『366日』最終回 「エモ」を届けたいという作り手の欲望がむき出しでしんどいんだ
#366日
終始、嫌なドラマだったなぁと思います。2008年に発表されたHYの名曲「366日」に今さら触発された作り手が、その「エモ」をエゴにまみれた映像でお送りした本作。最終回ではヒロインに「それでもいい」と歌詞中のセリフを言わせて無理やりハッピーエンドに仕立て上げました。
第1話で登場人物を橋から突き落として記憶を亡くさせ、最終回でなんの理由もなく記憶を戻す。創作の原点が「エモ」しかなく、語るべき物語を抱かずに生まれたドラマは、人物たちを変化させたり成長させたりすることができません。それでも放送枠を勝ち取ってしまったからには何かを言わなきゃいけないから、物語をマイナスに振ってゼロに戻すことでプラスを装う。ストレスを与えてそれを外すことでハッピーを装う。浅はかな創作行為だと思いますよ。
振り返りましょう。
■メンターとしての和久井映見
初回でハルト(眞栄田郷敦)が頭を打って記憶を失って以来、その主治医である池沢先生(和久井映見)が常に正解を与えてくるというのが、このドラマの構造でした。
みんな、ハルトが記憶を失ってどうしたらいいかわからない。ハルトも、徐々に社会生活に復帰しながら、どうしたらいいかわからない。そこに池沢先生が何か一言、言葉を与えることで次に進んでいくというパターンが繰り返されました。
そんな池沢先生が、記憶が戻ったハルトに今回こんなことを言うんです。
「(昔の自分に)戻る必要、あるのかな。過去よりも、今じゃない?」
全11話にわたって、ずっと、徹頭徹尾「あのころはよかった、あのころに戻りたい」と言い続けてきたドラマの最終回で、こういうことを言う。見ている側に「池沢先生はいつも正しい」という印象を植え付けておいて、本来なら主人公たちが自らさまざまな出来事を経てたどり着かなければいけない思考を、たやすく与えてしまう。
これは、「ここまでの10話はまるで無意味でしたよ」という宣言です。彼らに何もさせてやることができなかったという、脚本家からの白状です。
この最終回でハルトは、一度はフッたアスカ(広瀬アリス)を迎えに行くわけですが、その動機や決断に至るプロセスは一切語られません。「かつてアスカを好きだった気持ちを思い出した」「池沢先生にそう言われた」それ以外、何もありません。
ハルトがチャペルでの演奏会からアスカの手を引いて連れ去るシーンはいかにも“ステキ”ではあります。これが「366日」という楽曲の新しいカラオケビデオだとしたら、立派なモノが出来上がったと胸を張ってもいいでしょう。でもさ、ドラマなんだぜ。ドラマを語れよ。
■結局、あの「桜の写真」が正体でした
このドラマは、プロデューサーが「366日」という曲のMVを見て感動したことから作った作品だそうです。
第3話に、印象的だったシーンがあります。ハルトがプロデュースする予定だったイタリア料理屋の壁に飾るアート作品についてのエピソードです。
ハルトはそのイタリア料理屋の壁に、自分の高校の友達が撮影した、高校に植えてあった桜の木の写真を飾るつもりでした。それはハルトや高校の仲間たちにとっては大切な思い出の写真でした。
でも、イタリア料理屋の世界観にはまるで合わないし、そこにご飯を食べにくるお客さんにも一切関係がない。当の写真にしてもシンプルな日の丸構図で、芸術作品として見るべき点があるわけでもない。プロデューサーであるハルトの個人的な感傷をゴリ押ししているだけで、レストラン作りにおいてまったくクリエイティブではない。そんなハルトのクリエイターとしての未熟さを、ドラマは美談として扱っている。
それと同じことが、このドラマ全体でも起こっていたように感じるんです。「366日」という曲を聞いて、大いにインスピレーションを受けたのはいい。自分がドラマをプロデュースして、立派なスタッフを集めることができる立場にいるから、「366日」というドラマを作りたい。そこまではいいんです。
普通、そのインスピレーションをエンタメに変換する、クリエイティブを与えて作品として成立させるという作業が行われることになるんですが、このドラマは、インスピレーションや感傷をそのまま発表してしまっている。メッセージを届けようとも、今現在作るべきおもしろい物語を届けようとも思っていない。最終回でヒロインに「それでもいい」って言わせたい。そういうむき出しの欲望しかない。
ハルトがレストランの公共性というものを意識できなかったのと同様に、このドラマのプロデューサーはテレビ電波の公共性に意識が行き届いてないんです。
大人として、けっこう恥ずかしい仕事だったと思いますよ。力を持った大人が、こういう振る舞いをしてはいけないという反面教師みたいなドラマだったと思います。あくまで個人の感想ですけど。
(文=どらまっ子AKIちゃん)
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