『君が心をくれたから』第4話 コンセプトより「泣かせる」を優先させる感涙ポルノ
#君が心をくれたから
29日は『君が心をくれたから』第4話、フジテレビ月9です。今回はいかにも月9らしいスウィートで切ないラブストーリーとなっておりました。
五感を失うことになった雨ちゃん(永野芽郁)は、思いを寄せてくれる花火職人の太陽くん(山田裕貴)に嫌われることにしました。なぜなら、自分は五感を失ってしまうし、これは雨ちゃんも死神に言われて初めて気づいたんだけど、そうなると24時間365日の要介護になるので、太陽くんに迷惑をかけることになるから。
太陽くんは無邪気にハウステンボスデートに誘ってきますが、雨ちゃんは先日知り合った市役所の男・司さん(白洲迅)にクルマを出させて、3人で行くことにしました。そして、太陽くんに「司さんと付き合いたいから応援して」とか言います。
で、なんやかんやあって雨ちゃんは太陽くんをちゃんとフッて、次週へ。今週、雨ちゃんは嗅覚を失いましたが、それについてはあんまり深いエピソードは語られませんでした。
振り返りましょう。
■「要介護になるから」という理由の重み
たぶんあんまり考えないで書いてると思うけど、「介護」を理由に恋愛をあきらめるというロジックを持ち出すのであれば、これは明確に差別的な思想を含むことになりますけど、大丈夫ですかね。
それと斎藤工のやってることは明らかに傷害罪ですし、民事でも億単位の損害賠償を請求できる事案になるでしょう。雨ちゃんは1級の障害年金を受けることになると思うけど、そもそも診断書は下りるのかな。「五感を奪う」とか簡単に言ってるけど、死神のそれは網膜や鼓膜や味蕾といった器官に作用するものなのか、それとも脳に直接作用するロボトミー的なものなのか。触覚も奪うってたぶん全身なんだろうから、手足は動かせるけど感じないという状態になるわけですよね。ということは頸椎とか脊椎ではなさそうだし……なんて、言いたくはないけどドラマ側から「介護」なんて暮らしにまつわる言葉を出してきて、それを理由に展開を作ろうとするなら、そこに紐づいてこういう邪推が出てきますよ。こういうとこも、覚悟がないよなぁと感じる部分です。
ファンタジーとして「五感を奪う」と言っているんだから、ファンタジーとして悲劇を描けよ、と思うんです。作り手の都合に合わせてリアリティの線を引き直すから次々に矛盾が露見する。そんなことほっといて泣いとけよ、という視聴者をバカにしたスタンスが露見する。嫌なものです。
■今回は「後悔」のお話ですが
雨ちゃんは高校時代に太陽くんに告白しようとしましたが、太陽くんの妹(出口夏希)から「兄貴をたぶらかすな」的なことを言われてあきらめていた経緯がありました。妹ちゃんはそれをずっと後悔していたという。だから、一度はフラれた太陽くんに、「もう一度チャンスをあげてほしい」と雨ちゃんに迫る。
太陽くんは高校時代に、雨ちゃんに「観覧車に乗ろう」と言われて断ったことがありました。「あれは恋人同士のものだから、僕たちには関係ない」。そう言ったことを、ずっと後悔していた。だからもう一度「観覧車に乗ろう」と言う。
後悔とすれ違い、思い人同士が離れなければいけないというシチュエーション。それで十分泣けると思ったから、今回は嗅覚を失うエピソードをおざなりにしたのでしょう。本来、主軸になるはずの「マーガレットの香り」と、観覧車に乗る乗らないを花占いで決めるという「マーガレットの花びらの数」が同じ重みで描かれている。同じ重みというか、今回は恋愛で泣かせたいから、視聴者の意識を「嗅覚を失う」という事実から遠ざけようという意図さえ透けて見える。
何しろ今回、このドラマは雨ちゃんが「すでに味覚を失っている」ということに、とことん無頓着でした。普通に食事シーンがあるし、雨ちゃんも恋愛についてはグチグチ考え込むくせに、「五感を差し出した」ことには微塵も後悔がない。運命を受け入れることと、それをスルーして現実逃避することとは違います。
雨ちゃんは好きな人と離れる自身の決意に自己陶酔して大いに涙を流しましたが、ホントに悲しいのは五感を失い、心を失うことで「太陽くんを好きでいられなくなる」ことでしょう。「太陽くんが好きな私でいられなくなる」ことでしょう。こんなの分析でもなんでもないからね。ドラマ側が最初のほうで提示したことだからね。コンセプトですからね。
「駄目な映画を盛り上げるために、簡単に命が捨てられていく」
そう言ったのはMr.Childrenの桜井和寿さんでした。ホントに簡単に、このドラマでは雨ちゃんの五感が捨てられていく。まるで人体から涙という名前のついた汁を噴き出させるためのピンクローターみたいに、安直な道具として扱われている。感涙ポルノよ。
「違う、僕らが見ていたいのは、希望に満ちた光だ」
これも桜井さんの言葉です。そういうことなんですけどね。
(文=どらまっ子AKIちゃん)
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