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日刊サイゾー トップ > エンタメ > お笑い  > 『R-1グランプリ』全ネタレビュー【後編】

『R-1グランプリ』王者に街裏ぴんく! 全ネタレビューで振り返る【後編】

(前編はこちら/中編はこちら

■吉住「活動家」

 まず、吉住の1人コントは徹底して「相手としゃべる」ということをやっていて、そこにまったく違和感や不安感がないお芝居のすごさがあるという前提で、そこにエキセントリックなキャラを乗せるので、やっぱり深みが出ちゃう。深み、出てるなぁと感じます。

 お話としても、「デモ隊の女性が来た」というところから始まって「意外にかわいげがある」が来て、「火炎瓶に動じない」からの「骨のあるやつら」まで4分の中にダイナミックな起承転結が組み込まれていて、深みが出ちゃってるなぁ。おもしろいなぁ。

 深みがあって何が悪いのかって話になれば、全然悪くないのだけれど、ちょっとネタが強すぎるというか、人物が強すぎる感じがするんです。1人コントの世界の中で私たちは架空の相手役を想像しながら見るわけですけど、吉住の人物像が強すぎて、相手の顔が想像しにくくなってる。「もうあの頃の日常が戻ってくると思わないでください」って言われた彼氏の父母が“本当”はどんな顔をしているのか見たいという欲求が出てきてしまう。想像の及ばないくらいのリアクションを、架空の相手に求めるようになってしまっている。

 その意味で、いまの吉住は1人コントより、強い相手と共演するほうが映える芸人になってしまっているなぁと。そう感じたのは、まあ去年『R-1』辞退してまで出た舞台を見たときの怪演の印象を引きずっているのもあると思うけど。

■トンツカタンお抹茶「かりんとうの車」

 めちゃくちゃいい出順で来たな。事務所の大後輩・吉住がきっちりかっちり場を整えたところで、満を持しての歌唱である。

 ユーロビートとまるで似つかわしくない気持ち悪いボーカルだったり、そのくせ譜割が完璧に気持ちよかったり、かりんとうの車を手に入れて、たぶん初ドライブなのかな、すごく楽しそうだったり、歌詞の内容はもちろんだけど、全体的にすげえおもしろいし、最下位だと思う。

 なんにしても4分ずっとおもしろかったのはホントにすごいし、最下位だと思う。

■どくさいスイッチ企画「ツチノコ」

 逆に出順で損したなぁと思ったのがどくさい先生。お抹茶のネタがなんか物悲しい曲調もあって、変なアニメのエンディングテーマみたいだったのよね。

 その直後に、ものすごく真っ当なコントだったので、最初のツチノコ発見の瞬間に見る側が少し乗り遅れた感じがした。その後もテンポが速いのと、ほんの一瞬、笑う前に理解が必要なのとで置いて行かれたまま突っ走られた感じ。

 とはいえ、『R-1』で4位という順位に相応しい台本とパフォーマンスだったと思います。『R-1』、夢あるなぁ。

■最終決戦

 結果として、3人のうち唯一2本目のほうが強かった街裏ぴんくが優勝。1本目でどういうことをやる人なのか理解させたうえで、石川啄木からモー娘と格段にとっつきやすいテーマを持ってきたところで、勝ち確だった。

 一方で、ルシファーの1本目はピンのコントとしてひとつの到達点を見せたし、地味ながらロッチ、チョコプラと並ぶ2本目やっちまった芸人になったと思う。根拠はないけど、今回の空気だったら神宮球場にデリヘル呼んでもよかったんじゃないかという気がする。

 全体として、ちゃんと「勝負」を見たという充足感のある『R-1』だった。芸歴制限撤廃は明らかに成功だし、来年以降誰が出て誰が出ないのかも含めて注目したくなる大会だった。それはつまり、本当に夢のある大会になったということだ。

(文=新越谷ノリヲ)

新越谷ノリヲ(ライター)

東武伊勢崎線新越谷駅周辺をこよなく愛する中年ライター。お笑い、ドラマ、ボクシングなど。現在は23区内在住。

n.shinkoshigaya@gmail.com

最終更新:2024/03/10 17:02
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