トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed
日刊サイゾー トップ > エンタメ > お笑い  > TBS『ネタフリックス』と「破壊の構図」

TBS『ネタフリックス』お笑いマニアも子どもも笑えるべきという「上品な意図」と「破壊の構図」

大人気芸人7名が脚本・監督&主演!ここに新たな爆笑名作劇場が開幕 | TVer

 ビルが崩壊する、10万円の大きなぬいぐるみが5,000円だけ値引きされている、時限爆弾の赤い線を切ったら爆発するといった、あらかじめ決まっているオチ映像に向けて芸人たちがフリの映像を作る『ネタフリックス』(TBS系)。先月21日と今月11日の2回にわたって放送されたTBSの深夜番組「モクバラナイト」枠の特番が面白かった。

 MCは東野幸治と、今や大脚本家先生としても名高いバカリズム。先月21日の初回では、トレンディエンジェル、ハナコ・秋山寛貴、ロバート・秋山竜次、モグライダー・ともしげというメンバーが集まって、「高層ビルが崩壊する」というオチに対して思い思いのフリ映像を制作した。

 冒頭、バカリズムが「笑いで終わらなきゃいけないから大変だと思う」と、さらっと企画の大原則を発表。あくまで「お笑い」であるという縛りを与えて逃げ道をふさいだことで、番組そのものに、にわかに緊張感が生まれている。

 トップバッターはトレンディエンジェル。唯一のコンビ出演だが、「漫才師だもんね」と映像制作に関してはMC陣も怪訝な表情。確かに、あまりこういう類の企画に呼ばれる印象はない。だが、映像ではトレンディならではの展開でオチにつなげ、安直な展開とヘタな演技に呆れられつつも納得させるネタフリになっていた。「こういう番組ですよ」と説明する役割は十分に果たしている。

 続いては、「ちゃんとした人を1回見たい」というバカリズムの希望でハナコの秋山。思い出すのは、2019年3月に放送された『ネタドラ~漫才・コントを原作にドラマ化~』(日本テレビ系)である。自分たちのコントをドラマ化するという番組で、ハナコの「結婚式」コントを換骨奪胎し、分厚い長尺ドラマに仕上げていた。まさに、今回の『ネタフリックス』にうってつけのキャスティングである。

 と、無邪気に期待を抱いてしまうところだが、そこは東野とバカリズムである。ハナコアキヤマを「コント好青年って感じ」「それを恥ずかしげもなく出す」「青春感」「まっすぐキラキラして」と悪イジリしてハードルを下げることも怠らない。

 秋山のネタフリは、自身が無感情な爆弾魔となり、遠隔でビルを爆破する映像からスタート。一度、オチとなるビル崩壊シーンを見せておいて、時間を巻き戻すという倒叙式である。3分弱のお笑い映像で倒叙を採用するあたりも、クリエイターとしての「青春」を感じさせる。

 本格的な撮影と凝った展開にMC2人は「コント青年すごいねんって!」と大喜び。だが、オチにたどり着くころには「素晴らしい!」「美しい!」と2人とも拍手を惜しまなかった。ちなみに大河俳優・岡部大は出演しているが、菊田竜大は呼ばれていなかった。秋山は、企画に対して完璧な回答を出したという印象だ。

 続くロバート秋山は、自身がコスプレとメイクで架空の人物になり切る「クリエイターズ・ファイル」と『マジ歌』のハイブリッドといった趣。崩壊するビルをバブル期に建てられた苗場のリゾートマンションに見立て、まさにバブルの生き残りのような初老男性「鳥沢タカミツ」がロマン歌謡を歌い上げるという、これまた秋山らしいネタフリだった。

 トリはともしげ。脚本演出に関してはまったくの未知数で、よくキャスティングしたものだと思うし、ちゃんとともしげらしく仕上がっていたところに小さなミラクルを感じる。もうこれはオチも言ってしまうと、ともしげの巨大なおならでビルが崩壊するというベタな展開である。

 クオリティとしてはダブル秋山よりだいぶ落ちると感じられたが、バカリズムは「小学生みたいな発想ですよね、ピュアと言うか」、東野も「子どもが見たときにめちゃくちゃ笑ってるかもしれない」「子ども50人集めて、我々との判定の違いは知りたいよね」と、急にキャスティングの核を突く発言。確かに、ダブル秋山の作品は「さすがですネ」という出来だが、ハナコ秋山の映像は倒叙によるタイムリープサスペンスのパロディであることが理解できないと笑えないし、ロバート秋山に関してはバブル期に日本各地にリゾートマンションが乱立し、その価値が暴落しているという不動産事情に加えて、バブル期の人物像が入っていないと何が何だかわからないものだった。

 結果、グランプリ作品はロバート秋山になったが、単にお笑い好きに向けただけでなく、笑いの多様性を見せようという上品な意図に好感が持てる第1回だった。

 その第2回、11日の放送分は、さらにふるっていた。ハナコ秋山は真骨頂ともいえる青春感全開の「ほっこり終わり」を見せ、今回から参加したかもめんたる・岩崎う大がなんとなく期待を裏切り、友近とくっきー!が「笑いの多様性を見せようという上品な意図」を根底から破壊するような、対象年齢極狭なネタで好き勝手に暴れ、東野も「くっきー!と仕事するってことは、そういうことなんですよ」とまとめるしかなかった。

 それぞれのネタフリ映像もさることながら、特番2回できっちり起承転結している気持ちのいいバラエティを見た。2回ともまだTVerに残っているので、チェックしてみてほしい。

(文=新越谷ノリヲ)

新越谷ノリヲ(ライター)

東武伊勢崎線新越谷駅周辺をこよなく愛する中年ライター。お笑い、ドラマ、ボクシングなど。現在は23区内在住。

n.shinkoshigaya@gmail.com

最終更新:2024/01/13 18:00
ページ上部へ戻る

配給映画