新堂冬樹 連載BL小説『ボクはキミと結婚するためならアイドルをやめてもいい』1-1
#BL #小説 #新堂冬樹 #ボクはキミと結婚するためならアイドルをやめてもいい
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一番のサビの前の間奏――リズムがアップテンポになり、振りも激しくなる。
弓を引くポーズをしながら、両足で激しくステップを踏む。
蒼(あおい)は息を切らしながら、スタジオの壁一面に取り付けられた鏡をみつめた。
「サクランボーイズ」の三人は、ショートパンツに上半身裸という格好でデビューに向けたレッスンを受けていた。
表向きは筋肉の動きを把握するため、という理由だったが、こんなにダサくて恥ずかしい格好をさせられている本当の目的を蒼は知っていた。
蒼の白い肌が薄桃色に上気し、小学生までは必ず女の子に間違われたかわいい顔が苦痛に歪んでいた。
一切の無駄肉が削ぎ落された華奢な身体には汗が光り、ルージュを引いたような赤くふくよかな唇は苦しげに半開きになっていた。
蒼は視線を左前の蓮に移した。
彫刻のような整った目鼻立ち、優雅に乱れるミルクティーカラーの長髪、スリムだが筋肉質の身体⋯⋯王子様キャラの蓮は涼しげな顔でダンスしていた。
蒼は視線を蓮から右前の颯(はやて)に移した。
汗に光る浅黒い肌、隆起した胸板、板チョコのように割れた腹筋、太く長い二の腕⋯⋯ワイルドキャラの颯のパワフルなダンスは、見る者を有無を言わさず魅了する。鏡越しに、颯と眼が合った。
彼の切れ長の眼にみつめられると、魂が溶けてしまいそうだった。
覚えていた。
彼の逞しい胸を⋯⋯。
覚えていた。
彼の力強い腕を⋯⋯。
「ノンノンノン! 蒼ちゃん、ステップが遅いわ! 二人からワンテンポ遅れてるわよ! 裏のリズムが取れてない! 音楽を耳じゃなくて、血液で聴きなさい! リズムを筋肉に刻みなさい! ほらほら、あなただけ悪目立ちしてるわよ! 颯ちゃんと蓮ちゃんの足を引っ張りにきたの!」
ピンクのピチピチの白のホットパンツ、口の周りを覆う青髭――振付師のマカロン譲二のヒステリックな声が、スタジオの空気を切り裂いた。
蒼は歯を食い縛り、ステップのスピードを上げた。
踊るだけでも息が上がっているのに、サビのフレーズを歌えるだろうか?
弓を引くポーズの腕も震えてきた。
太ももとふくらはぎに乳酸が溜まった。
蒼の両足は鉄下駄を履いているように重かった。
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