【パリ五輪】女子ボクシングの「性別問題」を複雑化させる3つの要素
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パリ五輪で選手の性別が世界中で議論になっている女子ボクシング競技。問題を複雑化させている3つの要素をまとめてみた。
■IOCとIBAの関係
今回、議論の的になっているイマネ・ヘリフ選手(アルジェリア)とリン・ユーチン選手(台湾)は共に東京五輪に出場しており、その際にはまったく問題にされなかった。
2人の出場について問題視されたのは、昨年の世界選手権で国際ボクシング協会(IBA)が性別適格性検査の結果をもとに両選手を失格としたことにより、IOCの基準との間に齟齬(そご)が生まれてしまったことによるものである。
そもそも五輪では競技運営を各競技の運営団体が担うのが通例だが、唯一ボクシングのIBAのみがその資格を停止されており、IOCの特別作業部会によって予選・本戦が運営されているのだ。つまり、IBAの開催した世界選手権の結果は、今回の五輪にはまったく反映されていない。
IOCがIBAの資格を停止した理由は、ひとことでいえばIBAの「腐敗」である。2021年に行われたリオデジャネイロ五輪において、ジャッジとレフェリーの買収による組織的な試合結果の不正操作が行われていた可能性があることが明らかになった。この調査はIBA(当時のAIBA)が任命した調査チームによって行われており、報告書では「AIBAでは試合の不正操作、汚職が長期間行われていた」と明言されている。
このためIOCは東京五輪からIBAを排除。引き続きパリ五輪においても資格停止処分としており、独自の基準によって両選手の出場を認めている。IBAは2人を世界選手権で失格とした理由を「XY染色体を持っていた」とだけ発表しているが、検査の詳細を明かしていないこともまた問題を複雑化させている。
IBAはイマネ・ヘリフ選手との試合で途中棄権したイタリア女子選手に五輪王者と同等の賞金を授与すると発表。選手とIOCとの分断を図っており、事態は泥沼化しそうだ。
■トランスジェンダー議論との混同
東京五輪では、女子重量挙げにニュージーランドのローレル・ハバート選手がトランスジェンダーとして出場。トランスジェンダー選手の五輪出場はハバート選手が史上初だった。IOCの定めたテストステロン値の基準は下回っていたものの、不公平だとして多くの議論を呼んだ。
IOCでは15年にトランスジェンダー選手の出場について、男性ホルモンであるテストステロン値が12カ月にわたり一定以下なら女子選手として出場することを認めるガイドラインを策定。トランスジェンダー選手の出場が可能となっていた。
だが、今年1月にその指針を改定。テストステロン値の基準に加えて「12歳になる前に性転換を完了した選手に限る」という条件が追加されている。
これにより、パリ五輪には事実上トランスジェンダーの選手は出場できなくなっているのである。
この“締め出し”ともいえる基準の改定が知られておらず、多くの人が「パリ五輪にもトランスジェンダー選手が出場できる」と誤解していることもまた論争を激化させる理由となっている。
■ボクシングの競技特性
加えて、相手の頭部を直接殴打してダメージを与え合うというボクシング競技の特性もまた、エキセントリックな反応を呼ぶ要素だろう。
選手同士の力量差がある試合では、それが単なる暴力に見えてしまうことは避けようがなく、それに片方がトランスジェンダーであるという誤解が加われば、さらに残虐性が増すことになる。
実際、東京五輪においてイマネ・ヘリフ選手は女子ライト級で5位、リン・ユーチン選手はフェザー級で9位という結果を残しており、XY染色体を持っているからといってほかの女子選手に対して、映像が与えた衝撃的なイメージほど圧倒的な力量を持っているというわけではないことは示しておくべきだろう。
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いずれにしろ、五輪に限らずすべてのスポーツはルールの下で行われており、両選手はルールを破っているわけではない。ルールについての議論は必要だが、選手個人に誹謗中傷が向けられることがあってはならないはずだ。
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