『M-1グランプリ』で「歌ネタ不利」は本当か? 過去の歌ネタを振り返る
#M-1グランプリ
24日に行われた『M-1グランプリ』(テレビ朝日系)で大きな話題になったのが「歌ネタ」についての審査員からの苦言だった。
今回、8番手に登場したダンビラムーチョが、冒頭からBUMP OF CHICKENの名曲「天体観測」を長々と歌うネタを披露。準決勝では大ウケだったが、本番ではハマらず得点が伸びなかった。
審査員の中川家・礼二は「歌ネタ以外を聞きたかったです。歌ネタって一般的に、ちょっと漫才師としては作りやすいんで」とコメント。10回目の『M-1』挑戦で初めてファイナルに残ったダンビラムーチョにとって、その準決勝を勝ち抜いた歌ネタを本番で捨てろというのは、なかなかシビアな提言であった。
また、錦野旦の「空に太陽がある限り」をモチーフにした10組目のモグライダーについても、博多大吉が「歌ネタの宿命というか、歌詞とか展開をお客さんは分かってるので、それをどう乗り越えていくか」とコメントするなど、いかにも「歌ネタは『M-1』に向かない」といった印象が残る大会となった。
ここでは、本当に『M-1』では歌ネタが不利なのか。過去に歌ネタを披露した漫才師について、その結果を検証してみたい。ちなみに、今年の敗者復活戦を突破したシシガシラも、そのステージでは歌ネタを披露していた。21組中、唯一の歌ネタコンビだ。不利じゃないのか。
■たぶん「歌ネタ」が不利じゃない
昨年、ヨネダ2000がリズムネタから歌ネタにシームレスに変化していく「餅つき」を披露し、647点の高得点を記録。審査員全員が90点オーバーを与えている。塙宣之は自己最高の96点。礼二と大吉は90点、91点と決して高評価ではないが、「歌ネタだから」というコメントはなかった。
2021年のトップバッターはモグライダー。美川憲一の「さそり座の女」をモチーフにした、正真正銘の歌ネタである。637点は当時のトップバッターにおける最高得点であり、モグライダーは大会を盛り上げた功労者として大きく評価を上げ、翌年には大ブレークを果たしている。
20年、ファーストラウンドで2位に10点差をつけてトップに立ったのは、『M-1』史上もっとも歌ったのではのではないかと思われる、おいでやすこが。会場もめちゃくちゃにウケたし、礼二からは「歌ネタというのは入りやすいんで」と今回と同じような発言もあったが、実際には95点を入れている。
19年、トップバッターのニューヨーク。今回のダンビラムーチョの前に、『M-1』でスベッた歌ネタである。松本と屋敷裕政の「笑いながらツッコミが……」「最悪や!」のやり取りで有名な場面だが、歌ネタについての言及は特になかった。
少しさかのぼって16年、この記事で言いたかったのはこの回の話である。ファーストラウンド、銀シャリは「ドレミの歌」をテーマに堂々とした歌ネタを披露。審査員5人のうち4人が自己最高得点を入れて銀シャリがトップ通過。そのまま優勝を果たしている。だが、このときも礼二は91点というそこそこの評価。スーパーマラドーナと和牛に95点を入れている。
■歌ネタでもM-1王者になれる
賞レースにおいて審査員のコメントが翌年のネタの傾向に少なからず影響があることは間違いないだろう。特に、今年の敗者復活戦でめちゃくちゃおもしろい歌ネタを披露したシシガシラには、もう一度あのネタで挑んでほしいという思いもあって、この企画を作ってみた。
歌ネタについて結論をいえば、ウケれば優勝できるし、歌ネタだから評価されないわけではない、ただ、礼二はあんまり点数くれないかも、というところだった。
過去には『キングオブコント』(TBS系)でニッポンの社長が松本人志に「暗転が~」と指摘されたり、いぬが飯塚悟志に「キスが~」と言われたりしたことで、芸人界がざわついたこともあった。
賞レースの審査コメントによって、翌年以降の芸人のネタ選びに制限がかかる状況になるのは、非常に好ましくない。審査員だって人間であり、難しい審査を行っている生放送中に突然振られるコメントにブレが生じるのもごく自然なことだろう。「キス」がルール違反でカゲヤマの「おしり」がOKな飯塚さんの性癖も気になるところだ。
いずれにしろ、私たちはいろいろなネタが見たいので、あんまり気にしないでがんばってほしいと思います。人生かかってるし、なかなかそう簡単な話でもないと思いますけど。
(文=新越谷ノリヲ)
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