音楽と映像の二刀流アーティストRYUに聞いた ブラステ最新作はネイチャーでポップでエレクトリック?
#ヘビーメタル
日本のHR/HMは熱い支持層がいる一方で、全体のパイはそう多くない。それを証明するかのように、日本のHR/HMバンドが音楽番組に出ることは極めて稀だし、FUJI ROCK FESTIVALをはじめとした音楽フェスにも、HR/HMバンドはほぼ見かけない。
一方で、LOUD PARKやDOWNLOAD FESTIVAL、KNOT FESなどHR/HM中心の専門フェスが存在したものの、開催が不定期であったり、毎年の恒例イベントとはなりきれていない。
そもそも全世界的に見ても、HR/HMというジャンルは縮小しているのだけれど、ことに日本の場合HR/HMバンドというと、バンド稼業だけで食えていけるほどに売れているバンドはごく一握りどころか、ごく一つまみといえる世界だろう。しかしファンはかなり熱心のため、毎年多くのバンドが来日してライブハウスで熱狂的なライブを繰り広げているし、日本のメタルバンドたちも熱心に活動し、シーンの盛り上がりを支えている。
そんな中、2002年にアルバムデビューし、海外での活動やアルバムリリース、ジェンダーにこだわらないメンバー編成で多岐にわたる活動をしているメタルバンドがいる。いや、正しくはメタルをサウンドの根に置きつつもジャンルの枠にとらわれない楽曲を世に発表し続けているバンドがいる。――BLOOD STAIN CHILDだ。
BLOOD STAIN CHILD(以下、ブラステ)は初期こそブラックメタルを中心としたエクストリームな音楽性だったが、徐々に打ち込みを主体としたダンスミュージック要素を強め、独自の音楽性、唯一無二の存在を示してきた。
そもそも彼らはLUNA SEAの”True Blue”、TRFの”EZ DO DANCE”をカヴァーするなど、ポピュラーミュージックとは一定の距離を置くメタルバンドが多い中、積極手的にそれらの音楽との融合を図るなど、活動自体も独自性が強かった。
そんな彼らがまた他にはない活動を展開した。なんと、この音楽不況と言われるなか、アルバムを『METALIA』『CYBERIA』と2枚同時発売し、CGなどの現代技術を駆使したMVを4曲も公開したのだ。しかもそのMVはブラステのリーダーであるRYU氏が全て自身で作り上げたというからさらに驚きである。
ブラステの楽曲やコンセプトを全てをRYU氏が担うだけでなく、MVまで手がけるその二刀流とも言える才能と創作意欲はどこから沸いてくるのだろうか。事の真相を確かめに、RYU氏に直撃インタビューを敢行した。
― CDが売れなくなり、音楽不況が叫ばれる中、『METALIA』『CYBERIA』と、2枚もアルバムを発表しようとした経緯を教えてください。
RYU:前作が2019年で、コロナ禍もあって制作に腰を据える時間が充分にあったというのがあります。
コロナ禍でも配信ライブをやるなどバンド活動は続けていたんですよ。色々と考える時間があったので、実験的なこともやっていたんです。ドラムにトリガーを付けて全ての音をシンセサイザーに変換してライブをしてみたりとか。
実験としてはすごく手ごたえがあったんですよ。だからそれをアルバムにして、このご時世に2枚作っちゃうのは逆に面白いのかなって考えたんです。
― 配信ライブはやってみてどうでしたか。アーティストによってはあまり肯定的ではない声もあったようですが。
RYU:バンドとしては問題なかったですね。ぼくらって海外にも応援してくれるファンがたくさんいるので、海外の方は配信で観られたと思いますし。でも最初はお客さんがいない状態にやりにくさはありましたよ。
― コロナ前後の変化で感じたことはありますか。
RYU:コロナ禍が過ぎたいま、むしろ配信ライブは少なくなりましたよね。でもオンラインという意味では、ミーティングをリモートでするなんてことが定着したから、メンバー同士が離れていても活動できることが増えたかなって思います。直接顔を合わせなくてもできちゃうので、それが良いのか悪いのか分からないですけど。
― アルバムはCDでもリリースするのですか。
RYU:デジタル配信のみです。個人的にはCDに対する思い入れは強いですし、出したいなって気持ちはあります。世代がそうでしたからね。特にメタルファンはCDを大切にしていただけるじゃないですか。
実際にCDついての質問をもらったりもするんです。だけど時代の流れを考えるとCDを出さない、新しいマーケティングを考えていくことが必要ですよね。ブランディングという意味でもファンの皆さんに新しいバンドの魅せ方を示していきたいと思っています。
― 先ほど「メタル」という発言がありましたが、ブラステはいまも”メタルバンド”という認識で合っていますか。
RYU:うーん……メタルの要素は間違いなくあります。でも純粋なメタルバンドとは、いまは言い切れないんじゃないかな……。
