トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed
日刊サイゾー トップ  > BL小説『ボクキミ 』1-3

新堂冬樹 連載BL小説『ボクはキミと結婚するためならアイドルをやめてもいい』1-3

ボクはキミと結婚するためならアイドルをやめてもいい

 ロッカールームには、個室のシャワーボックスが三台設置されていた。

 スポンサーの荒巻太(あらまきふとし)が、メンバーのために寄付してくれたのだ。

 蒼(あおい)はいつもより高い温度に設定した熱いシャワーを、頭から浴び続けた。

 みなの足を引っ張る実力不足の自分、最愛の人を傷つけた自分、スポンサーにえこひいきされる自分……すべてを、洗い流して排水溝に捨てたかった。

 

『僕たちは別れました。いまはもう、颯君のことをなんとも思っていません』

 

 三十分前の自分の言葉が、蒼の心に爪を立てた。

 どれだけ後悔しても、発した言葉を取り消すことはできない。

 いや、取り消してはならない。

 颯(はやて)君のためだから……。

 突然、シャワーボックスの扉が開いた。

「今日のこと、気にするな。サディは誰かに意地悪するのが三度の飯より好きな奴だから」

 弾かれたように振り返った蒼の視線の先に、腰にバスタオルを巻いた上半身裸の颯が立っていた。

「裸なんだから、早く閉めて!」

    蒼は股間を両手で押さえて叫んだ。

「いまさら、なにを言ってるんだよ? 蒼の裸は、眼を閉じていても隅々まで思い出せるよ。ゆで卵みたいなすべすべした肌、イチゴミルクみたいな色をした小さな乳首、そして、薄い繁みに覆われた……」

