『さよならマエストロ』第5話 同じ道を志した親子、というそれぞれの風景
#さよならマエストロ
11日放送、TBS日曜劇場『さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~』は第5話でした。
今回のモチーフ曲はなんだろ、これまでよりはっきり打ち出していませんでしたが、響ちゃん(芦田愛菜)が5年前にウィーンのコンテストで演奏したメンデルスゾーンの「ヴァイオリン協奏曲」ということになるんでしょうか。メンデルスゾーン、早熟の天才ですね。振り返りましょう。
■才能について語るとき
才能について語るとき、このドラマは俄然テンションが上がります。今回は“こじらせ女子”響ちゃんがいかにしてこじらせたのかが明かされました。
バイオリンの才能に恵まれた響ちゃんはパパであるマエストロ(西島秀俊)に憧れ、幼少期から練習に打ち込んできたそうです。15歳のとき、ウィーンのコンテストで準決勝まで進出し、そこでものすごい演奏を見せた。誰もが優勝を確信する中、響ちゃんはファイナルの会場に現れなかった。いわゆる、そこで切れちゃったというやつだ。
優勝すればコンサートで、パパの指揮で演奏できるというところまできて、なぜ響ちゃんがファイナルを辞退したのか。その理由は明確には語られません。才能はあったが、突き抜けてはいなかった。響ちゃんと同じく演奏家として早熟だった元プロのチェリスト(佐藤緋美)は「続けるのも、辞めるのも地獄」と言いました。そしてドラマは響ちゃんの弟・海くん(大西利空)を通して、突き抜けた才能を「化け物」と呼びます。マエストロは「化け物」だと。
そういうもんなんだろうな、と思わせてくれることがドラマを見る楽しみなんですよね。
クラシックなんてわかんないし、才能ってなんなのかもよくわからないです。でも響ちゃんやチェロの彼がそう言ってるし、ずっと家族を見てきた海くんがそう言ってるんだから、そうなんだろうな。こういうドラマを見ていると、ほんのひととき、それをわかったような気になれるんです。
親と同じ道を選んでしまった子どもが、その才能の差にコンプレックスを抱いてしまったら、もう壊れるしかない。家族ごと壊れるしかなかった。そういう方面から見ていると『さよならマエストロ』はめちゃくちゃシビアなことをやってるし、だからこそ刺激的なシーンがありました。
町の歌カフェにゲストでやってきた柳亭小痴楽(本人)。響ちゃんの推しメンで、五代目柳亭痴楽の息子に生まれ、同じ落語の道を志した人物です。その才能は高く評価されていますが、真打ち昇進の際に六代目痴楽襲名を打診され、断っています。父の五代目痴楽が小痴楽から痴楽になったのは45歳のとき。現在、小痴楽は35歳です。
その小痴楽がドラマの中でホンモノ感あふれるホンモノの落語を(枕だけですが)披露したあと、市役所職員の大輝くん(宮沢氷魚)がマイクの前に立ちます。
「歌うのか?」と思ったんです。親と子の才能の話の中で、宮沢氷魚が歌うのか、と。この俳優さんが歌を歌っているのは見たことがなかったし、もし父親のMIYAみたいなすごい声だったらどうしよう。歌の上手さって遺伝してるパターンあるよな。宇多田ヒカルとかONE OK ROCKとかすごいもんな。
結果、MIYAジュニアの歌は普通に歌えるけどすごくない感じでした。
残念だ、と言いたいわけではありません。それぞれなんだよなぁ、という話です。ドラマの中でも、現実でも、親子というのはそれぞれなんですよねえ。
■家族について語るとき
それぞれなんだよなぁと実感させるドラマだからこそ、家族の問題を語るとき、このドラマは全然おもしろくなくなる。
パパがフルートとキスしてるところを(キスしてないけど)目撃して娘が家出とか、配信中の息子のWEBカメラをパパが誤ってONにしちゃって家出とか、全然「それぞれ」じゃないんだよな。第1回からベタなところがいいよね、と言い続けてはいるんですが、一方でシビアで複雑なものを突き付けてくるからこそ、こういうベタなシーンの既視感が単なる既視感でしかなくなる感じがある。フルートの彼女や元マネジャーのシンプルなキャラクター付けが逆にノイジーに感じてしまう。
ともあれ、晴見フィルの指揮者になりたい女子高生が、フィルを潰そうとしている市長の娘だったという新情報も与えられましたので、展開にはまだまだ期待しています。
次回も楽しみです。
(文=どらまっ子AKIちゃん)
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