『光る君へ』最新話で「平安のF4」が活躍するポロ球技は史実か
#光る君へ
インドアで文系のイメージが強い平安貴族だが…
さて、次回は作文会に続き、打毬(だきゅう)の場面が出てくるようですね。
打毬競技は、日本では「まりうち」とも呼ばれ、平安時代の貴族たちが楽しんだスポーツです。当初は宮中で、華やかな国家行事として開催されていました。毬場と呼ばれる競技フィールドに、馬に乗った唐装束(=中国風の装束)の舎人(=とねり、天皇や貴人の側に仕える年若い貴族の子どもたちの呼び名)たちが二手に分かれて布陣し、毬場に投げ込まれた毬を、それぞれが手にした曲杖を使いながら、毬門というゴールに多く放り込んだほうが勝ちという競技です。
もともと打毬はペルシャ発祥の競技で、それがシルクロードを通って唐代中国に伝わり、さらに中国から奈良時代の日本にも伝わったとされています。ペルシャからヨーロッパ方面に伝わった競技の後の姿が、イギリスなどで有名な現代のポロですね。
騎馬打毬には高い運動神経と馬を操る技術が必要なので、日本では徒歩で行われる機会が増えました。同時に中国風から日本風の装束で行われるようになり、宮中の国家行事から、貴族の私邸でも行われる人気競技として、鎌倉時代になるまで競技人口を増やしていったのです。
次回のドラマに打毬のシーンが登場するのは、寛和2年(986年)の5月30日と、6月6日に花山天皇が騎馬打毬を御覧になったという記述が『本朝世紀』などの史料に見られるからでしょう。
同書によると、雅楽の楽隊が「打毬楽」を演奏する中、騎馬姿の舎人たちが打毬競技に興じたのは当時でもたいへん珍しい機会だったそうです。藤原義懐など身分が低い者たちの抜擢で宮中に波紋を呼んだ花山天皇は、自身の権威付けのため、盛大かつ正統的なルールにのっとった打毬の会を復活開催させたのだと思われます。
『本朝世紀』には、「右大臣(=藤原兼家)、玉打出於庭中之間」――右大臣が毬を毬場に投げ込んだとか、「兵衛官(=武官たち)」などが競技に参加したという記述が見られます。誰がどういうふうに活躍したという具体的な記述はないのですが、ドラマでは道長や公任といった視聴者に大人気の「平安のF4」のメンバーも活躍したのでは……という見立てなのでしょう。
ちなみに唐代の中国では、高貴な男性だけでなく、女性たちも騎馬打毬を楽しんだという記述があり、彼女たちの競技中の姿を表現した美術品も多く製作されました。貴婦人が自分に仕える女官たちに、騎馬打毬を教えることもあったようです。意外かもしれませんが、中国本国では隋代、唐代と儒教の影響力が控えめでした。
一方、日本の貴族の女性たちは……というと、さすがに当時の史料には打毬に興じる女性たちの姿は登場しませんが、それでも現代人が彼女たちに抱きがちなインドアなイメージとは異なり、実際はもう少しアクティブだったのではないかと思える記述が『枕草子』にはあります。
『枕草子』「故殿の御服の頃」には、清少納言が仕える中宮定子が、6月末の御払(おんはらい)という儀式のため、内裏の建物を出て、その南方に位置する太政官の朝所(あしたどころ)に宿泊したときの思い出として、早朝から女房たちが庭に出て遊んだという記述が出てきます。また、彼女たちの姿を見つけた若い貴公子たちが、よりよく見ようと高いところに登ったという記述もありますね。女房たちも特に恥ずかしがる様子もなく、清少納言は「公達たちには、庭に天女が下りたように見えたのではないか」などと書いているくらいです。
それにしても、装束姿の女性が、広い庭にせよ、野外など歩き回れたのでしょうか?
『枕草子』の該当箇所にも「薄鈍色(うすにびいろ)の裳(も)や唐衣」、「紅の袴」などとあるのですが、当時の女房たちは、ドラマで見るような装束の着こなしを常にしているわけではなく、時と場合によって、歩きやすいように袴なども(それこそドラマで市場を歩くときのまひろのように)端折って着ていたのかもしれません。この連載でも何回か言及しましたが、実は紫式部や清少納言の時代の装束や、その着こなしについては不明な部分が多いのです。
一般的には、御簾の内に籠もり、男女ともにインドアで文系というイメージが強い平安貴族たちですが、必ずしもそうではなかったという史実を『光る君へ』では巧みに表現しようとしているようですね。
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