『M-1グランプリ』漫才頂上決戦を彩ってきた歴代事件簿【2019-2022】
#M-1グランプリ
(【2001-2004】/【2005-2007】/【2008-2010】/【2015-2018】)
■2019年 第15回大会
10組中7組がファイナル初出場となった年。予選段階から「ヤバすぎ」と評判だったコーンフレークでミルクボーイが史上最高得点を獲得し、そのまま優勝をさらった。この年、テレビでネタを披露したのは『M-1』が初めてだったという、まさにドリームを実現した2人。ネタ後に見取り図の盛山晋太郎から「これで一生漫才できる」と称えられていたのが印象的だった。
・敗者復活戦で、新旧入り乱れ
ラランド、四千頭身、くらげ、ロングコートダディが初の準決勝進出で敗者復活戦に出場。ラランドはこのステージで爪痕を残してファイナルに進むことなくブレークを果たし、くらげはこの後もシステム漫才を開発し続けて、ようやく今年ファイナルに到達。四千頭身は一度売れ切って今後の方針を模索する段階まで来ており、ロングコートダディは今や漫才・コントを問わず賞レース常連組に。この年に頭角を現したコンビが続々と活躍の場を広げている。
一方で、東西の若手から厚い信頼を集めていた2組がラストイヤーを終えた。
2番手に登場した囲碁将棋は6回目の敗者復活戦。最下位に沈み、2人のブレークは今年の『THE SECOND』(フジテレビ系)まで待たなければならないことに。
3番手の天竺鼠もこの年がラストイヤー。こちらは8度目の敗者復活戦となる。川原克己がいつになく熱のこもった暴れっぷりを見せたが、5位で敗退。天竺鼠が『M-1』決勝に出られないままラストイヤーを終える世界線だったんだなぁと、しみじみしてしまった。
・ニューヨーク、売れた
トップバッターで松本人志に82点をつけられ落ち込むニューヨーク。審査コメントでは上沼恵美子が自分のCDをアピールするくだりを苦笑いで眺めていたが、松本が「ツッコミがね、笑いながら楽しんでる感じが、僕はあんまり好きじゃないんです」としゃべり始めると、屋敷裕政が「最悪や!」と絶叫。その後も不貞腐れ続け、今田耕司との絡みを大いに盛り上げた。長くネクストブレーク枠にとどまっていたニューヨークが、ようやく跳ねた瞬間だった。
・すゑひろがりず、売れた
NSC在学中に『M-1』準決勝に進んだ経験のある三島達矢と、1年目から『クイズ!紳助くん』(ABCテレビ)のロケレギュラーだった南條庄助。抜群のスタートダッシュの後、暗黒期を迎え、紆余曲折を経て和装にたどり着き、ようやくファイナルにコマを進めてきた。配信では音楽が差し代わっているためわかりにくいが、本番登場時のファットボーイスリムに完全にシンクロするリズムで南條が鼓を叩いており、この瞬間、すゑひろがりずは会場の空気をつかんでいた。南條は翌春の『R-1ぐらんぷり』(フジテレビ系)でも決勝に進出。その後、『あつまれ どうぶつの森』のプレイ実況で若年層にも支持層を広げ、ブレークを果たしている。
・ぺこぱ、売れた
この年の正月に『おもしろ荘』(日本テレビ系)で優勝するも、5月には所属していたオスカーがお笑い部門を廃止。サンミュージックへ移籍し、松陰寺太勇は和装からスーツに衣装も変え、ようやくたどり着いたファイナル。移籍はカンニング竹山の尽力、衣装替えはナインティナイン・岡村隆史の進言とされているが、その両方にオスカー時代の兄貴分・TAIGAさんが大きくかかわっていたことは、あまりよく知られていない。
ファイナルでは9組目まででミルクボーイ、かまいたち、和牛が上位3組を占めており、付け入るスキはないものと思われていたが、2人は思いのほか躍動。和牛を暫定席から蹴落とし、最終決戦に臨んだ。最終決戦直前、「M-1楽しいぃ~!」と満面の笑みをたたえていたシュウペイの姿が印象的だった。
