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『ブギウギ』とジャニー喜多川の関係

NHK朝ドラが描かない笠置シヅ子の不都合な真実とタブーな実像【後編】

NHK朝ドラ『ブギウギ』が評判になっているが、昭和の人気歌手・笠置シヅ子がモデルと公言していながら、そのままでは放送できないエピソードもありそうだ。ほかにも人気を博した朝ドラモデルたちの実際の人生を調べてみると、驚きの真実が続々と……。
(初出:サイゾー2024年2月号『エンタメの新タブー』より)
前編はこちら

吉本興業との驚きの関係

 シヅ子については、もうひとつ朝ドラと関係の深い事実がある。『ブギウギ』の第1回の冒頭で、ヒロインはシングルマザーとしてひとり娘を育てながら歌手活動をしたことが紹介されたが、シヅ子がひとりで育てた娘の父親というのが、吉本興業の創業者・吉本せい(1889~1950)の息子である吉本穎右であり、笠置の娘の祖母であるせいは、2017年に放映された朝ドラ『わろてんか』で葵わかなが演じたヒロイン・北村てんのモデルになっているのである。

 しかし、『わろてんか』には、シヅ子をモデルとした人物は登場しない。穎右をモデルにしたとおぼしき人物は登場するのだが、その恋の相手はシヅ子とはまるで違った人物像に変えられていたのである。これはどうしたことであろうか?

 実際のシヅ子と穎右の恋愛がどういうものだったかというと、『笠置シヅ子自伝 歌う自画像 私のブギウギ伝記』(宝島社)によれば、年下の早稲田大学の学生であった穎右のことを弟のように思って付き合っていたところ、いつの間にか人目をはばかりながら逢瀬を楽しむようになったということらしい。妊娠したものの入籍には至らないまま穎右は、エイ子と名付けられた長女出産のわずか10日前に急死。認知すべき父親が死亡したため、その後の入籍も難しくなってしまったらしい。

 そのあたりの経緯について、笠置シヅ子本人が、後年「女性自身」(1968年5月20日号/光文社)で、ジャーナリスト・草柳大蔵(1924~2002)のインタビューに次のように答えている。

草柳 あらためてうかがいますが、吉本家は穎右さんとの結婚を、なぜみとめなかったんです?

笠置 わかりません、いまだに。ただ、あの当時、生まれたエイ子を実子と認知させる方法もあったんです。双方から十人ずつ人を立てればできるというてくれはる弁護士さんがいました。そやけど、そんなことしたら“事件”になって新聞に出ますやろ。それが、私が舞台にもどるための宣伝と思われたくなかったんです。主人とのことは、もっと純粋でありたいと思ったんです、私は。

『女興行師 吉本せい』(中公文庫)によれば、せいが穎右とシヅ子の仲を認めようとしなかったのは、踊り子風情と最愛の息子を一緒にさせるわけにはいかないとする思い上がりからだったと言う人もいたそうだが、真相は不明のようだ。『わろてんか』では事実と大幅に異なるストーリーに変えられていたようだが、『ブギウギ』では、水上恒司演じる村山興業の御曹司・村山愛助との純愛と、愛助の母であり、小雪演じる村山興業の社長・村山トミとの対決も話題になった。

『花子とアン』にも意外な真実が

NHK朝ドラが描かない笠置シヅ子の不都合な真実とタブーな実像【後編】の画像1
『花子とアン』 放送:2014年前期 原案:村岡恵理『アンのゆりかご 村岡花子の生涯』 出演:吉高由里子、仲間由紀恵、室井滋、鈴木亮平、黒木華 ほか 脚本:中園ミホ 演出:柳川強、松浦善之助 ほか (絵/河合 寛)

 朝ドラの主人公は大正から戦前、戦後にかけての著名人がモデルにされることが多く、別の作品のヒロイン同士に交流があったというケースも少なくない。

 14年の朝ドラ『花子とアン』は、『赤毛のアン』の翻訳者である村岡花子(1893~1968)をモデルにした物語で、吉高由里子がヒロインを演じた。その原案であり、花子の孫である村岡恵理が書いた『アンのゆりかご 村岡花子の生涯』(新潮文庫)には、広岡浅子(1849~1919)という年上の実業家に紹介され、女性たちの勉強会に参加する箇所がある。この広岡は、15年の朝ドラ『あさが来た』で、波瑠が演じたヒロイン、白岡あさのモデルである。しかし、『花子とアン』に広岡が登場したり、『あさが来た』に花子が登場するということはなかったようで、1本の朝ドラに2人のヒロインを出させないようにしているのかもしれない。

 その『花子とアン』であるが、ヒロインの夫で鈴木亮平が演じた村岡英治という人物は、村岡花子の夫・村岡儆三がモデルだ。ところが、この儆三は、花子と知り合ったときは既婚者だった。それどころか子どももいたようで、『アンのゆりかご』には次のような記述がある。

「儆三は大正4年(1915)、指路教会の信徒であり、親同士が仕事上の繋がりもある江川幸と結婚した。式は、教会関係者や会社関係者たちから多くの祝福を受けた。(中略)

だが、翌年、長男嘉男を授かってまもなく、幸は結核を発病し、療養のため実家に帰った。その時期、新しく立ち上げた銀座店の運営に忙しかった儆三は家を引き払い、幼い嘉男を兄の十太夫婦に預け、神田で一人暮らしを始めた。」

