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『海のはじまり』第5話　いい会話劇は格闘技に似ている　夏くんはガードが固いね

2024/07/30 16:00

#海のはじまり

　先週末は格闘技が盛り上がりましたね。平本蓮が朝倉未来を1ラウンドでぶっ飛ばしちゃって、びっくりしました。そんなに一生懸命に動向を追っていたわけではないですが、2人には4年くらいにわたる因縁があって。SNS上で舌戦を繰り広げて、いよいよ大舞台でマッチアップされて、さいたまスーパーアリーナに入った観衆は4万8,000人だそうです。大方の予想は朝倉未来の勝ちだったみたいですけど、終わってみればあの結末が必然に見えてくる。

　今回の『海のはじまり』（フジテレビ系）の第5話を見ていて、似てるなと感じたんです。いい会話劇って、格闘技と似てるなと。この2人がこのタイミングでぶつかったら、どうなるんだろう。どんな駆け引きがあって、どんなパンチを打つんだろう。モロに急所に食らったら、あいつはどんな顔をするんだろう。試合中には胸躍る興奮があって、終わってみれば、その結末が必然に見えてくる。

　そんなことを感じた回でした。振り返りましょう。

■第1試合、夏くんvsおばあちゃん

　初回から何度も対戦している夏くん（目黒蓮）vsおばあちゃん（大竹しのぶ）。初戦の舞台は水季（古川琴音）が亡くなった直後、葬儀場のバスターミナルでした。ビー玉のような真っ黒い瞳で「この子はあなたの娘だ」という強烈なパンチを食らった夏くんは、立ったまま失神するしかありませんでした。

　今回、トウモロコシを芯から外しながらの試合となりましたが、おばあちゃんから「海ちゃんのことをあなたの家族に言ったのか」という先制攻撃が入ります。夏くんは「言うつもり」「今度言う」と、いつものようにのらりくらりとディフェンスしていますが、おばあちゃんが右の掌打を繰り出すと、タジタジに。

　さらにおばあちゃんは「海ちゃんと同じ、お風呂入るって言って全然入らない」と追い打ちをかけますが、夏くんはここで「お風呂は今、関係ない」と、ふんわりとしたカウンターを当てることに成功しました。ふんわりしているのでおばあちゃんにはダメージはありませんが、夏くんがおばあちゃんの攻撃に少し慣れてきた様子が見て取れます。もみ合いになりそうなところ、おじいちゃん（利重剛）が間に入っていったんブレーク。おじいちゃん、いつもレフェリーみたいなんだよな。

■第2試合、夏くんvs弥生さん

　いろいろあったけど、とりあえず平和な関係に戻った夏くんと弥生さん（有村架純）。夏くんのアパートでリラックスタイムを過ごしていますが、夏くんが海ちゃんの髪を結わえるかどうかという話題でゴング。弥生さんが「（私の髪で）練習する？」という優しさ攻撃で距離を詰めると、「私は親が嫌いなの」とノーガード戦法。

　夏くんが誘い水に乗って、こちらも「親嫌いでもいい」という優しさ攻撃を出したところで、「（海ちゃんのこと）家族にはどう言ってるの」と近距離から回転の効いたボディブローを放ってきます。さらに「言ってない」という夏くんに、おばあちゃんと同じ掌打。女性ファイターに共通する必殺技なのかもしれません。

　親にどう言ったらいいか、いまいちよくわかってない夏くんに、弥生さんは「練習する？」と100点満点の包容力を見せ、あえなくノックアウト決着となりました。

■メインイベント、夏くんvsママ

　いよいよ実家に帰って家族に報告することになった夏くん。対戦相手はママ（西田尚美）です。

　ガードを固めて情報を小出しにしながら、なんとか自分自身を守ろうとする夏くんでしたが、すべてを話し終えるとママの波状攻撃が始まります。夏くんの親として、水季ちゃんと同じく子を産んだ人間として、シングルマザー経験のある者として、女性の身体を持つ者として、さまざまにポジションを変えながら夏くんをコーナーに追い込んでいきます。

　ここまで、夏くんはいわゆる「巻き込まれ系の主人公」でした。急に自分の子どもが現れて、とにかく誠意を持って対応することしかできなかった。責任とか、そういうことについても必死に考えてきたし、誰も傷つけないやり方を模索してきたし、そう振る舞ってきたつもりでいた。そういう夏くんを、ママは「もう傷つけてますからね」と、しこたま糾弾したのです。水季ちゃんも傷つけてるし、弥生さんも傷つけてるし、大学時代に女の子に赤ちゃんを堕ろさせたことを隠されてきた私も傷つけている。おまえはもう、傷つけているんだと。怖かったですねえ、このシーン。全盛期のマイク・タイソンみたいだった。

　そしてグロッキーになった夏くんの姿を見ると、ママは「でも孫に会いたいと思っていたところだ」と自ら試合終了のゴングを鳴らし、コロッケに手を伸ばすのでした。

■何が言いたいのかというと

　何が言いたいのかというと、会話劇ってこうやって作るのか、と急にシナリオの教科書を見せられたような気がしたんです。登場人物に設定を持たせて、人物同士をぶつけてみる。その人物がその立場から言いそうなことを言わせてみて、必然となる結果を導き出す。その結果を受けて、人物に新たな設定が内包されていく。そしてまた、人物と人物をぶつけ合ってみる。

　それを繰り返しながら、物語の中の世界を押し進めていく。

　来週の予告では、津野くんvs夏くん、夏くんの弟vs弥生さんといった好カードが組まれていました。そして言うまでもなく、『海のはじまり』の中の世界チャンピオンは海ちゃんなんだよな。夏くんの、明日はどっちだ。

　あと、朝倉海ちゃんUFCがんばってね。

（文＝どらまっ子AKIちゃん）