『インフォーマ』に続く快作『ブラザーズ』誕生…コンプラ時代を逆行する男たちの魅力
#沖田臥竜 #インフォーマ #ブラザーズ
この物語には「憐れみなんてものは一切ない」
自分の作品というのは、武術の鍛錬などと似ていて、書けば書くほど、本当におもしろいかどうかもうわからなくなってしまうのだ。だが、『ブラザーズ』は、角川春樹さん直々に「おもしろい」と言ってもらえたほど、自分で読み直して面白かったのだ。
主人公の萩原紅の通り名は「赤い薔薇」。くれないの赤と萩原の原にバラをかけたのだ。そして「赤い核弾頭」こと赤城哲真。もう1人、「凶暴秀吉」こと若菜秀吉。この3人が生きる世界は過去でも未来でもない。ど真ん中の現在である。彼らは、コンプライアンスが叫ばれ、反社などという言葉が誕生した中で、時代に逆行するかのように生きている。そこには、憐れみなんてものは一切ない。
文句だって言うし、金も大して持っていない。スロットに勝てば、チェーン店以外の焼肉屋のランチを食べて、満足しているのだ。その上で躊躇なく暴力だけは行使することができる人物たち。そんな男たちの言動に泣けるのである。生きていくということに職業は関係ない。感情をもっている以上、誰にでも喜怒哀楽が存在する。それは、自分がいつも小説を書く上で大事にしていることで、職業で生き方や考え方を縛りつけるようなことはしない。結果、読み終わったときに、爽快さを感じてもらえる作品になっているのではないだろうか。
装丁画は大人気マンガ『ファブル』の南勝久先生が書いてくださり、最高な渋さを放っている。
こういう瞬間ではないだろうか。ずっと書き続けてきたからこそ、カバーを南先生に描いてもらえたり、版元の社長の角川春樹さんに「おもしろい」と言ってもらえたり……こういう瞬間に「頑張っていてよかった」と思えるのだ。このために、オレは小説を書いているのかもしれない。
物語の舞台は専売特許の尼崎。『ムショぼけ』も『インフォーマ』も尼崎から誕生していった。オレに地元愛なんて清々しいくらいないが、故郷がどこかといえば尼崎なのである。
昔、黒川博行さんの小説の中に『尼崎』という言葉を見つけただけで、はしゃぐことができた。それは今も変わらない。尼崎は本当にのどかな街で、世の中でもたれるイメージとは申し訳ないくらい違う。
小説『ブラザーズ』は尼崎純度100パーセントの小説で、こだわったのはスピード感。「あっという間」という読後の体感をお届けできるのではないだろうか。
『ブラザーズ』を書いている最中、何度も何度も書けないのではないかという思いが強迫観念となって、オレを襲ってきた。それなのに書き終えると、ホッとした反面、どこかで寂しさを覚えていたのだ。
自分自身がさらに続きを読みたいと思える小説に仕上がっている。
(文=沖田臥竜/作家)
『ブラザーズ』
角川春樹事務所/1650円(税込)
2月29日発売。現在、amazonで予約受付中。
関西ヤクザ界に「ヒットマンブラザーズ」の異名で知られる危険な男、天空会の萩原紅。懲役囚だが刑務所内に絶大な影響力を持ち、不自由ながら懲役の面白さを感じながら刑期を過ごしていた。やがて出所し組に戻った萩原が引き起こした、構成員1万人とも言われる大川連合とのもめ事。10人の組員しかいない天空会だが、誰も引く気はない。難しいこと考えて、こぢんまりまとまっても、しゃあない――そして、また熱い日々がやってくる。
『インフォーマ2 ヒット・アンド・アウェイ』
サイゾー文芸/1540円(税込)
好評発売中。
政治経済、芸能界はもちん、裏社会の情報にまで精通する「インフォーマ」を名乗る木原慶次郎と週刊タイムズ記者の三島寛治が再び巨悪に挑む。今回の相手は、SNSを駆使して日本中で犯罪を繰り返す新手のマフィア組織。その拠点があるタイ・バンコクへと2人は向かうが、真の敵として浮上したのは意外な人物だった――。元ヤクザにして豪放磊落な木原と取材能力よりも厄介を招く才能に長けた三島が下りなす「クライムアクション小説第二弾」
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