さらば青春の光・東ブクロ「愛車ドッキリ」に見る芸人サクセスストーリー【後編】

（前編はこちら）

　やがてブクロのiQが到着し、ロケが始まる。『わでしこ』側のスタッフと綿密に連絡を取り合いながら、ブクロ車をのカギを楽屋から抜き取って車両を移動するさらばYouTube班。ゴルフ場から許可を取って駐車場の片隅にブルーシートを敷き、その上でさっそく塗装作業に入る。

「ペコペコ言ってる」（スタッフ）
「カワイイ音鳴りますね」（森田）

　ボンネットに乗ってフロントガラスを新聞紙で養生している際のやり取りだ。ペコペコは、ブクロの愛車のボディがへこむ音である。

　窓とヘッドライト、タイヤ、エンブレムを新聞紙で包み、いよいよボディを金色にしていく森田。金ピカにするのは「5年ぶり2度目」だという。

「ブクロがゴルフ仕事やってくれてるから、まだ売り上げも何とかなってるし」
「あいつのゴルフの番組見るの、僕も楽しみなんです」
「せめて俺にできることってこれくらいのことしかないから」

　そんなウソを言いながら、猛暑の中、作業を続ける森田。約3時間かけて完成を見た金ピカのレクサスは、色ムラこそあるものの見事に金ピカだった。

　ロケを終え、ゴルフバッグを下げたブクロが駐車場に入ってくる。やはり、探しているのは黒のiQだ。しかし、やがて金ピカの1台に目を止めることになる。

「やっとんな！　これはえぐいぞ！」

　このドッキリの前フリで森田は、今回ばかりはブクロが「マジでキレるのでは」と心配していた。塗装作業中も「これでキレられるんやろ、たまらんな」とこぼしている。

　だが、やはりブクロは半笑いである。

「ちゃんと乾いとんのかい！」
「速なった気するな！」

　5年ぶりでも、言うべきセリフはきっちり出てくるのがブクロという芸人の勘の良さだ。

『キングオブコント』ファイナル6回、『M-1』ファイナル1回という実績を残して、18年を最後にさらばは賞レースから撤退している。ブクロがピンでゴルフ番組を持っているという事実は、さらばが賞レース撤退後も順調なキャリアを重ねてきている証拠である。

　ブクロのゴルフ趣味は現在まで継続しており、「8時間空いたらゴルフに行く」というほどの熱中ぶり。さらばの2人とマネジャー1人、3人の株式会社ザ・森東は利益を3等分するという約束で始まった事務所だ。馬車馬のように働く森田とマネジャーををよそに、もっとも優雅な生活を送っているのは間違いなくブクロだろう。

　森田はブクロを指して「スーパースターのような男」と呼ぶ。その傍若無人な性格と奔放な性生活はコンビを何度も危機に陥れてきたが、金ピカのマジェスティから金ピカのレクサスへと、ブクロの「愛車ドッキリ」は確かにその成功の証を示していた。

■そして、アウディへ

　ブクロは昨年、アウディを購入した。納車に訪れたAudiCity紀尾井町はカッシーナの応接セットを備え、間接照明をふんだんに利用したアウディ日本で唯一の特別なショールームだ。

　ブクロが即決で購入したのはTTSの限定車。日本に20台しかないクロノスグレーという特別色で、価格は約1,000万円だという。しかも現金一括支払いだ。

　絵に描いたようなセレブリティである。

　そのアウディに、チョコを塗るというのである。まだ納車から1年も経っていない、1,000万円のアウディに。

　湯煎したチョコの入ったボウルを抱えて駐車場に向かう森田は、マジェスティを金ピカにした9年前と同じ顔をしている。あいかわらず計画は行き当たりばったりだし、塗り始める直前に一瞬躊躇して不安そうにカメラを見る動作も一緒だ。

　思うように広がらないチョコを塗りたくって、ボンネットにハートマークを描いていく森田。ホワイトチョコを用意しておらず、「ブクロさんLOVE」というバレンタインのメッセージはマヨネーズで書いた。

　駐車場に現れたブクロも、また半笑いだった。ポケットに手を突っ込んだまま森田を蹴る動作も、同じだ。

　9年前はボロボロの小型バイク。次は見栄だけでレクサスのエンブレムを貼り付けたトヨタの小型車だった。それからレネゲード、ラングラーを経てアウディTTSに至る。ブクロの愛車遍歴は成功者の道程そのものだ。

　ブクロの車が変わっても、森田のやることは変わらない。ずっと、バカ騒ぎ。変わらないスタッフと一緒になってゲラゲラと笑いながら、ただバカ騒ぎをしている。

　松竹芸能という大手から放逐され、上京しても引き取ってくれる事務所はなかった。TOKYO MXの番組の企画でふざけ半分で立ち上げた個人事務所は12年目を迎え、売り上げは優に億を超えるようになった。毎年行っている単独ライブツアーのチケットはプラチナ化し、その規模を拡大しつづけている。

　ブクロは個人チャンネルで公開したアウディの納車動画で、「次は夢のR8」だと言った。アウディR8は、3,000万円を超えるスーパーカーである。

　その時期が来たら、今回はチョコで済んだTTSがまた金ピカになるのかもしれない。

「ちょっと速なった気するわ！」

　ブクロの半笑いが目に浮かぶようだ。

（文＝新越谷ノリヲ）

新越谷ノリヲ（ライター）

東武伊勢崎線新越谷駅周辺をこよなく愛する中年ライター。お笑い、ドラマ、ボクシングなど。現在は23区内在住。

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