■2020年 第16回大会
コロナ禍により、大会開催そのものが危ぶまれた年。1回戦は無観客、3回戦を省くなどの対策を経て開催された。17年に審査員・上沼恵美子に怒鳴り散らされたマヂカルラブリーが、その一連を伏線として見事に優勝。せり上がりの土下座で、観客のボルテージは確実にひとつ上がっていた。
・Dr.ハインリッヒ、準々決勝敗退でカリスマに
ラストイヤーを迎えていた関西の女性双子コンビ・Dr.ハインリッヒがNGKの準々決勝でバカウケしたものの敗退。そのネタ動画がGYAO!とYouTubeで配信されると、大きな反響を呼んだ。結果、この敗退がきっかけでファンを増やし、2年後のNGK初単独フルハウスにつなげている。
・東京ホテイソンに『M-1』の真実を見た
3年連続敗者復活だった東京ホテイソンがようやくファイナルまでたどり着くも、最下位に沈む。たけるの「い~や!」ツッコミは初めて準決勝に進出した17年から採用されており、翌18年には一旦システムの完成を見る。この時点でファイナルに上がれれば大きなインパクトを与えただろうが、準決勝で足踏みしたことで、そのスタイルはマイナーチェンジを強いられることになる。結果、この年のファイナルに上がってきた東京ホテイソンは、進化ではなく変形した形での全国デビューとなったように見えた。
『M-1』におけるシステム漫才は、一発で決勝に行って、そのまま突き抜けるしかないということを如実に感じる結果だった。それを実行したのが前年のミルクボーイであり、この年のおいでやすこがだった。
その東京ホテイソンも、今やテレビの露出数だけでいったら霜降り明星を凌ぐ世代トップ。実力のある人は、やっぱり売れるのである。
・なんかちょっとやだな、インディアンス
敗者復活戦を勝ち抜いたインディアンス。個人的にはゆにばーすだったが、まあ納得できる結果だった。だが、敗者復活と同じネタで挑んだファイナルで、同じところで噛んで同じツッコミが入るという部分があった。莫大な稽古量で知られるインディアンスだが、台本上に「ここで噛む」が入っているというのは、悪いことだとは思いませんけど、ちょっとやだなと思いました。
・『M-1』は、ちゃんとスベる
ほかのネタ番組と比べ、『M-1』はスベるネタは本当にスベると言われている。この年、8番手のアキナにその災難が降りかかった。順位こそ東京ホテイソンとウエストランドの上に来たが、現実は本人たちがいちばんよくわかっていたはず。その証拠に、翌年のアキナは方々で「M-1スベリ」をネタにして爆笑をさらっている。
■2021年 第17回大会
オズワルドが比類なき完成度でファーストステージを突破し、この時点で誰もが優勝を疑わなかったこの年。2本目で明らかにコケ、ジジィ2人組の錦鯉に凱歌が上がった。まさにライフ・イズ・ビューティフル。たゆまぬ努力の結果とは思わないが(特にまさのりさん)、美しい姿を見た。
・テレビスターのラストイヤー
え? まだ出れるの? という2組が敗者復活に顔をそろえた。17年大会を最後に『M-1』を無視し続けてきたハライチが「申請してみたら出れた」と言いながらラストイヤーとして出場。準決勝で敗退するも、敗者復活で金属バット、男性ブランコを抑えてファイナルに進出。敗者復活でのハライチは確かにウケており「このままだとハライチに行かれちゃうぞ~」と思いながら見ていたら、本当に行ってしまった。ファイナルでは、事前にラジオで匂わせていた新ネタを披露。大幅なタイムオーバーもあって大きな議論を呼んだが、もろもろひっくるめてカッコいい終わり方だった。15年前、笑い飯100点の直後に「子犬がひかれてたのを見たから、子犬を飼いたい」と言い出してドン引きされていた少年の最後の『M-1』である。
