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日刊サイゾー トップ > エンタメ > お笑い  > 【バラエティ正月特番レビュー前編】

M-1王者の極上即興漫才『吉田粗品の選択』インテリと酒の相乗効果『川島明の辞書で呑む』【正月特番レビュー前編】

TVer

 今年もお正月には数々の特番バラエティが放送された。とても全部をチェックできる量ではないが、幸いにもTVerでの配信が1週間あるので、ここでは見逃していたらもったいない特番をいくつか紹介したい。この土日に、お暇ならどうぞ。

■『吉田粗品の選択』(テレビ朝日系)

 2日に放送された『吉田粗品の選択』(テレビ朝日系)。ブラックマヨネーズ・吉田敬と霜降り明星・粗品の「M-1王者」2人によるトーク番組だ。めちゃくちゃに面白くて、ちょっと嫌われている吉田と粗品の冠番組をお正月に放送するテレビ朝日の胆力に、まず恐れ入るところである。

 ギャンブラーとしても知られる2人が、一般アンケートの回答から多数派を当てるという企画だが、軸となっているのはさまざまなテーマに対する2人のトーク。「第1レース」は、既婚者男性100人に聞いた「どっちが修羅場?」。選択肢は「家に帰ると妻が浮気している」「自分の浮気現場に妻が踏み込んでくる」というものだった。

 ちなみに吉田は若いころは盛んな女遊びで知られていたが、現在は東京でのコンビ活動を縮小し、家族のために大阪に拠点を戻して活動している。粗品は昨年春に離婚したばかりだ。

 吉田は「男の浮気は路駐」だとして、許されるべきだと発言する。男の浮気に寛容であるべきだという過去の発言VTRまで引っ張り出され、どんどんテレビ映りが悪くなっていく。ところが、途中から「妻の浮気相手がモーガン・フリーマンなら許せる」と言い出し、ここから番組の見どころは吉田と粗品の即興漫才になっていく。

 その後もいろいろなテーマについて語り合う2人。歪んだ思想が歪んだまま発展していき、不思議と真理にたどり着くよっさんトークが、粗品という最高の聞き手を得て生き生きと展開される。こういう吉田のトークを関東で聞ける機会は少ない。お正月から、実に贅沢な番組だった。

■『川島明の辞書で呑む』(テレビ東京)

 辞書を持ち寄り、「日本語をあてに酒を呑む」という、ちょっとアカデミックな匂いのする『川島明の辞書で呑む』も、2日の放送。川島に加えて、上智卒のラランド・サーヤと法政卒のマヂカルラブリー・村上、それにDOTAMA、モモコグミカンパニー、麻布競馬場という狙い澄ましたキャスティング。安定と信頼のMC川島と、ちゃんとした辞書の編纂者と三省堂の出版部長が横で呑んでいて、いつでも解説してくれるという配置も万全である。ラランドのニシダもちらちらと店員役で映り込んでいるが、この時点で紹介はない。

 最初の単語は「あえか」。「かよわく、美しい」という意味だそうだ。「あえか」という言葉の意味から、時代による使われ方の移り変わり、さらには「あえか」を使ったネルソンズ・和田まんじゅうの文例コントと、丁寧にひとつの単語を解説し、そこから川島の回しでトークしていくという流れになる。

「あえか」を実写化するなら誰か、サーヤが西田尚美、麻布競馬場は夏帆を候補に挙げる。川島が夏帆を「80あえか」と数値化したことでトークが展開し、結局、空想上の「雪女」が「100あえか」だという結論に至る。実にどうでもよく、楽しい居酒屋話だ。

「あやかりもの」は「自身もそうなってみたいと思うような、しあわせの頂点に居る人」。サーヤと村上は次々に「川島さんだ」と言い出す。村上の「朝の帯をやっているのに芸人にバカにされてない」という意見は、実際に酒が入っていなければもう少しマイルドになっていただろう。

 サーヤが「言われたら嫌だな」という言葉として「あちゃらか」を選ぶ。「笑わせるだけで、あとに感動・余韻・すがすがしさなどを残さない俗な芝居」という意味だ。「ボロカス書かれてる」と嘆くサーヤに、川島は「我々の理想やけどね」と返す。村上が「吉田ヒロさんですかねえ」と追加し、「なんかようわからんけど、おもろかったでええ」という川島の意見に3人は納得する。

「あちゃらか」の語源は「あちら化」の訛ったもので、チャップリンやバスター・キートンのドタバタ喜劇のような「内容のないもの」を指した言葉だったのだという。チャップリンがその後、喜劇に内容を入れまくったことを知っている現代人にとっては、また「あちゃらか」も違う響きを持ってくる。

 この番組は冒頭で「あ」だけで今回を終わり「あと50回やりたい」といって始まったが、実際に「あ」から始まる単語だけで1時間を埋めている。川島、村上、サーヤ(+ニシダ)の3人と先生2人が機能しまくっていたので、この3人にゲストを迎える形でレギュラー化してくれたらいいな、と思った特番だった。

(文=新越谷ノリヲ/後編に続く

新越谷ノリヲ(ライター)

東武伊勢崎線新越谷駅周辺をこよなく愛する中年ライター。お笑い、ドラマ、ボクシングなど。現在は23区内在住。

n.shinkoshigaya@gmail.com

最終更新:2024/01/06 16:00
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