「やめてよ!」

   蒼は颯の隆起した胸を押し、扉を閉めた。 

 心臓が破れてしまいそうなほどに、鼓動が早鐘を打っていた。

 広い肩幅、割れた腹筋、括れたウエスト……颯の浅黒い上半身が脳裏に蘇り、「蒼」が痛いほどに硬直した。

 火照った身体と心をクールダウンさせるために、蒼はシャワーを水に切り替えた。

 身体は冷えても、「蒼」は熱を帯びたままだった。

 言葉では拒否しても、身体は颯を覚えていた。

 視界から消しても、心が颯をみつめていた。

 それでも、颯を忘れなければならない。

 それが、颯に対しての蒼の純愛の証だ。

 十秒、二十秒……心を落ち着けても、「蒼」は硬直したままだった。

 ふたたび、扉が開く音がした。

「もう、開けたらダメだって言ったでしょ!」

    振り返った蒼の視線が凍てついた。

 蒼の視線の先にいたのは、颯ではなかった。

 ワイシャツのボタンが弾け飛びそうなアンコ型の身体、短い手足、大きな顔にひしゃげた鼻と三重顎……スポンサーの荒巻太が、死んだ魚のような瞳で蒼を見据えていた。

「誰と勘違いしてるのかな~ん? 私は初めてきたんだよ~ん」

 荒巻の口調はふざけていたが、蒼をみ据える瞳は笑っていなかった。

 蒼の両腕を、嫌悪の鳥肌が埋め尽くした。

「この扉を、私の前に開けたのは誰かな~ん?」

    荒巻がねっとりした口調で訊ねてきた。

 蒼の鳥肌が、両腕から上半身に広がった。

「あ、いえ……誰もきてませんけど……」

 蒼はしどろもどろに言った。

「じゃあ、もう、開けたらダメって言ってるでしょ! って、誰に言ったのかな~ん?」

   荒巻が蒼の声真似をしながら、ねちねちと質問を続けた。

「それは……その……蓮(れん)君が開けたのかと思いまして……」

「颯君じゃなくて~ん?」

   荒巻が疑わしそうな眼で蒼を見据えた。

「颯君じゃなくて、蓮君です」

   すかさず、蒼は否定した。

「どうして、颯君ではなく蓮君が開けたと思うのかな~ん?」

   荒巻は執拗に質問を続けた。

 疑われている。颯との関係が続いているのではないかと……。

 それだけはだめだ。

 嫉妬した荒巻が、颯にどんな嫌がらせをするかわかったものではない。

「颯君とは別れたので、僕を訊ねてくることはありませんから」

 平静を装い、蒼は言った。

 颯を守るために、荒巻に動揺を悟られてはならない。

「なるほど。だったら、蒼ちゃんのそれはどうしてそんなになってるのかな~ん?」

 荒巻の視線が下がった――硬くなり反り返った「蒼」に注がれた。

「あ……」

 蒼は慌てて、両手で股間を覆った。

 突然に現れた荒巻に動揺し、勃起していることを忘れていた。 

「蒼ちゃんのおちんぽは、誰を見て勃起したのかな~ん?」

「いえ、あの……」

「手をどけなさい」

 蒼を遮り、荒巻が真面目な声で命じた。

「でも……」

「スポンサー命令だ。早く手をどけなさい」

 荒巻がマッコリのように濁った眼で、蒼を見据えた。

 荒巻を刺激すると最悪な展開になることは、これまでの経験でわかっていた。

 蒼が秘部を覆っていた両手をどけると、勢いよく「蒼」が跳ね上がった。

「おっとっと~。活きのいいおちんぽだね~」

 荒巻が下卑た笑いを浮かべた。

 赤くぶよぶよに腫れた歯槽膿漏の歯茎と、煙草のヤニに黄色く染まった歯――蒼の胃液が食道を逆流した。

「蒼ちゃんのおちんぽがそんなにカチカチになるのは、やっぱり元カレの颯君がきたからじゃないのかな~ん?」

 荒巻が「蒼」に舐めるような視線を這わせながら質問を再開した。

「違います」

 蒼は否定した。

「だったら、蓮君でギンギンになったのかな~ん?」

    荒巻が「蒼」を凝視したまま質問を重ねた。

「違います」

 ふたたび蒼は否定した。

「もしかして、まさかまさかのマカロン先生?」

「違います!」

    食い気味に蒼は否定した。

「ということは、ということは~」

 薄気味の悪い笑みを浮かべながら、荒巻が己の鼻を指で押さえた。

「私を見てパンパンになったのかな~ん?」

「え……」

 違います!

    喉もとまで出かかった言葉を、蒼は飲み下した。

 荒巻で興奮するなどどんな催眠術をかけられてもありえなかったが、口に出すことはできなかった。

「私を見て、パンパンになったんじゃないのか?」

    荒巻の声が不機嫌になり、鼻を押す指に力が入った。

 指の圧力で荒巻の赤らんだイチゴ鼻の毛穴が開き、ソウメンのような皮脂がにょろにょろと五ミリほど飛び出した。

    嘔吐感に、蒼の横隔膜が痙攣した。

「ん? どうなんだ? 蒼ちゃんのおちんぽがパンパンになったのは、私を見たからじゃないのか?」

    押し殺した声で言いながら荒巻がさらに強い力で鼻を押すと、五ミリほどだった皮脂が一センチになった。

「違うのか? 私なんか、キモくて興奮するはずないとでも言いたいのか? ん? ん? ん?」

    荒巻が顔を近づけてきた。

 赤らんだ鼻にびっしり飛び出した皮脂に、蒼の全身に鳥肌が広がった。

「いえ、そんなことありません……」

「そう、安心したよ。じゃあ、私がキモくないってことを証明してもらおうかな~ん」

 荒巻はふたたびおちゃらけた口調で言いながら、鼻の毛穴から飛び出す皮脂を人差し指ですくい、蒼の唇の前に突き出した。

「さあ、特製の荒巻鼻練乳を召し上がれ」

「え……」

「どうした?  好きな男の精子なら飲むんだろう? 私のことを好きなら、鼻練乳くらい食べられるだろう?  心配しないでも、私の皮脂はまろやかだから口の中に含んだら生クリームみたいに溶けるから。少なくとも、颯君の精子よりは美味しいよ。さあ、召し上がれ」

 荒巻が、皮脂を載せた人差し指を蒼の唇に近づけた。

「ほら、どうした?  荒巻鼻練乳を拒否するってことは、荒巻太さんを拒否することと同じだよ。『サクランボーイズ』がメジャーデビューできるのは誰のおかげ?  荒巻太さんのおかげだよ。颯君が、女手一つで育ててくれた年老いた母親に楽をさせてあげられるのは誰のおかげ? 荒巻太さんのおかげだよ。私が『サクランボーイズ』に大金を注ぎ込んでいるのは、颯君や蓮君のためではなく蒼ちゃん、君のためだ。でも、その蒼ちゃんが荒巻太さんを拒否するなら……これ以上は、言わなくてもわかるよね~ん?」

