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歴史エッセイスト・堀江宏樹の「大河ドラマ」勝手に放送講義27

『光る君へ』宮中はついに一帝二后へ、帝の寵愛を受けるのは定子・高畑充希か彰子・見上愛か

──歴史エッセイスト・堀江宏樹が国民的番組・NHK「大河ドラマ」(など)に登場した人や事件をテーマに、ドラマと史実の交差点を探るべく自由勝手に考察していく! 前回はコチラ

『光る君へ』宮中はついに一帝二后へ、帝の寵愛を受けるのは定子・高畑充希か彰子・見上愛かの画像1
まひろを演じる吉高由里子

 前回(第27回)の『光る君へ』では予想通り、まひろ(吉高由里子さん)が夫・藤原宣孝(佐々木蔵之介さん)と不仲だった頃に参詣した石山寺で道長(柄本佑さん)の子を懐妊していました。夫以外の男の子供を「大河ドラマ」のヒロインが産むというまさかの展開に、友人と「時代だね」「時代だ」と言い合っていた筆者ですが、みなさまはいかがご覧になったでしょうか。

 予想外だったのは、かなり早い段階で、まひろが「よく気の回るこの人が気づいていないはずはない」と宣孝に真実を告白してしまったことです。しかし、宣孝はまひろを「許す」どころか、二人で育てようと言い出し、「道長の娘を育てていたら、自分も引き立ててもらえるだろう」と喜びさえ見せていました。

「紫式部が道長の子を授かる」のはドラマオリジナルですが、平安時代の貴族社会は男女のスキャンダルを忌み嫌う一方、裏ではかなり乱れていましたから、ああいうことはあり得たと思います。特に中流貴族の男性にとって、自分の妻が自分よりも上位の貴人の寵愛を受けていると知ったら、正しい対応は「嫉妬」ではありません。さりげなく二人の恋の道を助けてやるくらいの度量が必要でした。

 その点、ドラマの宣孝は当時の貴族としては「満点」だったといえるでしょうが、宣孝というキャラを見る限り、本当に彼が何を考えているかまではわかりません。睡眠時無呼吸症候群が心配ですが……。

『光る君へ』が今後、さらに恋愛至上主義を極めていくだろう、と前回のコラムでお話した矢先ですが、次回はタイトルも「一帝二后」で、誰が天皇の“ファーストレディー”なのかを巡る争いが勃発する予感満載となってきました。

 ドラマでも「一帝二后など、前例がない!」と公卿たちが反発していましたが、そもそも「一帝二后」は「日本語としてヘン」なのですね。なぜなら「后」とは、数いるお妃たちのトップに君臨する唯一無二の女性という意味なので、論理的に考えれば定員は一名だけのはず。

 それに平安時代の感覚では「皇后」=「中宮」ですから、すでに出家してはいるものの「中宮」である定子(高畑充希さん)を傍から離そうとしない一条天皇(塩野瑛久さん)に対して、定子には「皇后」の位を与えるから、それで空位になった「中宮」の位に、藤原道長の娘の彰子(見上愛さん)を押し込みますよ……というのは、いかにも道理が通らないめちゃくちゃな発想でした。

 ただし「前例がない」と言われても、定子が「中宮」になったときも同じような諍いがあったのでは? という読者もおられるでしょう。道長の長兄である藤原道隆(ドラマでは井浦新さん)が、愛娘・定子を一条天皇に入内させただけでなく、名実ともの“ファーストレディー”である「中宮」に祭り上げようと、あれこれ悪知恵を働かせたことはこれまでのドラマでも詳しく描かれましたね。

 しかし宮中のルールにおいて、天皇の数だけ、その正室にあたる「中宮」が存在してもよいものではなかったのです。また一度、「中宮」の位を与えると、それを明確に取り上げて廃后しないかぎり、その女性が亡くなるまではその方が「中宮」のままというルールもあったので、過去に「中宮」の位が与えられた女性が存命中なら、新たに「中宮」を任命することは不可能だったのです。

 ですから円融天皇(ドラマでは坂東巳之助さん)の時代に「中宮」となっていて、当時もまだ存命中だった藤原遵子(ドラマでは中村静香さん)を円融天皇の「中宮」ではなく「皇后」と呼ぶことにしよう……と、ルールを捻じ曲げるような「新解釈」を施し、その結果、定子は一条天皇の「中宮」になることができたのですね。

 しかし、こうやって「中宮」になれた定子が存命中なのに、一条天皇に新たな正室格の妻として彰子をあてがおうというのは、いくら道長が権力者だったとはいえ、反発必至の無理筋な行いでした。

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