トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed
日刊サイゾー トップ > 社会 > メディア  > 『ムショぼけ』という文化祭は永遠に続く

ドラマ、小説、そしてコミック第2巻も発売!『ムショぼけ』という文化祭は永遠に続く

マンガ『ムショぼけ』(原作:沖田臥竜、作画:信長アキラ)

作家が自分の作品を我が子に例えることはよくあるが、『ムショぼけ』『インフォーマ』などで知られる沖田臥竜氏の場合は、「文化祭」と重ね合わせる。たった一文字から築き上げてきた物語が、多くの人との共同作業によって、小説のみならず、映像やマンガなどの新たな表現を纏う。その中心に身を置いたときに得たものは、学生時代のアノ感覚と似ているというのだ――。

王子様を演じた文化祭から30数年…

 私の人生で、文化祭は3回しか催されていない。可哀想に中学生の3年間だけなのだ。

 3回しかなかったので、今でもはっきり覚えている。中学3年生の文化祭の時に、クラスで歌った曲や演劇。歌は「マイ・ウェイ」で、演劇は白雪姫だった。白雪姫の王子様役は私である。

 配役を決めるとき、「オレがやる!オレがやる!オレが王子様やる!」と一番最初に名乗りあげたばかりに、なかなか白雪姫が決まらなかったことまで鮮明に覚えている。可哀想に……。

 常々、私は自分自身に言い聞かせていることがある。私が筆を握る以上、自分にしか描けない世界を書かなければ意味がないということだ。そしてある程度、作家としての自分の能力を信じている。日常に悩み苦しみがあろうとも、書き続けてさえいれば、いつかは多くの人に読まれ、売れたと、自分自身で言える日が来ることを私は信じている。

 それはそうではないか。私くらいは自分を信じてやらないで誰が信じてやるのだ。納得するかも満足するかも、他人ではなく、自分自身が決めるものだと思っている。

 申し訳ないのだが、『ムショぼけ』はこんなものではないと思っていた。このままでは納得できなかった。

『ムショぼけ』の火を消してしまうのは、簡単なことだった。私が書かなければ良いだけだ。だが、それほど単純なことはない。

 実際、小学館から小説『ムショぼけ』を出版し、朝日放送でテレビドラマ化もされ、サイゾーから『ムショぼけ2 ~陣内宗介まだボケています』を出版することができたのだ。これだけでも十分だろう。いや実際に上出来だ。

 だけど、私だけは満足していなかった。『ムショぼけ』の持つパンチ力は、こんなものではないと思っていたのだ。

 だからこそ、秋田書店からマンガの原作の依頼があったとき、あらたな『ムショぼけ』を描き下ろそうと思ったのだ。
 
 当たり前だが、物語を生み出すのは、大変な作業である。文字だけで人を笑わしたり、泣かしたり、感動させたりした上で、物語として納得までさせなければならないのだ。どれだけで地味で過酷で苦悩が多い作業の繰り返しか。

 だが私が胸を張って、やり抜くと決めた職業だ。スタートのわくわくもどきどきも、文字から作り出して見せると決めて、25歳の時に筆を握ったのだ。結果的にデビューまでに14年かかった。

 それだけの歳月だ。もちろん諦めるのは簡単だった。だけど、私は諦めなかった。できると思っていたわけではない。やると決めていたのだ。

 私が書いた作品が映像化されて、それを観た人々が最後に涙するーー小説家になって、そんな場面を絶対に生み出すと決めていたのだ。

 それを最初に叶えてくれたのが『ムショぼけ』という作品だった。たやすく終わらすわけにはいかなかった。

 3年前の兵庫県尼崎市での『ムショぼけ』の撮影現場。多くの人と共有した、あの時間、あの空間は私にとって特別なものがあった。
 
 まるで、中学3年生の文化祭で感じた感覚がそこにあった。まさか三十数年の時を経て、あの雰囲気を味わうことができるとは思っていなかった。人生とはわからないものである。

 早いもので、今夏にはマンガ『ムショぼけ』の第2巻が発売される。嬉しさと、まだまだここからだという気持ちが入り交じりながら、ずっと『ムショぼけ』という文化祭が続いていってほしいと思っている。そのために私はこれからも書き続けるだけだ。

 ーここから面白くなるので買ってね!ーみたいな月並みは、野暮だろう。読んでもらえればわかると思っている。

 そして、いつか生まれ故郷の尼崎から飛び立った『ムショぼけ』という作品がまた私の元に帰ってきたら、「よう頑張ったやん!」と言ってやりたいと思っている。

 陣内宗介やヒロの『ムショぼけ』は、まだまだ続く。

(文=沖田臥竜/作家)


■マンガ『ムショぼけ ~懲役たちのレクイエム~』

amazonなどで発売中

TVドラマ化もされた人気小説『ムショぼけ』を原案に描かれる任侠炎上ロマン! 自称元ヤクザのアウトロー系YouTuber・ヒロは、14年の服役を経て大阪刑務所より出所したある男に会いに行く。その男の名は陣内宗介。時は遡り平成9年。そこには徳島組の組員として熱く奔走する彼らの姿があった…。舞台は兵庫・尼崎。懲役を終えた一人の男の青春と懺悔。

■小説『ムショぼけ』(小学館文庫)
amazon
https://www.amazon.co.jp/dp/4094070613/

■小説『ムショぼけ2 ~陣内宗介まだボケてます~ 』(サイゾー)
amazon
https://www.amazon.co.jp/dp/4866251557/

作家。2014年、アウトローだった自らの経験をもとに物書きとして活動を始め、小説やノンフィクションなど多数の作品を発表。小説『ムショぼけ』(小学館)や小説『インフォーマ』(サイゾー文芸部)はドラマ化もされ話題に。最新刊は『インフォーマ2 ヒット・アンド・アウェイ』(同)、『ブラザーズ』(角川春樹事務所)。調査やコンサルティングを行う企業の経営者の顔を持つ。

Twitter:@pinlkiai

最終更新:2024/06/15 08:54
ページ上部へ戻る

配給映画