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アフガニスタンを舞台に社会派とアクションがマッチしたふたりの男のドラマ『コヴェナント/約束の救出』

アフガニスタンを舞台に社会派とアクションがマッチしたふたりの男のドラマ『コヴェナント/約束の救出』の画像1
『コヴェナント/約束の救出』より

 戦争アクションはなかなか複雑な映画ジャンルである。戦争の悲惨さ、人間の愚かさをテーマとしているのも確かながら、銃撃戦や爆発の映像に、日常生活では味わえないハラハラ感を味合わせることも意図して作られていることは、間違いないだろう。悲惨な戦争のシーンをエンタテイメントとして享受してしまう、そんな後ろめたさが戦争アクションにはどこかつきまとう。ましてや、『シャーロック・ホームズ』(09)、『コードネームU.N.C.L.E』(15)のヒット作で知られる職人監督ガイ・リッチーの作品ともなれば、アクションの切れ味もバッチリ、娯楽としての手堅さもきっちり押さえていることは折り紙つきだ。

アフガニスタンを舞台に社会派とアクションがマッチしたふたりの男のドラマ『コヴェナント/約束の救出』の画像2
『コヴェナント/約束の救出』より

 舞台は2018年のアフガニスタン。タリバンの武器や爆発物の隠し場所を探す部隊を率いる米軍のジョン・キンリー曹長(ジェイク・ギレンホール)は、アフガン人通訳アーメッド(ダール・サリム)を雇う。通訳には報酬としてアメリカへの移住ビザが約束されていた。ふたりの部隊は爆発物製造工場を突き止めるが、タリバン兵の襲撃を受け、ふたりを残して全員殺されてしまい、キンリーも銃撃を受けて意識不明になる。アーメッドはキンリーを手押し車で運びながら、タリバンに見つからないように米軍基地まで遥か100キロもの道のりを歩いていく……。

 2001年の米同時多発テロを発端に、2021年まで続いたアフガニスタン戦争は、アメリカにとってはベトナム戦争を超える米国史上最長の戦争となった。そんな世界情勢についても考えさせながら、国籍の違うふたりの男の友情のドラマとしても本作は見応えある作品となっている。

アフガニスタンを舞台に社会派とアクションがマッチしたふたりの男のドラマ『コヴェナント/約束の救出』の画像3
『コヴェナント/約束の救出』より

 主人公のジョン・キンリー曹長を演じるのは、『ブロークバック・マウンテン』(05)でアカデミー賞、『ナイトクローラー』(14)でゴールデン・グローブ賞にノミネートされたジェイク・ギレンホール。『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(19)のヴィラン役が印象深かったという人も多いだろう。本作では妻子を愛しながらも命を救ってくれた友人を助けるために死地に飛び込んでいく男を見事に演じている。

 アフガン人通訳のアーメッドには、イラク出身のダール・サリム。TVシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」(11)と、リドリー・スコット監督『エクソダス:神と王』(14)で注目を集め、Netflix初のデンマーク語オリジナル長編映画『残り火』(22)では主演を務めた。本作ではアフガニスタン人ながらアメリカ軍に協力する複雑な役を演じる。

 また、キンリーの妻、キャロライン・キンリーは、『リトル・ジョー』(19)でカンヌ国際映画祭最優秀女優賞に輝いたエミリー・ビーチャムが演じている。

 命からがらアメリカに帰国したキンリーは、アーメッドとその家族がアメリカに渡っておらず、いまだアフガニスタン国内でタリバンに命を狙われていることを知ってがく然とする。アーメッドのことを思い片時も心が休まらなくなったキンリーは、妻子にしばしの別れを告げ、アーメッドのために再びアフガニスタンに行くことを決意する。果たしてキンリーはアーメッドを見つけることができるのか。

アフガニスタンを舞台に社会派とアクションがマッチしたふたりの男のドラマ『コヴェナント/約束の救出』の画像4
『コヴェナント/約束の救出』より

 その後、アフガニスタンの民主化、安定化にアメリカは失敗し、2021年にアメリカは撤退することになる。それは武力でアフガニスタンを抑え込もうというアメリカの戦略がアフガニスタン国民の支持を得られなかったということなのだろうが、国民、特に女性の権利を著しく抑圧するタリバンがアメリカ撤退後、アフガニスタンの政権を掌握し、女性の教育の権利や行動の自由がいまもなお奪われ続けていることはなんともやりきれない。そんな国に生まれてアメリカ軍の通訳となり、キンリーを守るために同国人のタリバンと命懸けの戦いを繰り広げたアーメッドの心のうちはどのようなものだったのか。彼がこれまでの人生や秘めた思いを語るシーンをもっと見たかった気もするが、そこはあえて詳しく語らせず、観客の想像に任せたシナリオも、それはそれでよかったのかもしれない。

『コヴェナント/約束の救出』
2月23日(金・祝)TOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国ロードショー
提供:木下グループ
配給:キノフィルムズ
© 2022 STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED

監督・脚本・製作:ガイ・リッチー
出演:ジェイク・ギレンホール、ダール・サリム、アントニー・スター、アレクサンダー・ルドウィグ、ボビー・スコフィールド、エミリー・ビーチャム、ジョニー・リー・ミラー

公式サイト:www.grtc-movie.jp

里中高志(ジャーナリスト)

フリージャーナリスト。精神保健福祉士。メンタルヘルスと宗教を得意分野とする。著書に『栗本薫と中島梓 世界最長の物語を書いた人』(早川書房)、『精神障害者枠で働く』(中央法規出版)、『触法精神障害者 医療観察法をめぐって』(中央公論新社)。

最終更新:2024/02/23 09:00
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