『海のはじまり』第3話 混乱の目黒蓮とグロッキーの有村架純「誰の人生だ」というリフレイン
#海のはじまり
「痛みに耐えてよくがんばった、感動した」とは、今から23年前の2001年、大相撲夏場所で当時の首相だった小泉純一郎氏が優勝した横綱貴乃花に贈った言葉ですが、いやぁ、このドラマは痛みに耐えてよくがんばってると思う。
やっぱり血の通った人物を描くとき、脚本家というのはある程度、その人物に同化していくというか、本気でその人の気持ちになってどんな言葉を発するかを考えるものだと思うんですね。『海のはじまり』(フジテレビ系)の脚本を担当している生方さん、相当タフな仕事をしてると思います。まずそこに感動してる。よくがんばってる。
いやぁ、きついな。振り返りましょうか。
■まずはなんといっても。
まずはなんといっても今回のラスト、海ちゃん(泉谷星奈)の驚愕のセリフです。
「夏くん、パパやらなくていいよ」
ひえー、そうくるんや。このドラマは、学生時代に別れた元カノが死んで、葬式に行ったらその元カノが堕ろすって言ってた自分の子どもを勝手に(勝手に、ってのもひどい言い方ですが)産んでいて、その子が「夏くんのパパ、いつ始まるの?」と詰めてきたところから始まりました。
夏くん(目黒蓮)は夏くんなりに責任とか愛着とかいろいろ考えたり感じたりして、それなりにパパを始める準備を整え始めていた。そのために、ママが死んでもずっと元気な海ちゃんに「無理すんな」とか言ってその幼心に乱暴に踏み込んでみたり、今カノの弥生さん(有村架純)と海ちゃんを会わせたり、元カノのママで海のおばあちゃん(大竹しのぶ)にも会わせたりと、獅子奮迅の奔走ぶりを見せます。
しかも夏くんは人がいい上に自分がボンヤリ人間であることを自覚しているので、わからないことはわからないままにしません。
弥生さんには「母親になる」という決意を再確認するし、海ちゃんには「なんで元気なの?」って聞いちゃうし、会社の上司が妻の出産に立ち会うと聞けば「立ち会って何すんの? なんで立ち会うの?」と聞いちゃう。そして、その質問に対して「無責任だと思われたくないから」「心配だから」という2つの答えを頂戴すると、しっかり2つとも胸に仕舞う。素直ないい子なんだよな、ホントに。
素直ないい子だから、海ちゃんにも聞くわけです。もうとっくにパパをやるつもりでいろいろ飲み込んでるのに、聞いちゃう。
「パパを始めてほしいってこと? パパになってほしいってこと?」
「ううん、夏くん、パパやらなくていいよ」
実際に鳩が豆鉄砲を食った場面を見たことはないですが、夏くん、鳩豆顔で「えっ……」と絶句するしかありません。
「でも、いなくならないで」
混乱に、陥れていく。すべてが夏くんのひとりよがりだった。物事は、そんな単純なものじゃなかった。夏くんにとっては、すべてが未体験の衝撃でしょう。怖い話だ。
■八つ当たられまくる弥生さん
一方、水子供養の帰りに「海ちゃんの母親になる」宣言をした弥生さん。夏くんと一緒に海ちゃんの家を訪れますが、こちらも話は単純ではありません。海ちゃんのママである水季(古川琴音)が勤めていた図書館では元同僚のナーバス男子(池松壮亮)に言葉のナイフで刺されて自身の厚かましさを自覚させられ、ほうほうのていで海ちゃんを送り届けるところまではがんばりましたが、おばあちゃんに「楽しかったです」なんて口を滑らせてしまったものだから、もう大変。
「あなた、子ども産んだことないでしょ」
第1話で夏くんを詰めたときと同じ、大竹しのぶがビー玉のような真っ黒い瞳で弥生さんを糾弾します。圧倒的敗北。グロッキーとなった弥生さんは、おぼつかない足取りで帰京するしかありません。夏くんと海ちゃんと3人で手をつないで歩いて、世界中に自慢したいくらい楽しかったのに。
その後、ひとりで海ちゃんに会いに行くという夏くんに、自分の中絶の過去を告白することを決意する弥生さん。まあ覚悟を見せるってことだと思うんですが、それだって別に海ちゃんやおばあちゃんには関係ないからな。関係ないけど、弥生さんは弥生さんなりに隙間を埋めていくしかないからな。
今回、弥生さんは元同僚やおばあちゃんの八つ当たりを一手に引き受けるという損な役回りとなってしまいました。弥生さんにとって、夏くんやおばあちゃんたちに中絶の過去を告白することは、傷んだ腹を裂いて見せることです。それは弥生さんにとって、経験したことのない痛みを伴うはずだ。しかも、それで何かがどうにかなるとも思えない。きっとさらなる地獄が待っている。怖い話なんです。
■誰の人生だ、誰の人生だ
クライマックス、海辺でじゃれる夏くんと海ちゃんのバックに、主題歌であるback numberの「新しい恋人達に」が流れます。波音に交じって「誰の人生だ、誰の人生だ、誰の人生だ」という歌詞がリフレインされます。
何年か前、当時極貧だったお笑いコンビ・空気階段の鈴木もぐらが『ボクらの時代』(フジテレビ系)に出たときに話していて、印象に残っていることがあります。
もぐらは自分の子どもが産まれたとき、自分が人生の主役じゃなくなったことを実感したと言うんですね。今後の自分はもうずっと脇役で、主役はこの子どもなんだ。この子のための人生になった。そう思ったんだそうです。
その子どもが産まれた後、もぐらは『キングオブコント』(TBS系)で優勝して売れっ子になって、数年後に離婚することになるんですから、ホントに誰が誰の人生なんでしょう。
このドラマ、基本的には「ひえー」「うひょー」なんて言いながらずっとひとりでニヤニヤ見てますけど、もし夏くんに「なんで平気な顔で見てんの?」なんてあの目で問われてしまったら、海ちゃんみたいに泣いちゃうかもしれません。怖。
(文=どらまっ子AKIちゃん)
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