一方、千鳥を「大悟」「ノブ」と呼び、麒麟・川島明を「川島くん」と呼ぶ平子祐希のアルコ&ピースもラストイヤーで『M-1』挑戦。こちらは18年の準々決勝で平子が突然、酒井健太のプライベートを暴露するアドリブをかまして敗退して以来の参加となった。ラストイヤーを迎え、平子が『サラリーマン金太郎』を読んで胸が熱くなったのがきっかけだったという。敗者復活でもアルピーらしいネタを披露して散った。
そのほか、敗者復活ではヨネダ2000の「MyWay」とさや香の「からあげ4」がインパクトを残している。
・決勝がハイジアV-1
ランジャタイ、モグライダー、真空ジェシカ、錦鯉の他事務所勢に加えて、ゆにばーす、オズワルド、インディアンスと、東京地下劇場オールスターといった決勝メンバーになったこの年。大会2日前のハイジアV-1でのライブにほとんど同じメンバーが揃っていたといい、国崎和也は雑誌のインタビューで『M-1』当日を思い出し「控室はいつものメンバーで、扉を開けたら『M-1』だった」というロマンチックなコメントを残していた。
結果、8位のモグライダーと10位のランジャタイはともに大きな爪痕を残し、テレビの世界へ飛び込んでいくことになった。
■2022年 第18回大会
「アナザーストーリーをむちゃくちゃにしたい」というモチベーションで2度目のファイナルに上がってきたウエストランドが、その言葉を実現させる劇的な優勝。1本目で圧倒的な漫才を見せたさや香をうっちゃった年。「アナザーストーリー」はおもしろくないどころか、本年の井口のインタビュー素材がほとんどないという悲惨な出来だった。その腹いせか、井口は当時住んでいたマンションの全景を放送されていた。
・大波乱の予選
前年ファイナリストのももが3回戦敗退。最終決戦まで残ったインディアンスが準々決勝で敗退した。また、注目を集めたラストイヤー組の金属バットとランジャタイも準々決勝で姿を消した。この2組のワイルドカード争いになるとみられていたが、ランジャタイがコロナ感染で出場を辞退。結果、金属バットが準決勝に進んでいる。
・う大先生が怖い
13年の『キングオブコント』(TBS系)優勝以来、ほとんど漫才に手を付けていなかったかもめんたる。前年から『M-1』への参加を再開していたが、岩崎う大は「2年でモノになるはず」と周囲に漏らしていたという。その言葉通り、2年で準決勝まで上がってきた。ちなみに実績の芸歴がありすぎて準決勝でも敗者復活でも話せる友達がおらず、休憩時間は常に1人だったという。
・邦ちゃんの審査はどうだったのか
この年から審査員に加わった山田邦子。1番手のカベポスターに84点、2番手の真空ジェシカに95点を入れて、その格差が大きな話題となり、少なからず批判も浴びた。個人的には音符ネタの男性ブランコ86点のほうが「どうなの?」って感じだった。ちなみに1番手と2番手の格差だけでいえば19年に1番手ニューヨーク82点、2番手かまいたち95点を松本が入れている。
・「賞レースなんて手段なんだよ」
優勝したウエストランドが、その日の夜にYouTubeを更新。1本の漫才ネタ動画をアップした。「なんのために芸人をやっているか」という内容のネタの中で「賞レースで優勝したいから?」と問う河本太に、井口はこう答える。
「違うよ、手段だよ賞レースなんか。そんなの最大の目標じゃないよ」
繰り返すが、『M-1』の当日にこのネタをアップする準備をして大会に臨み、優勝してこれを言うのだ。こんな人が『M-1』優勝くらいで泣くわけがなかった。
(文=新越谷ノリヲ)
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