『M-1』敗者復活戦のシシガシラ「この日いちばん面白いヤツが勝った」という奇跡
#M-1グランプリ #シシガシラ
ずっと、こんな敗者復活戦を待っていたのかもしれない。2015年に『M-1グランプリ』(テレビ朝日系)が復活して以降、敗者復活戦は一般視聴者投票に結果が委ねられてきた。年々、予選の審査にガチ感が増していく中、敗者復活戦だけは視聴者も芸人も、完全に納得できる結果を得られなかった。
理不尽に蹴られた芸人も、不可解な通過を果たした芸人も、みんな少しずつ不幸だった。視聴者投票は、視聴者をテレビの前に釘付けにできる。『M-1』があくまで競技ではなく年末のテレビバラエティである限り、そこは受け入れられるべきだとあきらめてきた。
マヂカルラブリーの野田クリスタルが、このところ方々で口にしている言葉がある。「M-1が、テレビより強くなった」。つまりは商売よりも、理念が優先されるようになってきたということだ。その結果なのだろう、いよいよ敗者復活戦も公平を求めて、大幅なルール変更を迎えた。
24日午後、東京・西新宿の屋内ステージで新しい敗者復活戦が幕を開けた。
■Aブロック ヘンダーソン
準決勝は各審査員が得点を付けており、おそらく点数の低い順にブロック1番手から振り分けられている。準決勝で得点の高かったコンビが後半に出てくるという仕組みだろう。
ノックアウト方式なので当然、出順が後ろの方が有利になるが、そういう順番なら公平性も保たれている。
Aブロックは崋山、ぎょうぶという漫才劇場勢から始まり、3番手のロングコートダディがまずインパクトを見せる。これまで2回のファイナルでは大きく動くコント漫才を披露していたが、この日はしゃべくりからスタート。そのまましゃべくりで終わるかと思いきや、それを伏線にしてコントで回収するという二段構えの凝ったネタを見せた。準決勝ではややコケだったが、ここで貫禄を見せる。
そのままクオリティでAブロックを突破してもおかしくない出来だったが、6番手のママタルトがテンションと最新の時事ネタを取り入れた大オチで殊勲の勝利。さらに7番手のヘンダーソンが気迫で上回った展開。ヘンダーソンの子安裕樹は準決勝でラストイヤーラストイヤー言い過ぎてたの、誰かに怒られたのかな。
■Bブロック ナイチンゲールダンス
Bブロックは荒れた展開。ゴリラが爆笑を取ったと思えば、キモコンビがそれを圧倒し、ホントにウンチしてるデブをロン毛の横で大暴れした汗だくデブが倒す。中盤まで動物園のような景色が続いた。ちなみに豪快キャプテン、鬼としみちゃむ、スタミナパン、トム・ブラウンです。
これをエバースがいかにも正統派な漫才で下して場を整えたところに、満を持してのナイチンゲールダンス、オズワルド。最終的には2組の一騎打ちになった。オズワルドの敗退となったが、変にバイアスもなく公平な結果だったと思う。
■Cブロック シシガシラ
3番手に登場したシシガシラの歌ネタが出色。めちゃくちゃいいネタでびっくりした。終わった瞬間「これをファイナルでやってほしい」と思った。
ダイタクのお父さんが新たな戦績を積み重ねていたのも面白かったし、ななまがりのラストイヤーもななまがりらしくてうれしくなった。フースーヤもよかったけどな。
シシガシラのネタがよすぎて、子どもみたいな感想になっちゃった。
* * *
芸人審査員の投票はシシガシラ4票、ヘンダーソン1票で、シシガシラがファイナルへ。
このネタを1本目に出したら、2本目も別系統のハゲ(実際1本目にやったネタ)もあるし、下手したら優勝もあるぞと思っていた。これでシシガシラが優勝したら、やれコンプライアンス重視時代の新たなアレがどうこうとか、そういう話になっていくのかなと思ったし、2人とも泣くだろうし、みんな驚くだろうし、すごい『M-1』になりそうだとワクワクした。
そんなシシガシラがファイナルでコロッと負けるのも、また『M-1』の恐ろしさであり、楽しさでした。
ともあれ、敗者復活における今日イチのネタは間違いなくシシガシラだったので、勝ち抜けたことが本当にうれしかった。ネタ選びによっては別のコンビが進んでも全然おかしくなかったと思うが、今日イチが抜けたということが何より大きな意味がある。
敗者復活、来年もこのシステムでいいと思います。『M-1』楽しい。
(文=新越谷ノリヲ)
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