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日刊サイゾー トップ > エンタメ > ドラマ  > 『くるり』第3話 またずっと人生の話

『くるり』第3話 またずっと人生とコミュニケーションと仕事の話してる

生見愛瑠

 ポップンラブコメの皮をかぶったルックからマジなテーマ性をぐいぐい押し出してくる本格ドラマ『くるり~誰が私と恋をした?~』(TBS系)の23日放送分は第3話。今回も「恋心だだ漏れの指先」なんてサブタイトルとは到底似合わない教訓と示唆に満ちた作品となっておりました。

 このドラマは、ホントに伝えたいことがあって、それが受け手にとって大切なことであっても、ただ言うだけじゃ伝わらないんだよということを言っています。受け取るほうが受け取りやすいように、わかりやすいように、身近で興味のある事柄に即した話にしてあげないと、耳を傾けてもらえない。だから、あなたにもわかりやすく例え話にする。これ、聖書のやり口ですからね。

 振り返りましょう。

■「傷も歴史」という話

 神社の階段から落ちて記憶喪失になってしまったまこちゃん(生見愛瑠)。周囲の人から話を聞くうちに過去の自分の振る舞いや環境に嫌気がさしてしまい、勢いで会社を辞めてしまったのが前回まで。再就職先をいろいろ当たるものの、最終的には町の指輪職人・杏璃さん(ともさかりえ)に弟子入りすることにしました。

 この指輪屋さんは、記憶を失ったまこちゃんの持ち物の中にあった「誰か(男)にプレゼントする予定だったはずの指輪」を作った店でした。人が仕事を選ぶのにはどうしたって根拠が必要で、私たちはそれを自分の興味や経験に求めることになります。しかしまこちゃんは「自分が何が好きだったか」もわからないし、経験も失ってしまった。そこには指輪だけがあって、その指輪はまこちゃんが「過去に誰かを好きだった気持ち」を持っていたという証明でした。迷ったとき、人は妥協せずに本当に信じられるもの、真実の場所に身を置くべきだという判断を披露しています。

 その店に現れた、いかにも冴えない男性客(別府ともひこ)。聞けば、ペアリングをなくしてしまったのだという。なくしたことを彼女に知られたくないので、同じものを作ってほしい。そんな客の要望を、まこちゃんの師匠である杏璃さんはやんわりと断ります。

「それは、同じではありますが……」

 そう諭され、客も「新しいものじゃダメですよね……」とあきらめることにしたようです。

 どれだけ探しても出てこない、どこに置いたか思い出せない。その客にとってのペアリングは、まこちゃんにとっては人生そのものでした。

「ダメじゃ、ないんじゃないですか。ないものは、ないんだし」

 記憶を失ったことを受け入れ、新しい人生を歩んでいくことを決意したまこちゃんは、ここで初めて「なくされた側」「忘れられた側」に対して自分の思いが及んでいなかったことに気づかされるのです。

「わかってはいるんです。指輪にできた傷も僕たちの歴史で、新しい指輪じゃ意味がないって」

「傷も歴史」。重いセリフです。こうしてドラマはまこちゃんに「記憶を失う」ということがどういうことなのか、ひとつひとつ現実を積み重ねながら突き付けていくことになります。

『くるり』の第3話は、「本当の自分を探す旅」の中にいるまこちゃんの意識が、他者に向いていく様を描いています。

 象徴的なシーンがありました。指輪を叩いて成型する練習をしていたまこちゃんに対し、師匠の杏璃さんが顔を向けることもなく「雑になってる、今日は休みなさい」と指示します。見てないくせに、なんで「雑になってる」とか言うの。そういう理不尽な対応を飲み込めるかどうか試されてるの。そう訝しがるまこちゃんに、元カレの花屋さん・公太郎(瀬戸康史)はこう言うのです。

「師匠が弟子を見るんじゃなくて、弟子が師匠を見るんじゃないの。プロの世界なら」

 どこかで、記憶を失ってもちゃんと自分の考えで就職先を決めた私、明るい私、練習もがんばってる私、そんな私は立派に新しい一歩を踏み出しているという実感が、「だからちゃんと見て」という傲慢さを生んでいた。

 それを気づかせてくれる人は、昔の自分をもっともよく知る元カレだった。ついでに、「仕事中もちゃんと飯食え」とか「ハンドクリーム塗れ」とか、職人としての働き方も教えてくれた。

「傷も歴史」とは、そういうことです。師匠に冷たくあしらわれたこと、手が荒れていること、そういう傷が、ひとつひとつ記憶を失ったまこちゃんの歴史になっていく。そうして、自分だけの価値観を再発見していく。

 まこちゃんの心の動きは、めるるの的確な芝居によって生き生きと表現されています。

■それをラブコメのミステリーでやるという

 上記のようなメッセージ性が、『くるり』ではまるで裏テーマであるかのように描かれます。元カレイケメンと元同僚イケメンの朝日(神尾楓珠)が嫉妬し合ったり意地を張り合ったり、謎のITイケメン・律(宮世瑠弥)がおせっかいを焼いてきたり、表向きはまこちゃんを巡ってイケメンたちが右往左往する楽しくポップなラブコメとして作られている。

 その一方で、まこちゃんが階段から転落した日に何があったのかというミステリーについても、情報が小出しにされ始めています。

 現場となった神社は、公太郎のジョギングコースであり、朝日もよく立ち寄る場所であり、律は事故にあった日にそこで花見をしていた。3人のイケメンはそれぞれにフラグが立ったカレシ候補でありながら、まこちゃんの事故に関わった容疑者でもある。

 第1話を見始めたとき、ここまで重層的なドラマが展開されるなんて想像すらしてませんでした。最終回までちゃんと見ることが、自分の人生の歴史になるかもしれない。そう思えるドラマは、なかなかないですよね。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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どらまっ子です。

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最終更新:2024/04/24 11:00
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