― 初期はブラックメタルバンドのようなサウンドでしたもんね。最新作『METALIA』『CYBERIA』では確かにメタルというシンプルな言葉では表現できない作品に仕上がっています。『METALIA』にはまだリフがハードであったり、ドラムのツーバスでリズムを構築していたり、これまでのブラステの延長にあるサウンドと理解できたのですが、『CYBERIA』に関していえば、トランスやEDMの要素がかなり強くて驚きました。当然ブラステらしさはあるものの、かなりポップス路線とも言えます。これはどういった経緯の変化なのでしょうか。
RYU:初期はメタルの影響が強かったですが、長年キャリアを積んでいく中で色んな音楽の影響を受けていったというのがあります。いま挙げてもらったトランスやEDMなんか大好きですし、いまはK-POPからの影響を受けてもいます。それが楽曲に出た感じですね。
― まずMVにもなっている『METALIA』の”Wild Horizon”についてですが、ギターサウンドはヘヴィですし、リズムも大変重いです。ですが、女性のコーラスやメロディパートがとてもメロディアスですよね。一聴したとき、個人的にはブリティッシュロックの持つポップ感と、壮大さを覚えました。
RYU:”Wild Horizon”はワイルドな大自然とか動物とかアフリカのサバンナみたいな、そういったネイチャーの美しさを表現した曲なんですよ。ナショナルジオグラフィックのようなイメージでしょうかね。
― では壮大さを感じたのはあながち間違いではなかったのですね。
RYU:音楽的なところで言えばシネマティックな映画音楽だったり、シンフォニックオーケストラとかを使用したエピックミュージックの影響もあの曲には出ていると思います。
― ”Wild Horizon”に限った話ではありませんが、全体的に女性ボーカルが大胆にヒューチャリングされていますよね。
RYU:もともとブラステは女性ボーカリストだったときもあるので、女性の歌声を使うのは全く抵抗がないと言うか、もともと女性ボーカルって好きなんですよ。
そういった意味では女性ボーカルのパートって、ぼくが思い描く楽曲像にはとても重要なエッセンスなんです。
― でも前作の『AMATERAS』には女性パートはなかったですよね。
RYU:はい。前作ではSADEW(ボーカル)を主体としたアルバムにしたかったから女性パートは入れなかったですね。
― 今回導入した理由はなんでしょう。
RYU:ボーカルをSADEW主体としたアルバム作りは前作でやりきったんですよ。だから今回は固定観念は取り払って自分が思い描いてるものを徹底して作ろうと思ったんです。もちろんボーカルの方向性は彼とも話し合いました。
― ”Wild Horizon”には、愛猫の「わさび」ちゃんが出ていますね。
RYU:そうなんです(笑) テーマに動物が入っていたので最初からわさびを登場させることは構想に入っていました。
― CG全開のハイクオリティなMVはご自身で制作されているんですよね。猫ちゃんの撮影って大変だったんじゃないですか。
RYU:大変でした……(苦笑) CGで合成する際にグリーンバックにするんですけど、あれを自宅で作って、そこにわさびが来るのを何時間も待って……という感じで、かなり苦労しました。
― そもそもCGでの映像制作はどこで勉強されたんですか。
RYU:それもコロナ禍です。映画音楽が好きって話をしましたが、同時に映画制作というか、映像制作にも興味があったんです。なので2年くらいかけて独学で習得しました。
― ってことは今回初めてMVを作ったんですよね。しかも4曲分も。
RYU:はい。
― たった2年であのクオリティって変態的才能ですね……。
RYU:(笑)
― 普通に外注したらとんでもない制作費になるんじゃないですか。
RYU:1つの3DCGアセットとかを用意するだけで何十万から100万ってかかると思うので、4本まとめてだと数百万じゃきかないと思いますよ。1000万円とか余裕かもしれないですね。制作時間も合計3000時間とか平気で超えてますし。
― そこまでこだわりにこだわり抜いたMVだと……。同じく『METALIA』からは ”QUINTESSA”がMVになっていますね。
RYU: あれが最初に作ったMVなんですよ。
― あれが最初ってクオリティ高すぎで頭いかれてますね(苦笑) でもあの曲はこれまでのブラステらしさのハードさ、スピード感、ポップさがありつつも、今回の新しいブラステの序章とも感じられました。が、一方の『CYBERIA』はメタル的な要素はずいぶんと影をひそめて、デジタルロックというかデジタルポップと言うか、そちらに振り切っていますよね。メンバーの皆さんは戸惑いませんでしたか。
RYU: それが全然そんなことなくて、みんなあのアルバムの楽曲を気に入ってくれたんです。むしろもっとやれって感じでした(笑)
― そもそもこの性格が違う2枚のアルバムは楽曲が出来上がってから振り分けたのですか。それとも最初から狙って作ったのですか。
RYU:最初から狙って作りました。楽曲の骨組み自体は2~3時間くらいでそれぞれ作ったんです。
