『光る君へ』清少納言の“道長嫌い”の真相とあかね(和泉式部・泉里香)の男性遍歴、そして『源氏物語』へ
#光る君へ
『光る君へ』後半戦へ、極まる“恋愛至上主義”
さて、前回は清少納言(ファーストサマーウイカさん)が「皇后さま」こと、定子の遺徳を偲んで書いた『枕草子』が藤原伊周の手で一条天皇に渡され、宮中に広められるというシーンがありました。道長を恨む清少納言のセリフが聞かれましたが、実際はどうだったのか気になるという声もありました。
清少納言は、紫式部のように公開を目的とした日記は残しておらず、『枕草子』も定子の影の部分については意識的に触れない作品でしたから、『枕草子』に「定子さまを追い詰める道長にくし」という影口は出てきません。
しかし当時の宮中関係者には、定子が『枕草子』で描かれているように、幸福なだけの明るい人生を歩んだ女性ではないことは「常識」ですから、あえてまったく定子の影を描かない作品が話題を呼べば、それは暗に反・定子派のトップであった道長を批判することに等しくなります。
だからこそ道長は、自分の息がかかった存在である為時の娘・紫式部を見いだし、『枕草子』に対抗しうる物語を描かせずにはいられなかったし、紫式部も公開を目的とした『紫式部日記』に、史実の清少納言とは深い交流などなかったと考えられるのに「風流ぶっているだけ、知的ぶっているだけの底の浅い女」などと酷評する一節を書き込まざるを得なかったのでしょう。
清少納言の人生を振り返ると、そういう道長の「やり口」が本当に嫌だったのではないかと想像し得る要素が多いのは興味深いことです。
清少納言の兄・致信、そして彼女の最初の夫・橘則光は道長に仕えた形跡が濃厚な「道長派」であり、そういう婿を見いだした彼女の父・元輔も「道長派」であったと考えられるのですが、清少納言自身は一貫して、「道長派」につこうとはしなかったのではないかと考えられます。
ドラマの道長とは逆に、史実の道長は(詮子同様に)権力を背景に「やりたい放題」で、彼らに迎合し、長いものには巻かれようとする者と、それを良しとはしない者に当時の貴族社会は分断されていたのです。
清少納言の兄・致信は、「道長派」内の派閥抗争に巻き込まれた結果、寛仁元年(1017年)3月8日、自宅においてリンチ殺人されています。ドラマの時間軸では16年以上先の出来事ではあり、清少納言の兄が登場していないので描かれることはないでしょう。しかし、当時の貴族社会の裏面を象徴する事件だったことは覚えておいてほしいのです。
また同じくドラマには未登場なのですが、史実の清少納言にはすでに二人目の夫・藤原棟世がいました。
最初の夫・橘則光との離婚理由が「風流を解さない男だったから」などといわれていますが、それは表向きの理由で、本当は彼が「道長派」であったことが清少納言には一番、気に食わなかったのではないか、と筆者は考えています。
清少納言は橘則光との離婚後しばらくして、紫式部同様に20歳以上も年上で、父親の旧友だった藤原棟世という中級貴族の妻になりました。棟世の雇用や影響関係を残された史料から読み解くかぎり、彼は少なくとも熱心な「道長派」ではなかったようです。
清少納言は彼との間に娘を一人授かったものの、宮廷でのキャリアウーマン志向が強かったので、棟世が国司として任国に赴いている時でさえも同行することはなく、別居期間が長い夫婦ではありました。
しかし定子が亡くなった後、彼女は摂津守として任国(現在の大阪府北中部と兵庫県南東部)にいた棟世のもとを訪れたとあり(『清少納言集』)、いざとなった時には頼れる夫として藤原棟世という存在が「付かず離れず」、彼女の傍にはあったということです。
次回以降、和泉式部(泉里香さん)などがドラマには登場するようですが、彼女もさまざまな男性との間に激しいドラマがあった人物でした。一方、史実の紫式部はすくなくとも記録に残る形では男女間のあれこれがもっとも見られない人物だったのに、その手から『源氏物語』という恋愛大河小説というべき作品が生まれているのは興味深いですね。
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