   荒巻が大きな顔を近づけ、マシュマロを詰めたような腫れぼったい一重瞼でウインクした。

 歯槽膿漏特有の卵が腐ったような悪臭に、蒼はえずいた。

 どうしよう……。こんな汚らわしい物を食べることなどできないよ。

 でも、僕が拒否すれば「サクランボーイズ」はメジャーデビューできない。

 颯君が年老いたお母さんを養えなくなってしまう……。

 蒼は意を決し、きつく眼を閉じ唇を開けた。

 蒼の長いまつ毛が震えた。

「冗談だよ~ん」

 荒巻の声に、蒼は恐る恐る眼を開けた。

「荒巻鼻練乳なんて、食べなくてもいいんだよ~ん」

 荒巻が、指先で山盛りになった皮脂を蒼の胸に擦りつけながら言った。

「素直にあ~んって口を開けて、蒼ちゃんはいい子ちゃんだね~。ご褒美をあげるよ~ん」

 荒巻が蒼の顔を両手で挟み、顔を近づけると口をもごもごさせた。

 蒼の口の中に、荒巻が窄めた唇から赤い唾液を垂らした。

 口内に酸っぱい味が広がった。

「歯茎の血が混じったから、鉄分補給できるよ~ん」

 荒巻の弛んだ頬肉が痙攣した……いや、笑ったのだ。

 反射的に吐き出そうとしたが、蒼は寸前のところで思い止まった。

 蒼は心を無にして、荒巻の唾液を飲み込んだ。

「ゴックンしてえらいね~。そういうとこ、かわいくて好きだよ~ん」

 荒巻がワイシャツ姿のままシャワーボックスに押し入り、蒼を抱き締めた。

 蒼の頬、首、鎖骨、上半身に、荒巻が貪るように吸い付き、舌を這わせた。

「肌が瑞々しくて、雪みたいに白くて、乳首が桜の蕾みたいで……ああ……たまらん!」

    荒巻が蒼の乳首を吸い、舌先で転がした。

 背筋に悪寒が走り、反り返っていた「蒼」が下を向いた。

「荒巻さん……誰か入ってきたらまずいですから……」

 蒼は嫌悪感に懸命に抗いながら、荒巻を刺激しないように言った。

「二人のときは、太さんと呼びなさい。それから、安心していいよ。早乙女社長は、私と君の関係には口を挟めないからね~ん」

 荒巻の言葉に、蒼は眩暈に襲われた。

「そっちを向いて」

 荒巻が蒼の身体を回転させた。

「おお……たまらんプリケツ……んむむむむ……」

 荒巻が膝をつき、蒼のキュっと上がった張りのある小尻を両手でわしづかみにすると割れ目に顔を埋めた。

「うむふぉあ……たまらん……むふぉん……蒼ちゃんのプリケツはうまいよ……ああ……美味しい!」

 荒巻が気色の悪い声を漏らしながら、蒼の肛門を舐めまくった。

「荒巻さん、こんなところでやめて……」

「ふ・と・し・さ・ん!」

   荒巻が 蒼の声を遮り一喝すると、ふたたび肛門を舐め始めた。

「太さん……せめて場所を変えてください」

「わかった」

 予想に反して、あっさりと荒巻が蒼の尻から顔を離した。

「エッチは夜、私の部屋で。とりあえずいまは……手コキで気持ちよくしてあげるよ~ん!」

   荒巻が、蒼のしおれた「蒼」を右手でしごき始めた。

「いまはそんな気分じゃ……」

「心配しないでも、そんな気分にさせてあげるよ~ん!」

 蒼の肛門に、荒巻の左の人差し指が挿入された。

「あっ……」

 思わず、蒼は声を漏らした。

 亀頭を集中的に愛撫されたような強烈な快感に、蒼は襲われた。

     なえていた「蒼」が瞬時に硬直して、七十度の角度に跳ね上がった。

  触られてもいないのに、こんなことは初めてだった。

「びっくりしただろう? 前立腺を指で刺激したんだよ~ん。蒼ちゃんはいま、強烈な快感に襲われてるはずだ」

 荒巻がニヤニヤしながら、肛門の中で前立腺を刺激しながら右手で「蒼」を扱いた。

 蒼の下半身に、かつて経験したことのないオルガスムスの波が押し寄せてきた。

 荒巻の掌の中で、「蒼」が溶けてゆく、溶けてゆく、溶けてゆく……。

「蒼ちゃ~ん、どうしたどうしたどうした? 白い顔をピンクに染めて、歯を食い縛って、かわいい顔を歪めて……もしかして、イッちゃいそうなのかな~ん!?」

    荒巻が「蒼」をしごく右手の速度を上げながら、充血した亀頭を口の中に含んだ。

 だめだ! 大嫌いな荒巻の口で果てるなんて……絶対に……。

「あぅん……」

 心とは裏腹に、甘い電流が蒼の体内を貫いた。

 ビクンビクンと脈打つ「蒼」の先端からほとばしる白濁した液体を、荒巻が舌の上で受け止めた。

「ひっぱいでふぁね( いっぱい出たね)~」

 荒巻が口の中に溜まった精液を蒼に見せながら立ち上がった。

「ひゃあ(じゃあ)、ふぉくじふぁらの(六時からの)ひんうみーひんぐに(緊急ミーティングに)ふぉくれない(遅れない)ように」

 荒巻は言い残し、シャワーボックスから出てロッカールームをあとにした。

 蒼はその場に崩れ落ちた。

「ごめんね……颯君……」

 恥辱と罪悪感――蒼の嗚咽が、ロッカールームに響き渡った。

新堂冬樹(作家)

メフィスト賞受賞作『血塗られた神話』でデビュー以降、数々の小説がベストセラーとなる。代表作は『溝鼠』、『カリスマ』や『忘れ雪』他。また、新堂プロを立ち上げ、タレント、アイドル、作家のプロデュース業を多く手掛け、その才能は多岐に渡る。

連載『ボクはキミと結婚するためならアイドルをやめてもいい』

Instagram:@wasureyuki.fuyuki

白と黒

しんどうふゆき

最終更新:2024/03/23 21:00
ページ上部へ戻る

配給映画