しい自信があります」じゃないんだよ。それだって「大切な人を失った」という「ごっこ」でしかないんだよ。ホントに大切なら背負えよ。丸ごと背負うんだよ。
このドラマの、そういう曖昧で「優しい」を自負する男への解像度の高さに、もう嫌になっちゃいました。おばあちゃんはその津野くんの曖昧さを理解してるから、水季の部屋の整理をさせなかったんだもんね。「家族でやりますから」って言い放ったんだもんね。
このドラマで唯一、私が個人的に共感できる立場なのが津野くんでした。共感しちゃったなぁ。いやー共感した。嫌だよねえ、シンママの生活を丸ごと背負うなんて。怖いよねえ、リアルな家族なんて。ああ、ああ。
(文=どらまっ子AKIちゃん)
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