『イップス』第3話 上質なミステリーと拭えない不快感
#イップス
26日に放送された『イップス』(フジテレビ系)第3話。普通にできていたことが急にできなくなる“イップス”を患って小説が書けなくなったミステリー作家・黒羽ミコ(篠原涼子)と、同じく“イップス”によって事件現場に行けなくなった警視庁捜査一課の元エリート刑事・森野徹(バカリズム)がドタバタしながら殺人事件を解いていく倒叙型ミステリーです。
ミコさんは一切小説が書けませんが、森野はここまで「ううっ」となりつつも冴えた推理を披露しまくり、事件を解決しまくっています。全然同じじゃないや。
振り返りましょう。
■殺人事件に“ニン”を乗せること
1話、2話のレビューでは、とにかく事件の加害者にも被害者にも“ニン”が乗ってない。犯人の計画や対応がずさんすぎる。殺人に執念や信念が感じられない。事件が魅力的じゃない。美学を感じない。だからおもしろくないというようなことを言ってきましたが、今回は事件の構造そのものは魅力的でした。
アホな二世議員と、先代から仕えている優秀な秘書さん。アホが逆上して秘書さんを刺してしまう。刺された秘書さんはそれでもアホをかばおうとする。それは先代に誓ったことだし、アホにもそれなりに期待をしていたから。
要するに、事件に“ニン”が乗りまくっているのです。基本的には密室を作ってそれを崩すというシンプルな仕掛けですし、刺した瞬間とその後に被害者の血液が「飛ぶ、垂れる、付着する」という物理法則の扱いに雑なところこそありましたが、刺された秘書さんの「刺されてもなお、この家のために……!」という信念が見えたし、その被害者としての仕草には秘書さんの人生が丸ごと現出していました。
今回の脚本はメインのオークラさんではなく、森ハヤシさん。オークラさんと同じくお笑い畑の出身で、『世にも奇妙な物語』(同)シリーズで名を挙げた脚本家です。メイン演出の筧昌也さんとも『ロス:タイム:ライフ』シリーズで一緒に仕事をしてますし、仕掛けを作るのを得手としているのかもしれません。
というかこの仕掛け、引き出しから出してきただろ、という感じがすごいんです。
今回新たに『イップス』用に作ったのではなく、どこかで使おうと思って置いてあったアイディアなんだろうなと思っちゃったんです。それくらいミステリーとして成立しまくっているし、1話2話に比べて謎解きの出来がよすぎる。平田満が演じた秘書の田所さん、記憶に残る被害者でした。
■じゃあよかったのかと言われれば
じゃあ今回はおもしろかったのかと言われれば、そうでもないんですよねえ。『イップス』、苦しんでると思う。
まずミコさんと森野はこれまで事件現場で偶然出会っていましたが、ミコさんが森野をモデルに小説を書きたいから取材として捜査に同行するという設定がプラスされたことで、とりあえず「いつも現場にいる」という必然性は確保しました。
それにしても、どう見てもしゃしゃりすぎなんです。森野がイップスで現場にいられないというそもそもの設定が仇になって、ミコさんが単独捜査をせざるを得ない状況が生まれてしまっている。さらにコメディであろうとすることで、「人が死んでんのに、うるせえなコイツ」という印象を与えてしまっている。
篠原涼子は演出のオーダーによく応えていると思います。「篠原涼子はどんな役でも篠原涼子だから今回もダメだ」なんて意見もネット上には散見されるわけですが、その篠原涼子を演じてもらうことを意図して呼んでるんだから、役者が批判の的にされるのは見当違いです。ただシンプルに「今回の篠原涼子の役柄は不快だ」とだけ言えばいい。うん、不快ではある。
どうなるんだろう、このドラマ。事件の仕掛けが粗末でおもしろくないな、と思っていたところで、上質なミステリーを組んできたら、それはそれでおもしろくなかった。なんか八方ふさがりな感じがしてきました。
なんとか、この謎を解いてほしいところです。
(文=どらまっ子AKIちゃん)
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