新堂冬樹 連載BL小説『ボクはキミと結婚するためならアイドルをやめてもいい』1-1
#BL #小説 #新堂冬樹 #ボクはキミと結婚するためならアイドルをやめてもいい
「蒼ちゃんさぁ、少しくらい顔がかわいいからって勘違いしてない? 永遠のスウィートフェイスとかみんなの弟とか言われてさぁ、調子に乗ってるでしょ? 教えてあげるけど、かわいい顔なんて五年で劣化するから。あなたいま二十歳だよね? 二十五になったらおじんよ! お・じ・ん! かわいい顔がおじんになるほど、滑稽なものはないんだからね!」
マカロン譲二が、蒼の両頬を人差し指と親指で挟みねちねちと言葉責めした。
所属タレントの間でマカロン譲二は、通称サディと呼ばれている。
人に屈辱や苦痛を与えるのがなによりも好きなサディスティックな性格から、みなに陰でそう呼ばれている。
「譲二先生、身体が冷えちゃうから続きをやろうよ。レーベルのオーディションも近いんだからさ」
颯が、大らかに笑いながら執り成した。
蒼の胸が甘く疼いた。
昔からそうだった。
さりげない優しさ⋯⋯すべてを包み込む包容力。
蒼の心にはいまでも⋯⋯。
「その呼びかたはやめて! マカロン先生と呼びなさい! 」
マカロン譲二が目尻を吊り上げ、颯を叱責した。
「ごめんごめん、マカロン先生。さあ、始めよう! 蒼もほら」
颯が右手を差し出してきた。
浅黒い前腕に浮いた血管に、蒼の鼓動が高鳴った。
「余計なことをしないで! センターがこのザマで、オーディションに受かると思ってるの!? いくら元カレでも、同情は禁物よ! メジャーデビューのために、早乙女社長に別れるよう命じられたんでしょう!? あ! もしかしてもしかしてもしかして⋯⋯あなたたち、まだ付き合ってるんじゃないでしょうね!? もしそうだったら、大変なことになるわよ!? マスコミに漏れて解散とかになったら、いったいいくらの違約金を請求されると思ってるの!? とくに荒巻さんはヤバいわよ!
これまでのスタジオ代金、私やボイストレーナーへの給料、楽曲制作費、プロモーションMD制作費、イベント運営費、衣装代、移動車の購入費、ガソリン代⋯⋯早乙女社長にはお金がないから、『サクランボーイズ』にかかる資金は荒巻さんにおんぶに抱っこよ。もう、三千万以上はかかってるでしょうね。違約金は三倍が相場だから、九千万を請求されるのよ!? 事務所が半分持つとして、あなたたちにも四千五百万の支払い義務が生じるけど払えるわけ!?」
マカロン譲二が、蒼と颯にマシンガンのように脅し文句を浴びせてきた。
蒼は目を閉じ、記憶を巻き戻した。
(続く)
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