― MVにもなっている “Unreal World” はダンサーが踊っていますよね。サビや女性コーラス的な部分が適度に繰り返されるところに、テクノやヒップホップ的な要素を強く感じます。最後に公開された”Tonight→Delight”とともに、両楽曲ともにSADEWさんまでもが楽し気に踊っているじゃないですか。
RYU: SADEWって強面なんですが、実際はオモシロ人間なんですよ。そういう彼の一面をもっと広めたいと思っていて、ああいう感じになったんです。
― ダンスはどのように付けたのですか。
RYU:ダンサーの方に楽曲に合うように考えてもらいました。
― 『CYBERIA』の楽曲を聞くと、本当にK-POP的なダンスミュージックの影響も感じますね。あと、楽曲名がユニークなもの多くないですか。”Cyber Shogun”, “Dancing Shikabane”、”Ai Ai Ai”とか。
RYU: それもSADEWの個性を引きだたせるためとも言えますね。
― コロナ禍でCGを学ぶ時間があったとはいえ、なぜ3000時間もかけてまでMVを作ろうと思ったのですか。ざっと計算しても4ヵ月くらい費やしているわけじゃないですか。
RYU: 映像制作に興味があったというのもそうなんですが、もともと映像と音楽には密接な関係性があって、1つのアートだと思っていたんですよ。頭に浮かぶ音と映像を完璧に再現したいと考えて、それに挑戦したかったんですよね。
― 専門家に作ってもらうという選択肢はなかったのですか。
RYU: 普通ならそうしますよね。でも第三者にお願いしたとき、自分が思い描くものが100%実現するとは限らないじゃないですか。だったら自分でとことん納得するまで作りたかったんです。
結局のところ、自分がやりたいことは自分にしかできないと思うんですよ。途方もない挑戦でしたけど、自分の思い描く音楽と映像がより強固なものになったかと思います。音楽と映像というアートを1人の人間が生み出していく、新しい時代がきているんでしょうね。
― アーティストの新時代がきている……それはたしかにそうなのかもしれませんね。RYUさんは音楽理論とか楽曲制作とかに関しての講師業もされていたと思いますが、その辺りはご自身のアーティスト活動に影響があったりはするのですか。
RYU: 教えているのは専門学校なので、生徒はみんな二十歳前後なんですよ。そういった意味では若い子たちが聞く音楽や思考にずっと触れられるので、情報や感覚は常に新しいものを養えているかなと思います。
― 生徒さんをみて、以前と何か違いを覚えたりはしますか。
RYU: 自分が作曲とかを教えているからかもしれないんですが、バンドで活動しようという子がだいぶ少ないなと感じます。いまは色んな技術が発達しているし、ネットもあるので活動をバンドに限る必要がないじゃないですか。ソロでも充分にやれちゃうんですよね。でもこれはギター課とかだと違うのかもしれませんけど。
― 先ほど「音楽と映像というアートを1人の人間が生み出していく、新しい時代」という表現をされましたが、RYUさんはあくまでバンドの形態を取っています。ソロをやろうとは思わないのですか。
RYU: いやぁ……ソロはどうですかね。ぼくは歌がダメなんですよ。その時点でぼくが表現したいことをぼくひとりで表現ができないんですね。だからバンドを選択しています。
― 今後の活動はどのような予定ですか。
RYU:ワンマンライブが何本か決まっているのでまずそれですね。できるだけ多くの方に知ってもらいたいし、聞いてもらいたいので、フェスとかイベントとかあれば、積極的に出たいとは考えています。
もう次のアルバムの話もあるので、ライブをしつつ構想を固めていくって感じですね。
― アルバムを2枚同時に作って、MVまで全部自分でやって……やりきったと思うのですが、今後RYUさん自身がやっていきたいことってあるんですか。
RYU:MVに関しては今回4曲だけですけど、本当は全曲映像化したいくらいなんですよ。でも映像制作がある程度できるようになったので、もっと進化させてSFとか短編映画とかそういったものが将来作れたら面白いですね。
(文・構成=Leoneko)
【BLOOD STAIN CHILD ライブ&チケット情報】
●METALIA phase
6月8日(土) 大阪 心斎橋 soma
https://eplus.jp/sf/detail/4063290001-P0030001
6月16日(日) 東京 吉祥寺 ROCK JOINT GB
https://eplus.jp/sf/detail/4063190001-P0030001
●CYBERIA phase
7月6日(土) 大阪 心斎橋 soma
https://eplus.jp/sf/detail/4063300001-P0030001
7月27日(日) 東京 新宿 Wildside Tokyo
https://eplus.jp/sf/detail/4063520001-P0030001
●特設サイト
http://www.bloodstainchild.com/wrelease.html
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