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『ビリオン×スクール』第2話 テンプレートな学園設定の中で、SFに魂が乗る瞬間を見た

山田涼介

 それにしても美しい顔面の山田涼介が天才AI開発者・加賀美を演じる『ビリオン×スクール』(フジテレビ系)も第2話。加賀美は今日も元気に、AI教師の開発のために学校に潜入して落ちこぼれクラスの担任をしています。

 加賀美のお供をするのは、秘書兼副担任の一花さん(木南晴夏)とAI教師のプロトタイプである「TEACH」(安達祐実)。安達祐実といえば、出世ドラマ『家なき子』(日本テレビ系)に出ていたころには学校で壮絶なイジメに遭っていたそうですね。

 そういうわけで今回は、落ちこぼれクラス「3年0組」でのイジメのお話。学園ドラマでもう100万回も描かれたモチーフですが、このコメディSFではどんな形で語られたのか。

 振り返りましょう。

■「イジメよ、あれ」という新しい立ち位置

 このクラスにイジメはあるか、ないか。イジメている側の生徒はもちろん認めないし、イジメられている側もいろんな事情で認めなくない。周囲の教師も、面倒だから見て見ないふりをしている。ここまでは、すごくよくある配置です。そういう状況で、正義の味方である主人公教師が、どうイジメを顕在化させていくか。数多の学園ドラマの作り手たちが頭を悩ませてきたところでしょう。

『ビリオン×スクール』の主人公である加賀美センセは、この問題に「イジメがないと困る」という立場からアプローチしています。加賀美の目的はあくまでAI教師の開発であって、その開発のためには「イジメ問題に対処する」というプロセスを「TEACH」に体験させる必要がある。だから、イジメよ、あれ。こんなにドライにイジメ問題に取り組んでいく教師は、見たことがありません。

 それとは別の話として、大富豪の家に生まれた加賀美も幼少期にイジメに遭っていたことが示唆されます。AI開発者としての実利と、イジメを克服してきた者としての当事者性。その両面でもって、加賀美はこのイジメ問題を解決していきます。

■「じゃおまえが死ね」への対処

 イジメられていた女子生徒・ひめ香(上坂樹里)は、イジメられていることを認めません。そんなものを認めてしまえば逆恨みは怖いし、親も悲しむし、あと1年自分が我慢すれば、すべてが終わるし。

 それでも「言ったほうがいい」と迫る副担任・一花さんに、ひめ香は言います。

「じゃ、代わりに死んでくれますか」

 こうなってしまうと、AI教師「TEACH」も「様子を見るしかない」とお手上げです。ちなみに「TEACH」が最初に提案したイジメへの対処は、刑事事件として告発せよというものでした。「イジメ」なんて言ってるけど、れっきとした犯罪だから、学校に処分を任せず警察を介入させたほうがいい。これもまた、現実社会では最近になって議論を呼んでいる方法論ですが、いずれにしろ被害者が被害を訴えない限り、どうしようもありません。

 そんなある日、加賀美に唯一心を開いている学級委員長・西谷(水沢林太郎)が、ひめ香をかばったことでイジメっ子たちのアジトである廃ビルに拉致され、凄惨なリンチを受けていました。

 加賀美はビリオネアなので、この廃ビルを買い取り、解体業者を雇ってビルごと破壊することにしました。ビルの中にはまだイジメっ子も、ひめ香も、西谷もいます。

 重機によって解体が進む中、うずくまるひめ香に巨大なロッカーが倒れ込んできます。なんとか頭を抱えて逃げようとするひめ香を、加賀美が倒れてくるロッカーを片手で支え(AIパワードスーツを着てるからね)、間一髪でひめ香の命を救うと、こんなことを言うのです。

「それがおまえの本心だ。おまえは自分を守りたいんだ」

「人は誰でも、自分を守る権利がある」

 生徒のために死ぬことはできない。大人だって、自分を守る。そして、できる範囲で生徒も守る。あとは、自分で自分を守れ。

 いまいちピンとこないひめ香でしたが、この考え方を実感させる方法がスゴかった。スゴいSFドラマだと思ったんです。

■SFの役割

 今回の冒頭、加賀美は新しい発明として「AIグラス」というものを開発していました。そのメガネをかけると、目の前にいる人の顔を入れ替えることができる。顔写真を登録しておけば、AIが実際にそこにいる人間の表情に合わせて、まるでそこに別の人がいるかのように表情を変化させる。なんのために開発したのか、登場した時点ではまるでわからない代物でした。

 加賀美が現れて解体作業が中断しています。

 目の前では、イジメっ子のリーダーである雪美(大原梓)がひめ香をにらみつけています。メンバーの城島(奥野壮)はまだ、馬乗りになって西谷を殴っている。

 加賀美は、ひめ香にAIグラスをかけさせます。すると、ひめ香の目に映るのは、憎たらしい顔でこちらを睨んでいるひめ香。馬乗りになって殴っているひめ香と、殴られているひめ香。人を傷つけるひめ香。人に傷つけられるひめ香。それは全部、今までずっと目をそらしてきたひめ香の姿でした。

 ひめ香は立ち上がり、お守りとして持っていたカミソリをイジメっ子たちに向けます。

「これ以上、私を傷つけたら、私はあなたたちを許さない。あなたたちを殺す──」

 強い気持ちをもって、自分を守れ。そのメッセージが実感としてひめ香に伝わった瞬間でした。「幸せを勝ち取ることは不幸に耐えることよりずっと勇気がいるの」と、『下妻物語』(04)で桃子が言ってたね。「被害者になるなら、せめて加害者でありたい」と千原ジュニアが何かのライブのビデオのオープニングで言ってたよ。スゴいシーンは、見る側の記憶を喚起するんだ。

『ビリオン×スクール』は、学園ドラマでありながらAIを扱ったライトSFでもあります。学校で起こるさまざまな問題を、加賀美の財力とよくわからないAIガジェットで解決していくというパターンで進んでいくのかもしれません。SFの醍醐味は、架空のガジェットや架空の理論が実在の人の心を打つところにあります。第1話のAIパワードスーツ、今回のAIグラス、すごくそういう役割を発揮していると感じます。

 SFをどう使っていくか、というところにも注目して今後も追いかけていきたいと思います。いやー、よくできてる。スゴかった。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子です。

最終更新:2024/07/13 14:00
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