ミルクボーイが『M-1』王者中の王者に! 「2019年大会」はなぜ“史上最高”と呼ばれるのか【後編】
#和牛 #かまいたち #ミルクボーイ
■出た、ミルクボーイ
6番手の見取り図を挟んで、7番手に登場したミルクボーイ。明らかに、これまでと違う。なんだ、誰なんだ、なんでコーンフレークなんだ、戸惑う心が笑いに弾き飛ばされていく。「コーンフレークやないか」「ほなコーンフレークちゃうか~」内海の甲高く通る声が会場にうねりを生んでいく。
97、99、97、97、96、97、98、こんな数字の並びは見たこともなかった。史上最高得点の681点は、誰もが納得するものだった。一体感が結実する。
■ぺこぱ、最後のドラマ
かまいたち・和牛という最強の2組のはるか上をミルクボーイが飛んでいった。最終決戦に向かうのは、納得の3組だった。オズワルドとインディアンスはミルクボーイの余韻に飲まれ、残るぺこぱというコンビが誰だか知らんが、最強を決めるにふさわしい最終決戦になる。みんなそう思っていたはずだ。
ぺこぱが登場して1分ほど、ドラマの予感を感じ始める。なんだかかわいいし、一生懸命だし、面白いぞ、この2人。見たことないぞ、こんな漫才。「急に正面が変わったのか」なんてボケ、好きすぎるぞ……。
「行けー!」と叫びながらめくれる得点を指さす2人を、いつの間にか応援していた。先ほどのえみちゃんの説教もあって、いつの間にか和牛を超えるべき壁に設定してしまっていた。爽快だった。和牛には申し訳ないが、強者に対する逆転劇はいつだって爽快なのだ。
* * *
最終決戦はぺこぱ、かまいたち、ミルクボーイの出順だった。この日の『余談』で、最終決戦を前にした余談がかまいたち・山内の口から語られている。最終決戦の出順は得点の高い順に選べるが、1本目の高得点に舞い上がり、テンションの上がり切ったミルクボーイの内海は1番手を選ぼうとしていたのだという。冷静な相方・駒場がたしなめて順当に3番手を選び、それぞれに2本目を披露する。
ここでも山内はまだあきらめていなかったという。
「1本目ウケるけど2本目コケるパターンもあるやんか。もしかしてそれ、あんのかなと思ったけど」
確かにある。08年のオードリー。敗者復活から9番手で彗星のごとく現れ、春日俊彰というリーサルウエポンを放ってトップに立ったが、2本目でそのキャラを引っ込めてNON STYLEの完成度に屈した。09年の笑い飯、1本目の「鳥人」で島田紳助の100点を引き出したが、2本目の「チンポジ」で準優勝に沈んでいる。
「でも1ボケ目のお客さんの反応で、うわ、これは厳しいなと」
結果は7票中6票がミルクボーイ。完勝だった。
■ニューカマーたちの飛躍
この年の『M-1』決勝メンバーが発表された当時は、こんなに盛り上がる大会になるとは見られていなかった。
3年連続準優勝の和牛がいない。初登場が7組と、知名度のあるコンビが少なく、本格派ではないイロモノも混じっている。どこか小粒感の漂うメンバーだと感じたことをよく覚えている。
さらに、この年は敗者復活も盛り上がった。東西のカリスマであり、長くファイナル進出を熱望されてきた天竺鼠と囲碁将棋が、ともにラストイヤーで散った。OLと大学生のアマチュアコンビだったラランドと2年目で「わかんねえなぁ」のシステム漫才を仕上げてきたくらげがインパクトを与え、人気先行型に見られていた超若手の四千頭身も地力を見せた。ミキ、カミナリ、トム・ブラウン、マヂカルラブリーというファイナル経験組もいたし、仕上がり切っていつ決勝に行ってもおかしくないと言われていた錦鯉と東京ホテイソンもいた。
決勝より敗者復活のほうがレベルが高いんじゃないか。そう感じながら見ていたことは白状しておかなければならない。
結果として、ファイナルの展開を作ったのは“小粒”だと感じていたニューカマー組だった。ニューヨークが初手でインパクトを与え、すゑひろがりずが一度空気をリセットし、ミルクボーイが爆発して、ぺこぱが美しいエピローグを描いた。
『M-1』後に関西で地盤を固めることを選んだミルクボーイと対照的に、この大会からぺこぱ、すゑひろがりず、ラランドが大きな飛躍を果たした。何組もの漫才師がこの年の『M-1』で「人生を変えた」のだ。
* * *
この日の『余談』の最後に、かまいたちが言う。
「俺らも、和牛が『M-1』出るたびに、強烈な爪あとを残して、『優勝するな』と思ってたからな」(濱家)
「(関係性が)近い人が行くとね」(山内)
「でも今考えたら、優勝してた方がよかったな、和牛は」(濱家)
「もう和牛の話はやめよ、暗くなるから」(山内)
5年連続ファイナル、3年連続準優勝。輝かしい成績である。出場権利を2年残して、和牛はこの年で『M-1』を去っている。コンビの関係がほころび始めたのは、そのわずか1年後だった。これもまた、あくまで『M-1グランプリ2019』の余談である。
(文=新越谷ノリヲ)
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事