『南くんが恋人!?』第3話 大脚本家先生による30年ぶりのセルフリメイク、青春の匂い
#南くんが恋人!?
この令和の時代にそんな……と思ってしまうほどショボショボのクロマキー合成に、ゆずの「夏色」が鳴り響く平成丸出しレトロコメディ『南くんが恋人!?』(テレビ朝日系)も第3話。
そう考えると、舞台となっている夏の湘南江の島も、ちっちゃくなっちゃった南くんを演じる八木勇征のセンター分けも、どこか平成を感じさせます。
振り返りましょう。
■南くんの社会的な死と再生のお話
今回は、ちよみちゃんがちっちゃくなっちゃった南くんを胸ポケットに入れて学校や遊園地に行くお話でした。前回、初めてポケットに入った南くんは背中に感じるちよみちゃんのおっぱいの感触にポヨポヨしていましたが、今回はすっかり慣れたようです。慣れていくのね、自分でもわかる(@セイラさん)。
高校の先輩後輩だった南くんとちよみちゃん。南くんは先に大学に進んでしまいましたので、学校生活を一緒に過ごす期間はあんまり長くなかった様子。ちよみちゃんが「ずっと一緒にいられてうれしい」というと、南イン・ザ・ポケットも「一緒に遠足とか行きたかった」とちよみちゃんに同意。ちっちゃくなったことで2人の願いが叶ったわけですから、悪い気分ではありません。特にちよみちゃんは、お付き合いの主導権を握っているという新鮮さも加わってとっても楽しそう。南くんがやきもち焼いてくれて、超ハシャいだりしてる。
2人で何度もデートしている遊園地では、南くんをアクスタ扱いしてケタケタ笑っているちよみちゃん。一方の南くんは、過去のデート中に女性ファンからキャーキャーと顔をさされたことなどを思い出しています。地元のバスケスターだった自分はもういない。ちよみちゃんのことは好きだし、一緒にいられて楽しいし、ちよみちゃんが楽しそうにしているのも幸せではある。その一方で、ちっちゃくなったことで社会的な死を実感し、じりじりと自尊心を削られていく。
そんな南くんが、今できる方法で自分の尊厳を取り戻すさまが描かれます。南くんはちよみちゃんに頼んで、バスケ部の練習に赴きます。そしてちよみちゃんの口を借りて、チームメイトと監督にメッセージを投げかけます。
おまえたちは最強だ。俺が戻れば無敵だ。
南くんの言いたかったことを、ちよみちゃんは「LINEが来た」とでもいってスマホをカンニングしながら言ってもいいのに、丸暗記して、しっかり選手たちの目を見据えながら伝えます。少しでも、南くんの言葉が伝わってほしい。そういう、強い思いを感じさせるシーンです。
そして何より、「これは間違いなく南くんの言葉だ」とチームメイトや監督が実感しているところに感動するんです。ああ、そうやって南くんは生きてきたんだな。自分というものを、周囲にしっかり開いて生きてきたということです。NBA入りもウワサされるような選手が、今の仲間ひとりひとりをちゃんと見て、愛して生きてきた。南くんがちっちゃくなって失ったものの大きさもまた、同時に描かれています。
■いやによくできてるんだ
『南くんは恋人!?』というドラマ、そのチープな画面やレトロな雰囲気、コメディタッチに目隠しされていますが、とってもよく練られた脚本で作られています。
岡田惠和大先生なんだから当たり前だろって言われりゃそうなんだけど、それだけじゃないんだよな。大御所だから上手いって話だけじゃない。
1994年に武田真治と高橋由美子で撮られたドラマ『南くんの恋人』(同)は、たぶん岡田先生にとって初のゴールデン連ドラ全話担当だったはずです。まだ何者でもなかった35歳の若手脚本家が、きっと必死で『南くんの恋人』という原作のドラマ化について考え抜いたんだと思うんです。人が小さくなるとはどういうことか。そのギミックによって、何が伝えられるのか。最終回にクレームの投書が相次いで、急遽続編を1話作ることになるという試練もあった。
そうして武田真治と高橋由美子の『南くんの恋人』は、ドラマ史上に残るエポックとなりました。あの時代を生きていた日本人は、「人間がちっちゃくなる」という現象を見ると、ひとり残らず、ちっちゃくなった高橋由美子を思い浮かべながら「南くんの恋人じゃん」と口にするのです。
その後、『ちゅらさん』『おひさま』『ひよっこ』とNHKの朝ドラを3本書き、向田邦子賞も橋田賞も獲ったし、紫綬褒章も受けた。
『南くんが恋人!?』は、そういう大先生の30年ぶりのセルフリメイクなんです。きっと作っているときは、30年前に必死に考え抜いていたころの心境を思い出したはずです。初のゴールデン全話担当なんて、若手脚本家にとっては青春そのものでしょう。若く燃えた野心と、30年の間に培ってきた技術。その両輪で作られたドラマなわけですから、とっても贅沢なものを見させていただいてるわけです。
それが、そんな大仰なものに見えないんだよな。ただチープでレトロで、愛らしいだけの小さなドラマに見える。素敵なことだと思います。
(文=どらまっ子AKIちゃん)
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