『光る君へ』で紫式部の「清少納言とのライバル」と「藤原道長の愛人」関係はどう描かれる
#光る君へ
1月7日より紫式部(吉高由里子)を主人公としたNHK大河ドラマ『光る君へ』がスタートするが、そもそも紫式部自身についてわかっていることは非常に少ない。「紫式部」という名前も父が式部卿であったことからくる通称で、本名すら明らかになっていないが、今回の『光る君へ』では、「まひろ」という名前だったことになっている。
では紫式部とは、どのような人物だったのだろうか。数々の歴史小説を手がけ、近頃『紫式部の言い分』(ワニブックスPLUS新書)を刊行した作家の岳真也氏は次のように話す。
「紫式部の書いた『源氏物語』は早くから宮中でも評判になっていましたが、同時に紫式部は宮中でやっかみも受けていたと考えられます。当時の女性は漢文が読めないことが普通だったのですが、それを紫式部が読みこなせることが評判になると、彼女は『そんなことはありません。私は一という漢字も読めないですよ』と謙遜しています。このように紫式部はナイーブで気を遣う女性だったことが窺われると同時に、一方で非常にがんこでプライドの高い女性でもあったと私は考えています。それがよく現れているのが、清少納言との関係です」
清少納言(ファーストサマーウイカ)は藤原道隆の娘・定子(高畑充希)のサロンに所属していたのに対し、紫式部は藤原道長の娘・彰子(見上愛)のサロンに所属していた。ふたつのサロンは競争関係にあったが、紫式部は清少納言について、『紫式部日記』のなかで、「利口ぶって漢字を書き散らしているけど、学識は足りないところだらけ」などとボロクソにけなしている。
「紫式部はほかにも清少納言について、『個性ばかりに走る人はやがて必ず見劣りする』などと批判しており、その書きぶりは感情的ともとれます。華やかな『定子サロン』での文筆が評判になった清少納言に対し、激しい対抗意識を持っていたのかもしれません」
また、今回物語の軸となりそうなのが、紫式部と藤原道長(柄本佑)の関係だ。NHKの公式サイトのインタビューで、今回脚本を担当する大石静は次のように質問に答えている。
――まひろと道長との関係は、どのように描いていこうと思われていますか。
まひろと道長とでは身分がまったく違うし、本来は随分離れた立ち位置に二人はいたであろうと思います。けれども、人生の初めのころから二人のつながりが何かしらないと、物語を1年間描いていくのは難しいと思ったので、プロデュ―サーや演出と知恵を絞りあって二人の関係を構築しました。序盤は通常の大河ドラマよりラブストーリー要素が強いかもしれませんが、一方で当時の政治劇も色濃く描きます。
紫式部は29歳頃に、すでに数人の妻がいた年上の藤原宣孝(佐々木蔵之介)と結婚するが、32歳頃に死別している。当時から『源氏物語』を書き始めるとそれが評判となり、宮中に上がって、藤原道長の娘である彰子に女房として使えるのだが、紫式部と藤原道長の関係については愛人関係にあったとの説が古くから取り沙汰されてきた。実際はどうだったのだろうか?
岳氏は、次のように見解を述べる。
「藤原道長が紫式部に言い寄った歌は確かに残されていて、それをもとに愛人説が喧伝されているのですが、これに対して紫式部がキッパリと断った返歌もきちんと残されています。私は紫式部と藤原道長の関係は、実際の愛人関係ではなく、心と心の通い合うソウルメイトのようなものだったと考えています」
それにしても、そもそも平安時代の恋愛とはどのようなものだったのだろうか。一夫多妻制であることから、男性優位の恋愛が行われていたと思われがちだが、岳氏はこのように述べる。
「この時代は『通い婚』といって、男性が女性の家に通う結婚形態が一般的。そこに至るまでには和歌をやりとりして、女性から色良い返事があれば実際の関係へと進むわけです。ある意味女性に主導権があったとも言えるし、ひとりの女性のもとに複数の男性が通っていたケースもしばしばあったと考えられますから、我々が想像するよりもずっと自由恋愛の社会だったのではないでしょうか」
女性の意志が尊重され、自由な恋愛が行われていたとすれば、現代にも通じる心ときめくラブストーリーが『光る君へ』でも期待できるかもしれない。果たしてどのような男女のドラマが繰り広げられるのだろうか?
岳真也(がく・しんや)
1947年東京生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院社会学研究科修士課程修了。2012年歴史時代作家クラブ賞実績功労賞、2021年『翔 wing spread』(牧野出版)で第1回加賀乙彦推奨特別文学賞を受賞。代表作に『水の旅立ち』(文藝春秋)、『福沢諭吉』(作品社)、ベストセラーとなった『吉良の言い分』(小学館)。最近の作品は『行基』(角川書店)、『織田有楽斎』(大法輪閣)、『家康と信康』(河出書房新社)など。現在、著作は170冊を超える。日本文藝家協会理事。
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事