『君が心をくれたから』第8話 おまえ母親だったのかよ、泥棒の顔をしろよ
#君が心をくれたから
えーっと、まず足腰の弱ったパートナーを2階で寝させるのやめて、危ないから。その障害者の寝室を1階に移しなさい。こういうところ、ホントに優しくないよなと感じます。
ドラマとか映画とか見てると、「ああ、人に優しくするってこういうことだよなぁ」なんてしみじみと感じ入ることがありますが、この作品はとことん逆なんです。「優しいとか人を好きになるとか、こういうことじゃないよなぁ」の目白押し。しんどいしんどい。
というわけで、フジテレビ月9『君が心をくれたから』第8話です。今週もしんどかったわぁ。振り返りましょう。
■あいかわらず倫理がやばい
なんやかんやで五感を失うことになった雨ちゃん(永野芽郁)。これまで、わりと平然と受け入れているように見えましたが、やっぱり不安で寝不足気味のようです。
一方、太陽くん(山田裕貴)は『介護入門』なる書籍を購入。付箋だらけの様子から、だいぶ熱心に勉強しているようです。たぶん足腰の弱い人に階段昇降をさせるなって書いてあると思うから、そこも後で読んどいてね。人って、階段から落ちると平気で死ぬから。
で、最初にしんどかったのが、太陽くんが戸棚の引き出しから睡眠改善薬を見つけてショックを受けるくだり。雨ちゃんが常用しているようですが、まず市販の睡眠改善薬を「悲劇のアイテム」という位置づけで登場させていることがしんどいんです。このドラマを作ってる人は、視覚や聴覚を失ったり、寝つきが悪かったりする人のことを短絡的に「かわいそう」と思ってる。「見てて泣けてくる」と思ってる。かなりの優生思想の持ち主です。いやいや、ドリエルくらいみんな飲んでるって。
あと、『介護入門』の本ですね。変な自己啓発本に並んで本棚に入っているところを雨ちゃんが発見するわけですが、その内容にも目を疑うことになります。
「Q.恋人の介護が必要になりました。将来のことを考えて結婚した方がいいのでしょうか?」
「A.結婚していることで、家族の同意が必要な場面などではスムーズに進めることは可能になります。お相手とよく相談していただくことが第一です。」
なんだこれ。監修者呼んでこいよ。
こうやって「誰かが誰かに秘密で自己犠牲を払っている」ことを美談にするために、介護という現実の問題を捻じ曲げるの、本当によくない。やめてほしい。
■死神たちもやばい
初回で太陽くんが車にはねられて瀕死の重傷を負ったとき、雨ちゃんに「あなたの心を奪わせてもらう。あなたが五感を差し出せば太陽くんの命を助けるという奇跡を起こす」と迫ったのは、死神の男女2人組でした。
その後、なんか2人ともやけに雨ちゃんに寄り添った発言を繰り返していて、こいつら自分のやったことを忘れちゃったのかな、泥棒の顔をしろよとずっと思っていたのですが、今回、この女性のほうが太陽くんの母親だということが明かされました。この母親は太陽くんの幼少期の火遊びによる火災に巻き込まれ、亡くなっています。
その母親が死後、死神になった。息子が交通事故で死ぬことになり、息子の命とよそ様の家の子の五感を天秤にかけた。そして息子の命を優先した。
しかも息子が車にはねられたのは信号無視という不注意の結果です。色覚障害で赤色が見えないという理由があったとしても、20代後半まで信号機のある横断歩道を渡ったことがないわけじゃないし、第5話のバスを追っかけてるシーンで信号を守ってましたからね。太陽くんが不注意で事故にあったという事実は動かせない。
不注意による事故で死んだ息子の命と引き換えに、別に付き合ってもいない、何の罪もない女の子から奪っていいものなんてひとつもないでしょう。五感だ、心だ、そんなもの以前に何ひとつ奪っていいわけがない。「雨ちゃんの決めたことだから」なんて話は通じません。横の男前の死神に対して、「あんた何言ってんの」「なんの権利があってそんなこと言ってんの」と言わなきゃならない。
それこそファンタジーの中で、悠久の存在として魂や命を司る者たちみたいな雰囲気モノであれば、まあ許せるというか、しょうがないよな奇跡だしなと渋々受け入れることもできますが、母親となれば話は別です。雨ちゃんとの間に明らかな利益相反が発生しているし、動転している雨ちゃんに対して、取引上の立場が有利すぎる。卑怯ですよ。もう一度言うけど、おまえ、泥棒の顔をしろよ。人の親失格だよ。
親子愛って、こういうことじゃないと思うんですよね。今回、さだまさしをコケにするくだりがありましたけど、「無縁坂」とか聞いたほうがいいよ。このドラマの作り手たちは本当に、自分らがどんな話を作ってるかわかってるんだろうか。なんだか、ティーンの涙を杯に溜めて啜(すす)っている醜い妖怪の顔が目に浮かびます。
怖いね。
(文=どらまっ子AKIちゃん)
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