『光る君へ』直秀、早すぎる死とモデルとなった歴史上の人物の“悪行”
#光る君へ
藤原実資が熱望する「公卿」という職業
さて「公卿」という身分についても解説しておきます。前回のドラマでは、藤原実資(秋山竜次さん)が「私を公卿にしておけば……」と延々とグチっており、奥方から「それ、日記に書けばよろしいのではないですか」といわれても「書かぬ!」というやりとりを例のごとく繰り返していましたよね。
現代日本では「公家」と「公卿」、それから「貴族」は、同じような意味でしか捉えられていませんが、朝廷に仕える役人たちの中で「貴族」と呼ばれるには、五位以上(正確には従五位下の官位より以上)の官位が必要でした。つまり、朝廷に仕える役人だから貴族というわけではないのです。
官位が六位から五位に上がると、待遇も一気に良くなりました。当時の朝廷で「貴族」とされる役人はだいたい500人程度ですが、その中でも官位が三位以上、つまり最高位の「貴族」にあたるのが「公卿」はわずかに20人ほど。現代日本でいえば、◯◯大臣など閣僚クラスに相当したのです。
ドラマでいえば、藤原兼家(段田安則さん)や源雅信など、黒い束帯をまとった人々が左右に分かれ、頭を突き合わせて会議をしているシーンがよく出てきますが、あれに参加している人々のことですね。
ちなみに当時は身分低き者に「人権」などなかった時代ですから、仮に直秀の刑死にまつわるエピソードが事実だったとしたら、「公卿」藤原兼家さまのご子息・道長さまのご意思を、検非違使ごときが踏みにじってしまったら、自分の命はおろか一族郎党まで亡き者にされても文句はいえなかったはずなのです。まぁ、平安時代を支配していたのは名ばかりの「平安」で、実はかなり怖い時代であったということですね。
直秀にお話を戻すと、彼の仲間には「輔保」(松本実さん)という名前のキャラもいたので、直秀一味が袴垂や藤原保輔の逸話を反映したキャラたちであったことは間違いないでしょう。いずれのモデルと目される人物にも「義賊」としての一面はありませんが……。
また、当時の葬送所として有名だった鳥辺野に連れて行かれ、あっけなく殺されてしまった直秀ですが、悪い予感がして後を追いかけていった道長とまひろが二人だけで、しかも素手であれだけの人数分の穴を掘ることができたのか……? というドラマの演出にはさすがにツッコミも入れたくなりますが、触れるのはヤボでしょう。
直秀演じる毎熊克哉さんの存在感は、少女マンガのような一面のある『光る君へ』において大きく、直秀とまひろが登場するシーンは背景にバラの花やキラキラが見えるような気がしていましたが、そういう場面も見られなくなってしまうのですね。直秀は物語の潤滑油的な存在として重要だとは思ったので残念です。手足の縄を切って、浅く埋められただけなので、息を吹き返していたというまさかの展開を期待したいところです。
その一方で、道長のプリンスぶりも際立つ回でした。「死のケガレ」もなんのその、死んだ直秀の手に(その魂の高貴さを象徴するのであろう)扇を握らせ、従者を呼びにいくわけでもなく、自ら穴を掘って埋葬しようと試みる道長のやさしさに、まひろは胸キュンしていたようです。次回のドラマでは、そんな道長をずっと見守る、つまり「推し続ける」と宣言するシーンが出てくるようですが、当初予測していたように「推す」だけでは済まない気がします。どうなることやら……。
――などと書いていると、次回の花山天皇(本郷奏多さん)出家のエピソードについて触れる余裕がなくなってきました。史実でも寛和2年(986年)6月、花山天皇は藤原道兼(ドラマでは玉置玲央さん)から「一緒に出家しよう」とそそのかされて宮中を脱出しました。そして、そのまま自分だけ剃髪させられたのに、誘った道兼は出家せずという「出家するする詐欺」に巻き込まれ、あえなく退位に追いやられています。まぁ、このあたりは次回のドラマの中心部分になってきそうですし、また次回にお話したいと思います!
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