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『ブルーモーメント』第3話 原作にないオリキャラの造形と、“天才”を演出する難しさ

山下智久(Getty Imagesより)

 気象の専門家が指揮を執って自然災害に立ち向かう人命救助サスペンスドラマ『ブルーモーメント』(フジテレビ系)も第3話。第1話と第2話では、ぶっ通しの雪山ロケで映画『ホワイトアウト』(00)をやりましたが、今回は火災と風のお話だそうです。『バックドラフト』(91)かな、と思ったら、実際はドラマ『ER緊急救命室』(94)のほうでした。

 ひとりのお医者さんが「SDM(特別災害対策本部)」チームに加わるまでのお話。振り返りましょう。

■オリキャラを造形するということ

 今回の主人公である汐見医師(夏帆)は、あるきっかけで右腕の神経を傷つけてしまい、繊細な手術ができなくなってしまった脳神経外科医。かつては「ゴッドハンド」と呼ばれ、汐見医師にしか成しえない手術をいくつも成功させてきましたが、医師としての存在意義を見失いかけていました。

 そんなとき、病院側から「SDM」医療班への加入を求められます。

 絶対に腕を治して、また脳外として人を救うことを心に決めていた汐見医師でしたが、実際あんまり病院では役に立っていないことも自覚していたので、このチームに渋々参加。乗り気でないことをリーダーのハルカン(山下智久)に見抜かれて実に不機嫌です。

 さらに、「SDM」医療班の統括責任者が汐見医師の病院の院長と対立関係にあることから、チームの中にも居場所がない。火災現場の避難所でも運搬係を命じられ、すっかりやる気を失ってしまいました。

 その汐見医師が腕の神経をやってしまったきっかけですが、これがシビアな話だったんだ。

 難しい脳腫瘍を持ち前のゴッドハンドで治してあげた女の子が、親に虐待を受けていた。その女の子が病院の屋上から汐見医師に「治してほしくなかった」とか言いながら、目の前で飛び降りたのです。

 汐見医師はネグレクト被害児の命を救ったことで、その逆恨み、八つ当たりで復讐の対象とされてしまったわけです。女の子の中で、「死にたい」「なんで私が死ななきゃいけないの」「何も悪いことしてないのに」「こんなのは不公平だ」「せめて私と同じ苦しみを誰かに味わってほしい」「私が死んで誰かにダメージを与えてやる」「でも、親は私が死んでも喜ぶし」「そうだ、あの医者なら、私が目の前で死んだら苦しむはずだ」「これで公平だ」という思考回路が生まれたのでしょう。虐待ってそういうものだし、そうして飛び降りた女の子を救おうとして、汐見医師は腕の神経を損傷してしまった。

「私を助けたこと、後悔してる?」

 生き延びた女の子に、そんなことまで聞かれちゃう汐見医師。地獄ですわ。

 ちなみに汐見医師は原作コミックには登場しないオリジナルキャラクター。がっつり作り込んできましたし、今回の後半で救命措置をしながら口にした「絶対助ける、死なせない」なんて、もうこの手のお話で何万回も聞いたことがあるセリフがぐぐっと胸に迫ってきましたので、キャラクター造形として成功していると思いました。

 結局のところ、その人物が吐いたセリフがこっちに迫ってくるかどうかというのが、ドラマの中にいるキャラクターの魅力のすべてですからね。夏帆の「絶対助ける、死なせない」が、ぐっときたんだよねえ。

 自分の腕が治らないことを察しているのに、あきらめきれないでいる汐見医師。そんな汐見医師に「希望を捨てろ、絶望も悪くない」と言ってのけたハルカンにも、ぐっときた。自分の判断ミスで婚約者を亡くした過去があるハルカンにしか言えないセリフです。

『ブルーモーメント』、しばしばぐっときます。

■ハルカンの“才能”についての表現

 今回の「SDM」の派遣先は、火災現場でした。現場ではフェーン現象が起きていて、大規模延焼の可能性が高い。史上稀にみる大火災になるかもしれない。そんな現場で、ハルカンが風を読みながら消防隊に指示を出し、鎮火を試みることになりました。

 このドラマすごくおもしろいんですが、今後弱点になっていきそうだなぁと感じるのが、このハルカンの指示のくだりなんです。

 天才的な計算能力で風を読むというロジックには納得感があるんですが、それを考えているときのハルカンが、なんかパソコンにプログラムを打ってるんです。そのあと、複雑な数式がハルカンの頭の周りにフワーっと浮かんでくるんですが、ここで表現されるハルカンの“天才っぷり”の意味が全然わからない。

 例えば「天才探偵」だったら、ひとつひとつ事件を紐解いていく段取りに爽快感やカタルシスがあるし、「天才ピアニスト」だったら演奏シーンひとつで説得力を持たせることができる。「天才バッター」は逆転満塁ホームランを打つ。

「風を読む」「雪崩のタイミングを言い当てる」というハルカンの天才能力は「言うとおりになっただろ」という結果論しか与えられることができず、天才を扱うドラマならではの爽快感、説得力が演出しにくいのかなと感じたのです。

 今後はそういうところにも注目してみていきたいところです。何しろおもしろいし。

 あと、1コだけ。火災現場に駆け付けたハルカンが、リュックサックを片方だけかけてたんですよね。バックショットで「SDM」ジャンパーのロゴを見せたかったという意図はわかるけど、現場なんだからちゃんと背負えよと思いました。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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最終更新:2024/05/17 12:41
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