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歴史エッセイスト・堀江宏樹の「大河ドラマ」勝手に放送講義27

『光る君へ』宮中はついに一帝二后へ、帝の寵愛を受けるのは定子・高畑充希か彰子・見上愛か

『光る君へ』後半戦へ、極まる“恋愛至上主義”

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藤原定子を演じる高畑充希(写真/Getty Imagesより)

 この大問題をクリアするべく、道長のために働いたのは、一条天皇の側に「蔵人頭(くろうどのとう)」として仕える藤原行成(ドラマでは渡辺大知さん)で、道長は行成からアドバイスされた通り、「定子は、仏教の戒律に従って出家した尼なので、神道の行事である神事が行えないからダメ」という論理を使いました。

 道長は、定子の廃后も匂わせたようです。定子が后の身分を失うと、一条天皇は定子を愛す理由がなくなります。彼女とは絶対に会えなくなってしまうので、天皇は道長に屈するしかありませんでした。道長は、一条天皇の母后である詮子(ドラマでは吉田羊さん)も動員して圧力をかけています。このようにして、道長は天皇をチームで取り囲んで、なんとか説得に成功したのでした。

 前回のドラマでは、詮子が「自分のようなつらい思いをさせたくないから」と手塩にかけて育てた我が子・一条天皇から、「朕は母上の操り人形だった」などとなじられ、ショックのあまり涙するシーンがありました。がんばって子育てした結果がこれか……と落胆するのは現代の親なら誰しも経験し得ることでしょうが、史実の一条天皇は「母子対決」など行おうとせず、最後まで詮子に弱かったようです。

 こうして「中宮」だった定子は「皇后」となり、道長は彰子を「中宮」にすることができたのですが、その結果として、一人の天皇に二人の“ファーストレディー”がいるという、論理的・倫理的に奇妙な状態が宮中に訪れました。

「誰が一番えらいか」が曖昧になった後宮では、二人いる“ファーストレディー”のうち、天皇の寵愛を強く集めた女性が勝者となるわけですが、このような「女の戦い」が勃発することを、当時の貴族社会は嫌いました。史実の平安時代の宮中は、フジテレビ版のドラマ『大奥』のように「女の戦い」が容認される世界ではなかったのです。

 とはいえ、この当時、まだ数え年でも12~13歳だった彰子は、生来の内向型ということもあり、彼女より12歳も年上で、天皇からの寵愛をガッチリと握って離さない定子の前に手も足も出ない状態だったとは思われますが……。

 前回のドラマには彰子の「嫁入り道具」として、見事な山水図の屏風に、花山院(本郷奏多さん)を含む、当時の宮廷歌壇の大御所たちの歌の色紙を貼り付けたものを持たせる映像が出てきました(史実では花山院の歌の色紙は「よみ人知らず」と作者がボカされていたようですが、道長と花山院は意外に性格が合うというか、仲が良かったようですよ)。彰子の入内は、道長以下、公卿たちの「総意」であり、屏風は「定子ではなく、彰子を寵愛するように」と一条天皇に迫る代物でもありました。

 ドラマでは屏風を一瞥した一条天皇演じる塩野瑛久さんが、ほんの一瞬ですが、皮肉な笑みを浮かべていましたね。しかしその直後、愛想のひとつもいえない彰子の実物と対面したときには、なんともいえない複雑な表情を見せました。ドラマの今後を占う重要なシーンだったと思われます。

 一条天皇は、どう見ても父親の「操り人形」である彰子に自分を重ね、同情を抱いてしまったのかもしれませんね。同情がいつしか愛に変わり……というのは、あまりに古典的な愛の化学変化ですが、史実においても、無愛想な彰子が一条天皇の愛をわしづかみにできた理由は、本当にそういうところだったのかもしれない、と思わせられる一幕でした。恋愛ドラマの大御所として鳴らしてきた大石静先生、さすがでございます。

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堀江宏樹(作家/歴史エッセイスト)

1977年、大阪府生まれ。作家・歴史エッセイスト。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。原案監修をつとめるマンガ『La maquilleuse(ラ・マキユーズ)~ヴェルサイユの化粧師~』が無料公開中(KADOKAWA)。ほかの著書に『偉人の年収』(イースト・プレス)、『本当は怖い江戸徳川史』(三笠書房)など。最新刊は『隠されていた不都合な世界史』(三笠書房)。

Twitter:@horiehiroki

ほりえひろき

最終更新:2024/07/21 12:00
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