『R-1グランプリ』王者に街裏ぴんく! 全ネタレビューで振り返る【中編】
#R-1ぐらんぷり
■街裏ぴんく「温水プール」
うわー、ホントに『R-1』本戦に出てきたよ、おめでとう。という気分で見始めてしまっている時点でフェアではないのだけれど、それは仕方ないとして。
審査員も、おそらく全員が、ぴんくさんが「どんなウソを言うのか」という視点で待っているわけで、この人が「ウソを言う人」という事前情報があるかないかで評価が正反対になりそうだな、というのがネタが始まってすぐ感じたことだった。最初に「着替えてきたルシファー吉岡です」「こう見えて女芸人です」というのを入れたのも「これからウソを言いますよ」というフリだったはずだが、あんまり伝わってなかったかな。
要するに、けっこうアウエイな空気で、しかも石川啄木というキャッチーでもなんでもない武器で、よくこれだけのウケまで持ってったなぁと途中から感動してきてしまった。
「森鴎外の葬式」とか「キュリー夫人が聞き役」とか、もはやなんでおもしろいのか全然わからないし、ぴんくさん本人も水がプールの減る理由とか「全然わからない」と言ってるし、「何がウケるか考えてやる」のではなく「これがウケたから、もっとこっちに行ったらここまで来た」というキャリア、場数の証明を見せられている4分間だった。
■kento fukaya「マッチングアプリ」
一方で、「何がウケるか考えて」を目いっぱい詰め込んできたのがkento fukaya。ウザ女性キャラを入れながらハイテンポ、手数重視のワード大喜利はこの人の真骨頂で、進化しようとしてるし実際進化していることは感じられた。
目指したのはコントとフリップのハイブリッドということだと思うし、ドン引きしてイスから立ち上がったら、そこで「ト」を拾うという展開にも工夫の跡が見られるし、ウケてもいるんだけど、出順で損をしているなぁという印象は拭えなかった。前2人のハゲおじさんがドロリと生身の人生だったのに対して、やっぱり作り物に見えてしまうんだよなぁ。あと、どうしてもこの感じってバカリズムの名作「女子と女子」が浮かんでしまうので、それも損をしてると感じた。で、あなたは誰にしゃべってるの? と思っちゃうし。
がんばって面白くなって、こんだけウケてもまだ今後も悩むことがたくさんありそうで、ピン芸人っていうのは大変な仕事だなと感じました。
■寺田寛明「国語辞典コメント欄」
kentoの次に寺田が出てくるのも、また出順の妙。やりたいことをちゃんとやり切ってるし「一文字の無駄もない」という本人の自負も決して過大評価ではないと思う。
一方で、ネットのコメント欄のノリをパロディにするという手法において見る人を選ぶネタであることも確か。例えばこれが『M-1』の審査員で、しかも巨人とか恵美ちゃんとか、年の割に古臭いサンド富沢とかだとチンプンカンプンでもっと点数が出なかっただろうなという感じ。あくまでそこで勝負するという寺田の覚悟でもあると思うけど。
kentoはまだ試行錯誤の最中であり、今後苦労の予感もするけど伸びしろも感じさせたネタだったのに対し、寺田の場合はこのスタイルを確立しているうえに、そのスタイルの中で天井を叩いているという、完成度を見せたと思う。
逆に言えば、これ以上先鋭化すればウケる客を減らしていくだけだし、わかりやすい方向に振れば「わかる人にはわかる」というブランド感が薄れていくし、難しいなと思う。クオリティはあるわけだから、このままこれで十分稼げるような世界がくればいいのにと思った。
■サツマカワRPG「防犯ブザー」
これもサツマカワが普段からカツラだということを知ってるかどうかで、大きく印象の変わるネタだと思う。知ってれば「うわ『R-1』本番でやってきた!」となるけど、知らないと意味がわからないもんね。このネタのために切ってきたと思われたら引かれるだけだろうし。
中盤の防犯ブザーに関するボケのバリエーションはわかりやすくて全部当たってた反面、この人が小学校に「防犯ブザーについて講演に来た人」だという、だとしたらなんで私服なんだよとか、そのへんの意味のわからなさもおもしろかったし、無駄にメランコリックな幽霊オチもめちゃ好みだった。
もうちょい点数出るかなと思ったけど、「ヅラだったらおもしろい」というのが、サツマカワ的には“下りた”つもりだと思うけど、逆に内輪ウケになってしまったのが計算外だったかもしれない。でも、破天荒チックなわりにドラマ心があるところとか好きです。また新しいの作ってきてほしい。
あと、ご結婚おめでとうございます。ナイスカップル!
(文=新越谷ノリヲ/後編に続く)
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