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『新宿野戦病院』第3話 「生きるか死ぬかの人」と「そうじゃない人」のグラデーション

小池栄子

 現代歌舞伎町のカオスっぷりを余すところなく描こうとしているのかもしれないドラマ『新宿野戦病院』(フジテレビ系)も第3話。

 主人公の闇医者・ヨウコさん(小池栄子)は今日も元気にへったくそな英語と岡山弁をごちゃまぜにしつつ、命を救おうとするのでした。

 振り返りましょう。

■生きるか死ぬかの人と、そうじゃない人

 冒頭、路上でボコられて顔面骨折、さらに気胸も起こして死にそうになっているアゼルバイジャン人が、ヨウコさんたちが勤める「聖まごころ病院」に搬送されてきます。

 この外国人はパスポートも保険証も現金もカードも持っておらず、仮に治療が成功しても医療費を支払うことはできなそう。経理のおばちゃんは不満そうですが、とりあえず目の前の命を救うのがヨウコさんですので、周囲に的確な指示を出しつつ処置にあたります。

 そんな折、病院の待合室ではひとりの白人が順番を待っていました。アゼルバイジャン人をボコった男で、右手を骨折しているかもしれないという。明らかに緊急性はありません。この男はパスポートを持っていて、インバウンド保険にも入っていて、お金も払えそうでしたが、手が回らないのでほかの病院に回すことになりました。

 生きるか死ぬかの人と、そうじゃない人の対比を描いてスタートした第3話。前回に引き続き、トー横キッズのマユ(伊東蒼)が登場しました。

 家に帰れば母親のカレシにDVを受けてしまうマユは、ヨウコさんに気を許したこともあって「まごころ」で寝泊まりしています。前回はペヤングを作るだけ作って食べませんでしたが、今回はもりもり食べています。「別に死んでもいい」と言っていたマユでしたが、とりあえず生きることにしたようです。

 生きることにして、NPOの手伝いを始めたマユですが、そう簡単に生活習慣が変わるわけではありません。再び薬局で鎮痛剤を万引きし、児童相談所の人から母親に連絡されてしまいます。このまま家に帰せば、またマユはDVを受けることになる。NPOのリーダー・舞ちゃん(橋本愛)は、児相の担当者と警官を前に、マユへの理解を示します。DVを受けている子がいる。施設に馴染めない子だっている。「そういう子たち」を守る必要がある。

 その舞ちゃんの訴えは、マユにはまるで刺さりません。マユは舞ちゃんを「そういう子を助けて自己陶酔に浸るエゴにまみれた女(意訳)」と断罪し、またいろいろどうでもよくなって家に帰ることにしました。

 家に帰れば、また犯されます。犯されるたびに、マユの魂はどんどん死んでいく。それはマユ自身もわかってる。「でも、いいです」とマユは言う。ここでもまた、生きるか死ぬかの中にいるマユと、そうじゃない舞ちゃんの対比が描かれます。

■居場所と暴力について

 家に帰ると、いつものように母親の男からの暴力を寝たふりでやり過ごそうとするマユ。しかし、ヨウコさんに言われた「おめえが死んだらぼっけえ悲しい」「自分のことは自分で守れ」という言葉が頭に浮かびます。母親は守ってくれないし、児相も施設も警察もNPOも自分を守ってくれはしなかった。ずっとあきらめていたマユですが、ここで初めて「自分で守ればいいのか」ということに気づくわけです。割り箸を折って男の太ももに突き刺すと、家を飛び出します。

 自分の居場所に向かって、マユは夜の街を全力で駆け抜けます。

 そして「まごころ」でマユの帰りを待っているヨウコさんの元には、望まない訪問者がやってきました。冒頭でアゼルバイジャン人をボコった白人は実はプッシャーで、なぜだかヨウコさんを夜襲しに来たのでした。というところで、第4話へ。

 前回、マユは「生きるか死ぬかの人か、そうじゃないか」でいえば、「そうじゃない」人でした。今にもビルから飛び降りそうなホス狂の風俗嬢がいて、それに比べれば致死量にはまるで足らない市販薬を飲んで数時間で回復するマユは単なる甘ったれたガキでしかなかった。今回は、そのマユの抱える地獄が描かれています。人には人の地獄がある。マユのエピソードは、そういうことを言っている。

 このドラマは情報量が多いので、どのシーンのどのセリフが今後の伏線になっていくのか読みにくい作品です。今回は特に、前2話のように1話で解決するエピソードがなかったので、雑多でカオスな印象が強くなっていました。

 そんな中で印象に残ったのは、最後にヨウコさんを襲いに来た白人についてです。あの白人がプッシャーだったことが途中で明らかになって、どうやら悪い人であるという情報は与えられていたけれど、それでもあの夜襲のシーンには、ちょっとびっくりしたんです。

 考えてみれば冒頭からアゼルバイジャン人を半殺しにしているし、いいところなんてひとつもなかったのに、「白人」「パスポート所持」「インバウンド保険加入済み」という情報だけで、ちゃんとした人という印象で見てしまっていた。そして、暴行の被害者であるアゼルバイジャン人を、なんか怪しい人だと思っていた。

 ド直球にこっちの差別意識を顕在化させられてしまって、「ああ……」となってしまいました。ああ……。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子です。

最終更新:2024/07/18 16:00
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