『花子とアン』でも、儆三をモデルにした村岡英治は既婚者ということになっていたが、花子のことを知った妻が身を引くというエピソードがさらっと描かれ、子どもの存在はぼかされていた。

 また『花子とアン』には、仲間由紀恵演じる花子の友人の葉山蓮子という人物が登場するが、これは村岡花子の友人の旧華族であり歌人・柳原白蓮(1885~1967)がモデル。夫である九州の炭鉱王・伊藤伝右衛門のもとから愛する男性のもとに走り、新聞上に夫への絶縁状を公開した白蓮事件で有名な人物だ。このいきさつは『花子とアン』でも描かれ、伝右衛門をモデルにした嘉納伝助を演じた吉田鋼太郎がブレイクするきっかけになったが、次の夫となった宮本龍一をモデルにした宮崎龍介が、孫文の盟友としても知られる社会運動家の宮崎滔天の息子であることは描かれなかった。そのあたりの関係は朝ドラにするにはややこしすぎるというか、わかりにくくなってしまうと思われたのかもしれない。

 また、白蓮は、戦後皇太子妃が現在の上皇后である美智子さまに決まった際には、旧華族として猛烈に反対したという話が伝わっている。このあたりも現在の視聴者からすると好感を抱けないエピソードで、朝ドラに反映されなかったのも当然といえそうだ。

『らんまん』牧野博士の女好きエピソード

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『らんまん』 放送:2023年前期 出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣、笠松将 ほか 脚本:長田育恵 演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志 (絵/河合 寛)

『ブギウギ』の前に放映されていた『らんまん』にしても、神木隆之介が演じた主人公・槙野万太郎のモデルとなった、植物学者・牧野富太郎(1862~1957)には、きわどい話がいろいろとある。

 そもそもドラマでは、浜辺美波演じる妻・寿恵子とは、万太郎が20歳のとき、17歳の寿恵子と結婚したことになっているが、伝記『牧野富太郎 花と恋して九〇年』(青土社)によると、富太郎が一目ぼれして妻となる壽衛と一緒に暮らし始めたのは、遅くとも明治20年12月、当時富太郎が25歳、壽衛が14歳のときだと推定できるという。14歳で結婚というのは、今の常識からすると……ということで変えられたのだろう。

『らんまん』では、ひたすらに純粋な人物として描かれていたが、実際の富太郎は遊興とまったく無縁の人生を送ったわけではないようだ。『牧野富太郎~』によると、大正5年、富豪・池長孟は多額の借金に苦しんだ富太郎が採集した10万点の植物標本を3万円で買い取った上で、改めてすべての植物標本を富太郎に寄贈する、という形で援助し、それによって富太郎は借金から解放された、としている。すると、兵庫の色街・福原で遊興している富太郎の姿がたびたび見られるようになったという。借金返済と研究支援のために池長から提供された3万円のうち、遊郭で数百円を使ったことが噂になり、富太郎と池長の関係は急速に悪化。さらに、富太郎が神戸に宿泊する際には須磨にある池長家の別荘が使用され、富太郎の身の回りの世話をするために、池長家のメイドが常駐したが、富太郎はメイドに対しよからぬ行為に及び、池長は富太郎への支援を打ち切ったという。大正5年といえば、富太郎は54歳頃。植物採集のため日本中の山野を駆け巡った富太郎は、精力もなかなか盛んだったようである。

 こうして見ると、朝ドラのモデルとなった人物の実像は、ハートウォーミングな話にウォッシングされているドラマ上よりも、さらに面白そうでもある。歴史に残る功績を残した人物は、大体常人ではあり得ないエネルギーを持っているもの。心温まるエピソードばかりの人生ではないのが必定なのだから、時には事実に即したドロドロ愛憎劇の朝ドラも見てみたいものだ。

【コラム】シヅ子と吉本興業の関係 山崎豊子作品のモデルになった朝ドラヒロイン

 本文中にあるように、今期朝ドラ『ブギウギ』のモデル・笠置シヅ子の娘の祖母、つまり事実上の義理の母にあたるのが、吉本興業の創業者であり、『わろてんか』のモデルにもなった吉本せいである。

 この吉本せいをモデルにし、1958年の直木賞を受賞したのが、『白い巨塔』などで知られる山崎豊子の出世作『花のれん』。多加という名前のヒロインが、道楽好きで働かない夫を見て、いっそ道楽を商売にすればと寄席を買い取り、暑い中寄席を観にくる客のために冷やし飴を売るなどのアイデア商売で成功し、夫亡き後も興行師として奮闘するさまが描かれている。

「婦人公論」(中央公論社)66年8月号に掲載された笠置シヅ子のエッセイ「ブギウギから二十年」によると、シヅ子と穎右の間の子ども・エイ子も「『花のれん』のモデルが自分の祖母だといわれると、くすぐったそうな顔をしています」とのこと。シヅ子と吉本興業の関係は、当人たちの在命中から世間周知の事実だったようである。

里中高志(ジャーナリスト)

フリージャーナリスト。精神保健福祉士。メンタルヘルスと宗教を得意分野とする。著書に『栗本薫と中島梓 世界最長の物語を書いた人』(早川書房)、『精神障害者枠で働く』(中央法規出版)、『触法精神障害者 医療観察法をめぐって』(中央公論新社)。

最終更新:2024/01/01 15:01
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