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日刊サイゾー トップ > エンタメ > ドラマ  > 『イップス』第2話 殺意の強さと計画の精度

『イップス』第2話 殺意の強さと計画の精度が釣り合ってないのです

 オークラ脚本、バカリズム主演の『イップス』(フジテレビ系)、19日放送の第2話です。

 警視庁捜査1課の刑事・森野徹(バカリズム)とミステリー作家・黒羽ミコ(篠原涼子)は、ともにお仕事上のスランプに陥っていて、絶不調。そんな冴えない中年2人がバディを組んで殺人事件を解決していくという1話完結型のドラマです。

 タイトルは『イップス』ですが、やっぱりこの2人の状態は「スランプ」と言ったほうが正しい気がするんだよなぁ。まあ、そのへんは飲み込みつつ振り返りましょう。

■どんどん飲み込みましょう。

 小説のネタ探しのために事件現場に介入したくてしょうがないミコさんは、森野につきまとうことにしたようです。

 そんなミコさんが偶然訪れたカラオケボックスで、偶然、森野も1人カラオケをしていました。そのカラオケ屋で偶然、人気YouTuberが生配信をしていて、その日その時間に偶然、殺人事件が起こる。ミコさんにとっては願ってもない機会が訪れるわけです。

 偶然が過ぎるだろうと思いますが、主人公が偶然、事件に遭遇するのはミステリーとして仕方のないところなので、このへんもどんどん飲み込んでいきます。

 今回は、2人組のYouTuberの片方が生配信中に相方を殺したという事件。「生配信中」という完璧なアリバイをどう崩すかがキーになります。

 ところで、『イップス』は倒叙を選択しています。視聴者に犯人を推理させるのではなく、先に犯人を明かしておいて、その謎を主人公が解いていくというスタイルです。この場合、「犯人は誰なの?」というミステリーとしての楽しみをひとつ放棄しているわけですから、謎解きには相応の楽しみを用意しなければなりません。「犯人が誰だかわかっていてもおもしろいミステリー」は、普通の犯人がわからないミステリーよりも謎解きがおもしろくなければ、倒叙を採用した意味がないのです。

 だから前回も今回も、倒叙である限り謎解きのおもしろさを求めてしまうわけですが、やっぱちょっとしんどいね。出来としてしんどいです。

 ミステリーにおける殺人犯のタイプというのは大きく分けて2つあると思っていて、ひとつは確固たる殺意をもって綿密な計画を立てて、それを完璧に実行した犯人です。この場合、刑事側に求められるのは犯人の計画を見抜く推理力ということになります。

 もうひとつは、殺すつもりはなかったけど偶然が重なって相手を殺してしまった犯人。例えば憎い相手を突き飛ばしたら、ガラスの灰皿に頭を打って死んでしまったとか、そういう類です。この場合、犯人に計画はないわけですから、刑事側に求められるのは、現場におけるあらゆる可能性を検討する想像力ということになります。

 このように犯行のタイプによって刑事側に求められる解決への道筋も変わってくるわけですが、今回の犯人は「明確に殺意がある」かつ「偶然が重なって」相手を殺しています。計画がぜんぜん綿密じゃないし、かなりの部分で偶然に依存している。適当にバット振ったら偶然ホームランが打てちゃった、くらいの確率で殺人が成功しているんですね。殺意の強さと計画の精度が釣り合ってない。明確な殺意があるのに綿密な計画を立てることができない犯人は、ミステリーの世界では「レベルの低い殺人者」とみなされることになります。

 だから事件が魅力的じゃないんです。その殺人に怨念や執念や信念が乗ってる感じがしない。謎解きに美学を感じない。倒叙なのに謎解きが弱いというのは、このドラマの明確な弱点になっていると感じます。

■「YouTuberおもんない」とかの話

 一方で、若いYouTuberの2人を描いた物語としては見るべきものがあったと思います。

 最初は仲良しの友達同士で好きなことをやってるだけだった。それが思いのほか世の中に受け入れられて、金も入ってくるようになった。ただ楽しかっただけの活動に、いつの間にか責任が生じるようになった。

 次第に相方の純粋さが疎ましくなってくる。犯人の耳には、粗品あたりがテレビで言ってる「YouTuberおもんない」なんて声も届いていることでしょう。さらにいえば、自分でも自分たちの活動がそんなにおもしろいものではないことにも気付いている。

「でも需要があるんだからいいだろ」

 そうやって自分自身を騙して活動しているうちに、相方にまで軽蔑されていると思い込んでしまう。

 その相方は、実は自分よりも自分の才能を信じていてくれたことに、殺してしまった後に気づく。

 才能とか評価とか、自意識とか信頼とか、このへんのお話はオークラさんの芯に近い部分の話だったと思うし、若いクリエイターに対する優しさを感じるところでもありました。ドラマとしての信念や美学があった部分だと思います。

 前回のレビューで、このミステリーは謎解きに“ニン”が乗ってないという話をしましたが、今回もそう。むしろ、より「ミステリーの部分で勝負してませんから」というエクスキューズを見せられた気分です。倒叙で、大部分の時間を使って謎解きをやって、それは通りませんよと思いました。

 そんでクレジット見てたら、「トリック監修」っていう人が入ってるんですね。なるほど、そうか、トリックに“ニン”が乗らないわけだ。ニンニン。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子です。

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最終更新:2024/04/21 11:18
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