『光る君へ』まひろ・吉高由里子が懐妊、そして「道長妾」という紫式部の“これから”
#光る君へ
『光る君へ』後半戦へ、極まる“恋愛至上主義”
前回のコラムで触れましたが、紫式部が宮中で働くことになった理由は、彰子のために道長と倫子が集めた女房たちが公卿たちに不評で、新メンバーを集める必要があったからなのですが、それまでずっと無職だったと考えられる紫式部に白羽の矢が立った理由は「謎」です。すでに『源氏物語』の著者として、彼女が有名になっていたからと推測することもできるのですが、抜擢の理由も『光る君へ』では、まひろと道長が長年にわたって交流していたからだと説明するのでしょう。
ドラマのまひろは「不実な女」と自称しながらも、生真面目ですから、寺での逢瀬の末に懐妊していたことを道長に連絡していないかもしれません。何年か後に、まひろとの間に娘が生まれていたことを知った道長は、孤立無援のシングルマザーとなった彼女を窮地から救う(そして無沙汰を詫びる)……という描かれ方でしょうか。
また、まひろは正式な夫の宣孝以外の男性である道長との間に子を授かってしまったことに苦悩して、宣孝に「子供の父親は道長さまです」などと伝えてしまいかねませんが、宣孝はそんなまひろを許して死んでいきそうですね。
宣孝は、まひろより20歳くらい年上の夫で、彼女にとっては「二人目の父親」みたいな立ち位置だからです。客観的に見て女性側に非常に都合のよい展開ではありますが、『光る君へ』は最近の民放ドラマにも見られないレベルに「恋愛至上主義」が貫かれた作品だと思われますので、これくらいやってくるのではないか……と思ってしまいます。
今回はいい機会なので、史実(というか、紫式部の文学作品)に見られる紫式部と道長の「関係」について改めてお話してみましょう。
紫式部は平安~鎌倉時代の人物系図集『尊卑分脈』には「道長妾」として記述されている存在です。「妾」は妻の一種というより、女性使用人の一種と考えたほうがよろしいと思います(多くの妾は自分を妻の一種だと思い込んでいたでしょうが……)。
それゆえか、道長の日記『御堂関白記』には、紫式部や源氏物語について触れた部分はまったくありません。その一方で、道長の正妻にあたる倫子の記述はちらほらと出てきて、道長と倫子が長年にわたって良好な関係を保っていたことは明らかです。
その一方で、紫式部自身の手による文章だと考えられる『紫式部日記』には、「渡殿(わたりど)に寝たる夜」から始まる章があり、「彼女が寝ている部屋の戸を叩く音がしたが、怖かったので開けずにいたら、朝になって道長さまから手紙と『泣きながら扉を叩いたのにあなたは開けてくれなかった』と訴える歌が届いた」と要約できる内容が続くのです。
わざわざ道長から、夜に寝室を訪れられたことを、公表を目的とした「日記」に書く時点で、「私は道長さまから女として見られているのよ」と世間に自慢したいという紫式部の本音がだだ漏れなのですね。実に「愛人」らしい態度だと思わせられてしまいます。
まぁ、この部分については紫式部本人ではなく、後世の別人が興味本位で書き足してしまったと考える学者もいるのですが、どうでしょうか。個人的にはそういうわけではない気はします。
また「渡殿」が指す部屋については諸説あるのですが、道長の本邸の「土御門第」の一室だと考えてよいかもしれません。まだドラマでは彰子の入内も描かれてはいませんが、紫式部は彰子の女房として彼女に長い間、お仕えすることになります。彰子の里帰りにも紫式部は付き従って、土御門第の一室に滞在することも多かったようなので、道長との「交流」はドラマでもここぞとばかりに描かれるでしょう……。
『光る君へ』も放送開始から早くも約半年が過ぎ、後半戦に入りましたが、ますます「恋愛至上主義」が極まっていきそうです。
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