盲目の芸人にムチャ振りを繰り返す『濱田祐太郎のブラリモウドク』継続なるか
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「おまえ、見えてるやろ」
「いや見えてないねん!」
健常者と視覚障害者がそんなやり取りを繰り広げる街ブラ番組『濱田祐太郎のブラリモウドク』(ABCテレビ)の第3回が、12日深夜に放送された。
『R-1ぐらんぷり2018』(フジテレビ系)のチャンピオンでもある盲目のピン芸人・濱田祐太郎が、先輩芸人・藤崎マーケットのトキとともに大阪の街を歩き、さまざまな店舗や施設を訪れるこの番組。第1回ではオシャレの街・堀江でハンバーガーショップと古着屋を訪れ、第2回では京橋で立ち飲み屋をハシゴしたが、いずれも濱田に取材の許可取りをさせる、メニューを見せて選ばせるなどのムチャ振りを繰り返し、濱田のリアクションで笑いを生み出す構造となっていた。
今回は、さらなるムチャ振りである。濱田を天王寺のアクティビティ施設に連れ出し、クライミングをさせるというのだ。
毎回、その街に詳しい若手を案内役としてゲストに迎えている『ブラリモウドク』だが、今回、新世界と天王寺を案内するのは西成生まれ、西成育ちのバッテリィズ・エース。昨年の『M-1グランプリ』(テレビ朝日系)で準決勝に進出している若手漫才師である。
エースはまず、濱田を最近新世界で増えてきているという射的に誘う。
これまでの『ブラリモウドク』は、どちらかといえば視覚障害者がどのように日常生活を送っているのか、普通の暮らしの中でどんな風景を見ているのかを垣間見るという性質のものだった。飲食店では、どうやって注文しているのか。衣服をどう選んでいるのか。酒を飲んだらどうなるのか。濱田という口達者な芸人を通して、笑いながらその一端を知ることができた。
だが今回は、明らかに濱田が見えてないこと、そのものをイジリに来ている。目の見えない人に射的をさせたらどうなるのか、濱田を実験台にして試そうというのである。
「射的、できる~?」と、濱田自身も実に楽しそうだ。
結果、3発中3発を的中させるというわけのわからない奇跡を、濱田は起こす。「こんな簡単なもの、みんな楽しいんですかねえ」という濱田のコメントもふるっている。
続くクライミング施設では、突起物が埋まっている高さ6メートルの壁に、ハーネスを装着させた濱田を登らせて見せる。濱田にとっては当然、人生初のクライミングだというが、思いのほかスイスイと登っていく姿を見ていると、なぜだか笑いがこみあげてくる。
「おかしいやん、めっちゃ登れるやん」というトキのツッコミに、思わずテレビの前でこちらも「なんで登れんねん」とつぶやいてしまう。実際にはパラクライミングという同様の競技があってワールドカップも開かれているそうだが、見事に壁を登り切った濱田を見上げる面々が爆笑している様子もまた、あまり見たことがない風景である。
「こっからどうしたらいいの!?」
6メートル頭上で戸惑う濱田に、係員が答える。
「目の前にあるロープを両手で持っていただいて、壁を蹴るようにして……」
「目の前にあるロープを」という指示は、濱田にはなんの意味もなさない。
このシーンに、この番組の意義を見たような気がした。係員の方が思わず「目の前にあるロープ」と言ってしまったこと。もちろん悪意があるわけでもないし、トキやエースの発言のように濱田にツッコませるためのイジリの意図があるわけでもない。
想像するに、マジメな番組で盲目の方にクライミングを体験していただくというロケであれば、係員の方も注意深く説明していたはずだ。「盲目の方に気を遣う」より「楽しい」が勝ってしまったのだ。ロープになんとかしがみつき、不器用に下りてくる濱田は背中を壁の突起物に痛打して爆笑していた。
射的屋を訪れたシーン。エースが看板を指差し、濱田に「こちらの、見てもらったらわかると思うんですけど、射的ですね」と振った。
「いや、わからんねん」と濱田がツッコむ。
第1回の放送時には新鮮に映った濱田への「見えてるイジリ」だが、この番組ではもうすっかり当たり前になっており、テロップすら入らない。
こうして、視聴者も慣れていくのだ。バラエティの中に、盲目の芸人が溶け込んでいくのだ。濱田自身が長く望んできて、叶えられないできた番組が実現しているのではないか。
「気を遣う」より「楽しい」が勝っていく。『ブラリモウドク』はABCテレビの『ちょいバラ』という企画内の一枠で、次回の4回目が最終回となる。そして視聴者投票によって、継続か否かが判断されることになる。
芸人にとって、自分にしかできない笑いを作れるのは何よりの幸福であるはずだ。だが、そんな濱田の思いとは関係なく、シンプルにただ面白いこの番組が続くことを願う。
(文=新越谷ノリヲ)
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